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イノーが憧れたヒーローは2人だけ

小俣 マイヨジョーヌへの頓着のなさはイノーさんならではかと思いますが、イノーさん自身、少年時代憧れたマイヨ・ジョーヌ、ヒーローはいたのでしょうか?

イノー 2人だけいる。まず一人目はジャック・アンクティル。なぜなら、彼は勝つからだ。二人目はメルクスだ。この2人だけが私に感銘を与えた選手だよ。自転車選手にとって、こういうアイドルが必要だ。憧れ、お手本にしてそこを目指すからね。

Bernard Hinault

小俣 イノーさん自身が続く選手たちのアイドルになっていると思いますが、アンクティル、メルクスというツールで5回勝っている憧れだった選手と、自分自身は並ぶ存在だと思っているのでしょうか?

イノー ツール・ド・フランスに関しては、そうだね。エディ・メルクスは他の全てのレースも勝っている。なぜ彼が人喰い(カニバル)と呼ばれているか、それは全部を勝つからだ。私は1月に5つのレースで勝ったことはあるが、メルクスに関してはそれが一年中続くような感じだ。比較にならない。

小俣 とはいえ、イノーさんはパリ〜ルーベでも、世界選手権でも勝たれていて、同時代においては十分にカニバル的存在だったかと思います。ライバルはいたのでしょうか?

Bernard Hinault

イノー レースをする国によるね。ツール・ド・フランスに関して言えば、ヨープ・ズートメルク。イタリアでは違う選手、スペインではまた違った選手。だから毎回彼らがライバルだったね。

綾野 記録を紐解くと、1980年にジロ・デ・イタリアを優勝して、ツール3連覇に挑みます。しかしこの時は膝の痛みが出て、マイヨ・ジョーヌを着ながらにしてリタイヤしました。一番のライバルはご自身の膝ではないか、という気もするのですが。

Bernard Hinault

イノー 2回、膝に悩まされた時があった。初めは、1980年。この年はパヴェ(石畳)が多く、54kmのパヴェが組み込まれたステージがあった。ツールのステージにだよ。そこから膝の痛みが来たと考えている。もうひとつは、1984年。メカニシャンがサドルを2mm高くセッティングしてしまったんだ。たった2mmだが、膝を痛ませるには十分だ。サドルの高さは研究で導き出したものだから少し変わっただけでも変調をきたすんだ。ま、そういうわけだね。

綾野 当時の映像を見ると、イノーさんは重たいギアを踏んでるんですよね。怒りをぶつけるかのように力いっぱいに。

イノー 特に大きなギアは踏んでないよ。他の選手と同じじゃないか? 他のヤツらに負けたくないが故に重いギアを使ったことはあるかもしれないがね(笑) 

綾野 その当時のギアって一番軽くて21か23ですよね。でも今の選手は30とかを使っています。今の選手の軽いギアについてはどう思いますか?

イノー 自分の時には24が一番軽いギアだった。でもフロントのインナーは41だ。それしかなかったんだ。

小俣 それでも十分重いですね……

Bernard Hinault

綾野 ローラン・フィニョンなんかも膝の痛みに悩まされました。

イノー おそらく彼も大きなギアの問題じゃなくて、メカやポジションの問題だろうね。

小俣 改めて、ここでもう一度会場を見渡していただけますでしょうか。こちらイノーさんのイラストがたくさんありますが、こちらはそこにいらしていますグレッグ・ポデヴァンさんが手がけたものです。ポデヴァンさんは、2016年にベルナール・イノーに捧げるというイラストブックを描かれましたが、なぜイノーさんを題材にしたのでしょうか? あ、本をお持ちの方もいらっしゃるんですね!

Bernard Hinault

ポデヴァン 8歳の時からイノーを描き始めたんだ。子どもの頃は、みなさんにとってそうであるようにイノーは僕のアイドルだったんだ。年が経って、3年前にある出来事が起きた。Facebookにあるイノーの写真を投稿するグループがあって、僕はそこに自分で描いたイラストを投稿していたんだ。その絵を見た人の中にベルナールの友たちがいて、『この絵は素晴らしいからベルナール本人が見るべきだ』と言って、仲介役をしてくれてイノー本人が見ることになった。

ベルナールと会い、それだけで夢が叶ったけれど、さらにいろんな話が進み、ベルナールを題材にした本を作ることになった。今回もベルナールと一緒に旅をして、夢の中にいるようだよ。ウェアやポスターなどのコラボレーションを様々手がけているんだよ。これが僕とベルナールとのヒストリーだね。

Bernard Hinault

小俣 ではイノーさんにポデヴァンさんの絵の印象を聞いてみましょう。

イノー 私は下手な絵を見たら『これは下手だ』と言うクチなんだが、最初見た時にそうは言わなかったね(会場笑) 冗談はさておき、素晴らしい絵の数々で、私自身もよく描いてもらったが、ジャック・アンクティルなど他の選手のこともしっかりと描けていて、愛のある絵だと感じたね。

Bernard Hinault

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