2018年9月16日、ベルリンマラソンで世界新記録を打ち立て、世界に衝撃を与えたマラソンランナー、エリウド・キプチョゲ選手。その凄さは、BREAKING2先日行われたインタビューに詳しい。そんな生きる伝説となったキプチョゲ選手が、専属コーチであるパトリック・サング氏とともに来日し、駒澤大学の陸上トラックに現れた。そこに招かれたのは、設楽悠太選手や村山謙太選手、村山紘太選手、中村匠吾選手と言った東京五輪を担う世代に加え、駒澤大学、東洋大学、中央大学、東海大学の陸上競技部の長距離選手たち。世界最高峰の選手とそのコーチが何を考え、走っているのかをトーク&ランセッションで体感する、夢の時間を過ごした。

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第1部のトークセッションではキプチョゲ選手とサング氏がともに登壇。“走る哲学者”こと為末大氏をモデレーターに迎えて、キプチョゲ選手のトレーニングや走ることについての向き合い方、選手とコーチの関係性などを語った。

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為末大(以下、為末)
「まずは、(世界記録を出した)ベルリンマラソンに向けてはどんな練習をされたんですか?」

パトリック・サング(以下、サング)
「特に変わったことはせず、通常通りのトレーニングをこなしていました。ただレースに向けては4ヶ月かけてしっかり準備しました。コーチの重要な役割は、アスリートと同じ目線に立ち、同じゴールに向かっていくこと。我々は二人でそこに向かって走るために、入念な準備をしたのです」

為末
「通常のトレーニンニングはどれくらい行うものか、教えていただきたいです」

サング
「距離的なところを言うとマラソンアスリートは平均で1週間に200kmくらい走ると言われていますね。まず、準備している中で“マクロサイクル”と“マイクロサイクル”ということを意識します。マクロサイクルでは、2つのピークを1年の中で作ります。4月と10月にピーク持っていく。その2つのサイクルの中で、3〜4段階くらいのフェーズを作ります。リカバリーのフェーズ、準備のフェーズ、試合前のフェーズを経て、当日のレースを迎えます。これがマイクロサイクルです。私がコーチングをする全ての選手はこのサイクルを経て準備していきますが、エリオットはボリューム(質)が違う。どれくらいハードなトレーニングをこなせるかどうかはアスリートによって変わるのですが、エリウドは6年間この2つのサイクルでずっとやってきました」

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為末
「具体的にはどれくらい走るのでしょうか?」

サング
「マラソンに向けてのトレーニングは、だいたい3ヶ月くらいの期間で作っていきます。エリオットは少なくとも1ヶ月に2回ロングランを行います。ロングランは平均で40kmくらい。また、スピードセッションは最大で15kmまで。スピードも段階によって変えていきます。15kmの場合は、最初はゆっくりと走って、最後の方にはペースアップ。12週間の間ずっと高いレベルで負荷をかけていくのではなく、徐々にトレーニングを積んでいくということを設定しています」

為末
「レース直前に行う練習、例えばスピードの刺激を入れるような練習があれば教えてください」

サング
「レース前の最後のトレーニングは、だいたい8日くらい前に実施します。ベルリンマラソンの前は、私の記憶が正しれば1200mのトラック練習を3回程度したと思います。インテンシティ(集中力)は選手によって違うので、練習方法は一緒ですが、そのレベルを変えていくのが私のアプローチ。エリウドは高いレベルに達していますので、1200mを3分18秒〜3分20秒くらいで走っていました」

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為末
「なるほど。今度はキプチョゲ選手にお聞きしたいのですが、選手とコーチの二人の関係性はどのようなものなのでしょうか?」

エリウド・キプチョゲ(以下、キプチョゲ)
「私とコーチは、3つの関係があると考えています。それはトレーニングのコーチ、ビジネスのコーチ、そして人生のコーチでもあるということです。私にとってコーチという存在はトレーニングだけでなく、たくさんのことを教えてくれる存在です。私が陸上選手としてキャリアをスタートしてから、彼にずっと見てもらっていますが、常に自分自身が最高だと思いながら生き、レースに臨んでいくことが大事だとアドバイスしてもらっています」

為末
「良いコーチとはどのような存在でしょうか?」

キプチョゲ
「重要なことはコーチ自身が才能を見出してくれるのはもちろん、しっかりとその才能をマネージメントしてくれる存在だということですね。コーチとしてだけでなく、一人の人間として模範になるような存在です。サングコーチは約17年間にわたって、才能面だけでなく、私自身にまつわるあらゆる面でコーチをしてくれた。だからこそ今のような成功をおさめられたと思っています」

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為末
「ありがとうございます。改めて、サングコーチにお聞きしたいのですが、休養についてはどのように捉えていらっしゃいますか?」

サング
「1年間のプランニングをするときに、きちんと休めるような期間は確保します。特に大切にしているのはアクティブリカバリー。トレーニングを行なっていると、選手がもっと練習したいと思うことはよくありますが、あまりやりすぎると故障につながるので気をつけねばなりません。きちんと目標を持った上で練習をこなしていくことは大事なのですが、身体を動かして選手のモチベーションを保ちつつ、『これから休みますよ』と身体に伝えるアクティブリカバリーは有効な手段です」

為末
「具体的にアクティブリカバリーをどのように行なっているのですか?」

サング
「アクティブリカバリー時のランニングは、高強度・中強度・低強度という3つのモニターから選びます。重要なのは選手自身が、強度を強くするか、弱くするかを自分で考えながら実践することが重要です。ただ私の場合は、だいたい40〜50%の強度で取り組むように選手には伝えています。つまり低強度〜中強度で感じる程度がいいということです。私の感覚だと、日本人アスリートのリカバリーランは少し(スピードが)速いのかなと思います」

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為末
「最後にキプチョゲ選手から、日本の陸上選手にアドバイスなどいただけると嬉しいです」

キプチョゲ
「私がトレーニングをするときは、“準備”に集中することを意識しています。準備をしっかりすれば、勝利はついてくる。真に重要なのは勝つことではなく、勝つための準備をすることが最も重要なのです」

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第2部からは、村山謙太選手と村山紘太選手、中村匠吾選手に加えて、東洋大学・駒澤大学・中央大学・東海大学の陸上競技部ランナーが、キプチョゲ選手と2000mをグループランニング。トラックのコーナーをジョグ、直線箇所をスピードを上げていくインターバルランニングを実施した。世界最速のランナーとのセッションということもあって、各大学のランナーたちはみな、終始笑顔でその時間を楽しんだ。その後、400m走を60秒後半で走るスピード練習を実施。サング氏によるコーチングのもとで3本走るなど、選手にとっては掛け替えのない時間を味わうことになったようだ。

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今回のセッションを終えて、設楽選手は「キプチョゲ選手やサングコーチが繰り返し話していたように、準備ということの大切さを改めて知りました。来月には福岡国際マラソンも控えているので、それに向けてしっかり準備もしている途中ですし、キプチョゲ選手から激励の言葉もいただいたので、それに応えられるような走りをしたいなと考えています」と語った。

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