(文と写真 小俣雄風太)

OMMに挑戦したい人のための“CMM”

1968年にイギリスで「自分自身の山岳スキルをテストする場」として始まった山岳レース〈オリジナル・マウンテンマラソン〉(OMM)。ナビゲーション技術、走力、判断力、野営技術を問う2日間のレースは、日本でも2014年から開催されコアなアウトドアスポーツ好きの人気を集めている。

ただ、山に対する知識や経験が必要となるため、興味はあってもなかなか気軽にエントリーできないのも事実だ。参加した人たちはみな楽しかったと口をそろえる〈OMM〉。そのエッセンスを取り入れた、〈OMM〉にいずれチャレンジしたい人に向けての入門イベントを長野県伊那のバイクショップ〈CLAMP〉が企画した。

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〈CMM〉、「クランプ・マウンテンマラソン」と題されたこのイベントは本家〈OMM Japan〉お墨付きのエントリーレース。ルールは基本的に〈OMM〉に準じるが、参加者チームはランかバイクを選択でき、またキャンプ道具一式は事前に宿泊場所に置いておくことができるので軽装で臨むことができる。

〈CLAMP〉がセットアップしたルートは、山中だけでなく、伊那の町中にも各種チェックポイントが置かれている。オンロードだけでもポイントが取れるうえに、巡っていくうちに市内観光にもなるという仕組みだ。このあたりは、誰にでも楽しめるというイベントの趣旨が色濃く反映されている。

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「いつかは〈OMM〉」という思いを持つonyourmark編集部もこの機会に参戦。自転車は乗れるが山はシロートのわたくし小俣と、降雪で中断となった2019年UTMFを完走したバリバリのトレイルランナー高橋のペアで、2日間のレースに臨んだ。走ったら高橋についていけるはずもないので、バイクでエントリー。

ちょうどこの〈CMM〉の後に〈OMM LITE/BIKE〉が白馬で、そして11月には〈OMM〉が長野県霧ケ峰高原で行われるとあって、予行練習にと参加する方も多く見られた。親子での参加や、カップル、グループでの参加などレースでありながら和気藹々とした雰囲気。この雰囲気は〈CMM〉ならではだ。

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スタート前には、地図読み講習会が開催された。トレイルを日々走っている人たちなら常識なのだろうが、普段オンロードばかり自転車で走っている身としては知らないことばかり。コンパスの使い方も、こんなに奥が深いのかと唸らされる。

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スタート15分前に、チェックポイントが記された地図が配布される。これだけを頼りに、今日1日を走るのだが、遠いところや山の中といった難易度の高いところの配点は高く、逆に近場や町の中は配点が低い。近場を効率よく回るのか、遠いところまで高得点を狙いにいくのか、チームでの作戦が重要になる。東西に約12km、南北に約10kmの範囲にチェックポイントの数は、42個。

経験を積んだ者同士なら、自然とおおまかなルートが頭の中に描かれるのだろうが、こちらは全くの素人。ルート決めは山の経験が豊富な高橋にお任せする。とはいえ、高橋はバイクの行動範囲をまだつかめていない。この辺りお互いの強みを生かしたチームワークの発揮しどころだ。

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地図も読み込み、スタートを待っている間に雨が降って来きた。標高の高い伊那谷の初夏の雨は冷たくてなかなか堪えるものがある。〈OMM〉さながらのタフなコンディションの中、ランとバイク合わせ21チームがそれでも元気にスタートを切っていったのだった。

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DAY1 山岳レースのエッセンスと奥深さを知る

DAY1は東側の山を北上しながらポイントを稼ぐ作戦。南北に町が伸びる伊那谷は、必然、東西を山に囲まれている。そして山の中は、ポイントの配点が高いのだ。もちろんそれなりに登るのは厳しく、時にはMTBでも登れない箇所もある。このあたりは、等高線や地形図などで判断が必要だ。それがなかなか難しい…。

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体力こそあれ、普段は自転車に乗らない高橋はのっけからのオフロードライディングに少々面食らい気味。とはいえ、高得点を狙うには肉体的な疲労は覚悟しなければならない。〈CMM〉ひいては〈OMM〉の難しさ、そして楽しさはこんなところにある。全てはさじ加減。

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〈CMM〉はフォトロゲイニング形式をとっているので、チェックポイント毎に参加者とポイントで写真を撮る。チェックポイントは神社だったり、森林組合の看板だったり、道祖神だったりで観光以上に探検気分も味わえて楽しい。なんといっても、紙の地図で心もとなく走っていて、目的のチェックポイントが目の前に現れた時の嬉しさといったら! Googlemapでは味わえない、地図と現実が交錯する瞬間のカタルシス。

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スタート直後こそ、近場のポイントですれ違うこともあった他チームとも、ある程度時間が進んでからはほとんど会わなくなってしまった。結構チームによって、どこをどう回るかの方針が違うみたいだ。あまりに人に会わないと、自分たちは正しくポイントを積み上げられているのか不安になる……。

