2019.05.30 - 12:24

スポーツという枠を超越した存在へ ノア・ライルズ

(写真 水上俊介 文 和田悟志)

ボルトなき陸上短距離、群雄割拠時代

 2017年、世界陸上ロンドン大会で陸上競技スプリント界のスーパースターが現役を退いた。そのスーパースター、ウサイン・ボルトは、100m9秒58、200m19秒19の世界記録をもち、人類最速と呼ばれた男だった。ボルトが残した功績はあまりにも大きく、彼が現役引退を表明した頃*から、我々メディアは、“ネクスト・ボルト” 探しに躍起になった。

*2013年に、2016年のリオデジャネイロ五輪での現役引退を表明。その後一度は撤回したが、2017年の引退を再度表明した

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実際、時を同じくして、“ネクスト・ボルト” 候補は、次々と現れた。リオ五輪では、1994年生まれのアンドレ・ドグラス(カナダ)が、100mで銅メダル、200mで銀メダルと個人で2つのメダルを獲得したほか、4×100mリレーでも、アンカーとして前を走る日本チームに迫った(結果は銅メダル)。リオでさらにセンセーショナルだったのは、南アフリカのウェイド・バンニーキルクだ。マイケル・ジョンソン(アメリカ)が持っていた “不滅” とも言われた400mの世界記録を更新。ロングスプリンターながら、100mでも9秒台の自己記録をもち、新たな陸上界のスター候補として注目を浴びた(だが、2017年秋にラグビーで膝を負傷。現在は復活の途中にある)。

また、ボルトが引退した2017年は、1996年生まれのクリスチャン・コールマン(アメリカ)が躍動。100mでこの年の世界最速となる9秒82をマークすると、ロンドン世界選手権の100mではボルトに先着し、銀メダルに輝いた。2018年には、2月に60mの室内世界記録(6秒34)をマーク。100mは9秒79(世界歴代7位タイ)まで記録を伸ばした。

ノア・ライルズ 二十歳の全米王者

そして、この1、2年で急激に力を付けてきたのが、1997年生まれのノア・ライルズ(アメリカ)だ。ライルズは、2016年にU20世界選手権の100mで優勝を飾っているが、どちらかといえば、200mを得意とする選手だった。世界最高峰の陸上競技のリーグ戦、IAAFダイヤモンドリーグでは、2017年に200mで2勝を挙げ、2018年は同種目で5勝している。

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だが、ライルズの名をいっそう世に知らしめたのは、2018年の全米選手権の100mだろう。この試合、予選から9秒台を連発したライルズは、決勝で9秒88の自己記録(当時)をマークし、20歳にして全米王者に輝いた。

「 “必ず全米王者になれる” と自分に言い聞かせていたが、その一方で、勝つことができるのかな…と疑問をもつこともあった。決勝のレースを終えたときは(優勝した)実感が湧かず、実際に電光掲示に自分の名前が表示されたのを見たときは、びっくりしたよ」

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 こうしてスプリント王国・アメリカの頂点に立ったライルズだが、“ネクスト・ボルト” の一人に数えられることを意に介する様子はない。

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