フリーウェイトは魔法ではない
しかし怪我を予防し、身体の使い方を教えてくれる

2019年の箱根駅伝で、悲願の初優勝を果たした東海大学。2014年からチームで指導する西出仁明コーチはこの快挙に大きく貢献したキーマンだ。積極的にウェイトトレーニングを指導に取り入れたことでも知られる同コーチに、東海大学陸上競技部での、ウェイトトレーニングを軸とした練習について訊いた。

――ウェイトトレーニングを取り入れようと思ったのはなぜですか?

4年前に東海大に入ってから、オレゴン大学の練習を見学する機会があり、そこでウェイトトレーニングの実践を見て、チームに導入したいと考えました。ただ、まずは自分自身がしっかりできてから、という思いがあり、ウェブで発信されていた加賀洋平さんのもとで8週間、オリンピックリフティング(*1)のプログラムを受講しました。今も継続して実践しています。

――実際に自身でウェイトトレーニングをされてみて、どんな気づきがありましたか?

僕自身はコアランナーではないですが、やはりランナーに多いハムストリングスの柔軟性の無さと臀部の筋力の弱さに気づかされました。そして広背筋ですね。背中の筋肉が非常に弱いというのは、指導する中でも感じています。長距離の世界には背中の筋肉は立っていれば鍛えられるので腹筋8、背筋は2くらいでいい、なんて時代もありましたが、ウェイトを持たず自重だけでもお尻のトレーニングがうまくいかないような状況を見ると、やはり筋力トレーニングは必要だと考えさせられますよね。

――学生への指導にはいつから取り入れましたか?

僕がある程度できてからということで、オリンピックリフティングで言えばクリーン(*2)、スナッチ(*3)が入るようになってからです。2016年に模索しながら始めて、2017年度から本格的にプログラムとして指導に取り入れました。

――その効果が出たのが、2018年ということでしょうか?

ウェイトトレーニングって速くなるための魔法みたいなイメージもありますが、やったところでダッシュができるような即効性はなくて、効果はもっと漠然と出てきます。試合や合宿続きでしばらくウェイトができないでいると足の違和感を訴える選手がいたりして、選手たちもウェイトをすることが怪我の予防になると効果を感じているようです。また、ウェイトは効率よく身体を動かさないと重いものは上がりません。その点で効率のよい身体の使い方がテクニックとして身につくという効果もあると思います。

Tokai Univ training camp in Arizona, USA

――走るための効率よい身体の使い方もウェイトで身につきますか?

各関節の使い方ですね。特に股関節を伸展させる動作で力を発揮させることを狙いとしたトレーニングでは、股関節の使い方を覚えられます。あとは膝関節や足首の曲げ伸ばしといった箇所も、股関節によってより大きな筋力で動かせると思います。

――選手たちはウェイトトレーニングにどう向き合っていますか?

全員にウェイトをやらせているわけではありません。部員全体の4分の1くらいですね。次の段階としては部全体に落とし込んでいきたいですが、やっぱりキツい練習ですから、現在のところ、チャレンジしたいという意欲のある選手に指導する形になっています。

――選手たちはどんなメニューをこなしていますか?

いろいろなプログラムをやっています。ルーマニアンデッドリフト(*4)でハムストリングスを伸ばし、通常のデッドリフトや、リバースランジでお尻を鍛えます。オリンピックリフティングもクリーン、ジャーク(*5)を。オーバヘッドプレスで上半身、引く動作のラットプル等々です。回数は5~8回を3セットといったところです。

――高強度・低rep(*6)ということでしょうか?

例えばデッドリフトでも40kgくらい、自重の7割くらいしか上がらない選手が多いので、他の種目やウェイトリフターの人からすると低負荷に見えるかもしれません。ただ強度としては5ないし6RMと高くしています。

――今後のウェイトトレーニングの取り組みについて教えてください。

加賀さんが言うように健康な身体づくりには正しいフォームが必須です。僕も引き続き専門家の方に習い、そしてそれを選手たちにとって有用なメニューへとチューニングして、適切な指導ができるようにしたいですね。

*1 オリンピック種目になっているウェイトリフティング。スナッチ、クリーン&ジャークを各3回ずつ行い、その最高重量を競う。
*2 床から鎖骨の位置までバーベルを持ち上げる動作
*3 バーベルを頭上に持ち上げ、両腕を伸ばした後に両足を伸ばす型
*4 股関節の伸展によってバーベルを上げ下げする動作。デッドリフトと違い、バーベルを床に置かず 連続して行う。
*5 クリーンの位置から、頭上までバーベルを持ち上げる動作
*6 repとは一回の動作の回数を指す

西出仁明
1974年生まれ。高校時代は全国高校駅伝に出場したのち、神戸学院大学へ進学し指導者の道へ。母校である美方高校の陸上部監督を経て、2014年より東海大学陸上競技部 長距離・駅伝部門のヘッドコーチを務める。2019年、両角速監督とともに、同部を初の箱根駅伝総合優勝に導いた。

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※2019/4/10発売「mark11 トレーニングは贅沢時間」転載記事

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