たまに他の参加者に合うと、なんだかもう争う相手ではなくて仲間だと思えてくる。森の中でランナーチームと出会ったけれど、こちらが地図読みにまごついている間に彼らの方が次のポイントに先行していた。自転車だから速い、というわけでもないのが面白いところ。

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制限時間が迫って来た。ゴールの指定時間は15:00。この時間までに、スタート地点へ戻ってこないといけない。1分遅刻すると100点が減点されるということで、何はなくとも時間までに帰らねば。だが、帰路にも取れそうなチェックポイントがまだ散らばっている。どこまで攻めるか、どこで引くか。常に判断を強いられる〈CMM〉なのであった……。

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ぎりぎりまで粘って、DAY1は制限時間2分前に滑り込み! ゴールする頃にはすっかり晴天で、気分もよし。

走って終わり、にならないのが〈CLAMP〉流。スタート/ゴール地点の〈たつの未来館アラパ〉のプールを利用して、なんとプール内を走るタイムレースや、ウォータースライダーをダウンヒルするなんて余興も。プールサイドにテントを張るのは不思議な気持ちがしたが、山を臨むその眺望の良さに感動。

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DAY2 要領を掴んで楽しさ倍増、トレイルを堪能

テントを抜け出して、支度を整えたらさぁDAY2だ。やはりスタート15分前に配布されるマップを見てアレコレ作戦を練る。地図の範囲は同じで、チェックポイントが変更になっているが、前日と共通のポイントもある。ある程度距離感や所要時間もわかって来たので、今日はさらに攻める走りを高橋と誓う。

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DAY1こそ慣れないオフロードバイクに手こずっていた高橋だが、持ち前の体力とトレイルを読むスキルでみるみる乗りこなしていた。ただ登りではトレランとは違う負荷がかかっているようで苦しんでいたが、「いい練習になる」と満足げであった。心配は無用だ。

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私は私で、地図読みの楽しさを味わっていた。川の流れの湾曲と山の稜線との位置関係を見て勾配を読んでみたり、点線で記されるトレイルの荒れ具合を想像したり。地図一枚の情報量の多さに、改めて驚かされた次第。

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今日は最初から遠くまで飛ばしてポイントを稼ぎに行く。オンロードの激坂あり、峠道あり、かと思えばグラベル、トレイルと体力的にはかなりハードな行程。とはいえ、バイクライド単体としてもかなり楽しい。伊那谷という豊かなフィールドの恩恵を存分に受けている格好だ。

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ルートには、〈CLAMP〉が山の中に整備しているMTB用のトレイルがあり、ご丁寧に「楽しんで」という表示がしてある。このトレイルは以前のRIDE ALIVEの時にも走っているが、スイッチバックを流れるように走れて、最高にゴキゲンなルートなのだ。

そんなアトラクションもありつつ、この日のハイライトは伊那谷を見下ろすことのできる大城山の展望台。最高ポイントとなる150点が配点されたこのチェックポイントには、キッチンカーがつけていて甘酒のサービスも。そんな気遣いが嬉しい。疲れているだけに心に沁みる……。

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リミット2分前に滑り込みでしっかりポイントを稼いたDAY2も、フタを開けて見たらなんと前日と同じポイント数。要領を得たつもりでも、初めてだった前日と同じだっていうんだから、この競技の難しさを痛感する。ゴールした後に他チームとの会話の中で、あそこはこう行くべきだった、とか、こういう行き方があった、という反省会になるのも楽しいもの。

そしてこのレースは、個人戦でないからこそ楽しいのだということもわかった。仲間と協力し、意見を述べ、折れるところは折れ、筋を通すところは通す。共に肉体的な苦痛を味わい、チェックポイントにたどり着いた喜びを共有する。一人で淡々と進むのとは違う、人間としての喜びが確かにある。それは〈OMM〉のような本格山岳の極限状態の中でなら、なおさらだろう。

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〈CLAMP〉では、この〈CMM〉を定期的に開催していく予定だという。普段ショップのクラブメンバーたちと整備しているトレイルや伊那谷のフィールドを、外からの人にも走ってもらいたいという思いがあり、イベントの収益はこうした里山の整備保全やさらなるフィールド作りに役立てられるという。

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〈CMM〉を主催したCLAMPの武村さん。〈OMM Japan〉と事前に打ち合わせ、今大会の開催にこぎつけた

一言で表せば〈OMM〉を優しくしたイベント、ということになる〈CMM〉。イベント単体で継続的に開催するビジョンがあるということで、どんな人にも開かれた山岳ロゲイニングイベントとしての意義は小さくない。地元のグルメや地図読み講習会、ミニイベントなどここにしかないお楽しみ要素もたくさんある〈CMM〉は、〈OMM〉を目指す人はもちろん、すでに走ったことのある人も楽しめるイベントだった。

CLAMP
長野県南部に位置する伊那谷をベースにしたBIKESHOP CLAMP。「GUIDE FOR MOVING.」の理念を掲げ、伊那谷が持つ独自の大自然が育むアクティビティとデイリースタイルを通じた「動く日常」を発信・提案する場所であり一歩を踏みだそうとするすべての人にとっての「案内人」となるべく、独自のライフスタイルを提案している。
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