東大卒という異色の出自の自転車レーサーとして、全日本個人タイムトライアル選手権で3度の日本一に輝いた実績をもって2017年に引退した西薗良太さん。彼が自転車界の識者とトークを繰り広げるポッドキャスト Side by Side Radioに、onyourmark.jp編集部の小俣雄風太がゲスト出演しました。

収録は2時間に及ぶ(!)長いものになりましたが、その中でもさすが東大卒らしく本が大好きな西薗さんと、編集者・ライターとして活動する小俣との話題は自然と本に関する話題に。西薗さん初の監訳本のリリース間近というタイミングもあり、自転車本についてたくさん語り合いました。ここではポッドキャスト中に話題に上った自転車本を紹介します。秋の夜長、虫の声を聞きながら読書を楽しんでみてはいかがでしょうか。


ポッドキャスト全編を聞くことができます。また、下記のリンク先の目次で、興味のあるトピックをチェックできます。

Side by Side Radio 目次 

世界最高のサイクリストたちのロードバイク・トレーニング:ツール・ド・フランスの科学
世界最高のサイクリストたちのロードバイク・トレーニング:ツール・ド・フランスの科学
ジェイムズ ウィッツ著、西薗良太監訳

ラジオ内でも触れている、2018年9月にリリースされた西薗さん初めての監訳本。原著は2016年にイギリスで発行されており、2016年時点での最新のプロ・ロードレースを取り巻く環境とそれを支えるトレーニング理論が紹介されている。パワーメーターの機材から、超級の山岳レース、リカバリー、はてはウェアなど、ロードレースを構成するあらゆる情報が濃縮されており、現代ロードバイク/ロードレースの文化本として読むことも可能な一冊。情報量が濃く、この一冊を読み込めればライダーとしてのスキルアップはもちろん、ツール・ド・フランス観戦の方向でも楽しみが深まります。

敗者たちのツール・ド・フランス ~ランタン・ルージュ~
敗者たちのツール・ド・フランス ~ランタン・ルージュ~
マックス・レオナルド著、安達眞弓訳

「ランタン・ルージュ」とはフランス語で『赤ランプ』のこと。ツール・ド・フランスを最下位でフィニッシュした選手にかつて与えられた賞(名称)であり、ある種の不名誉の象徴でした。しかし著者のマックス・レオナルドは、自らがツール・ド・フランスの1日のコースを走る『レタップ』とを走り切れなかった体験から出発し、最下位でもツールを完走する選手はヒーローだと思いを改める。この実体験からスタートした緻密な調査は、1903年から現代に至るまでの象徴的なランタン・ルージュ受賞者の選手たちにスポットライトを当てる。誰も注目してこなったツールの、埋もれていたエピソードがここに生き生きと蘇ります。邦題の「敗者」という表現は残念極まりないですが、それはこの本を読み通した人なら誰でもが抱く感想でもあるのです。

サクリファイス (新潮文庫)
サクリファイス
近藤史恵著

ロードレースを舞台にした、スリル感ある小説。ロードレースを知らない人に、ロードレースの不文律や駆け引きを知らしめた意欲作。日本語自転車エンタテイメント文学の嚆矢。

僕のジロ・デ・イタリア
僕のジロ・デ・イタリア
山本元喜著

ツール・ド・フランスと同じ、あるいはそれ以上の山岳の厳しさがあると言われるイタリア一周レース、「ジロ・ディタリア」に2016年に出場・完走した山本元喜選手による手記。山本選手は3週間に及ぶこのレースを走りながらブログを更新。日本のファンに現場からの生の声を届けた筆まめであり、攻撃的な走りが持ち味のアタッカーでもあります。世界最高峰の舞台に挑み、壁にぶつかり、越えていったその過程が胸を打つ。山本選手は今年2018年、全日本選手権を制し日本一に輝きました。

自転車チャンピオン
自転車チャンピオン
ルイゾン・ボベ著、三田文英訳

ポッドキャスト内でも小俣がイチオシした一冊です。著者は1950年代のツール・ド・フランスを3連覇し、国民的ヒーローとなった伝説的元選手。偉大なチャンピオンが、プロを混じって初めての大一番を走る場面から始まるこの本は、地方からスターダムに上り詰めるサクセスストーリーでありながら、若く高潔なスポーツマンの清々しい青春の1ページとして現在も色あせません。自転車競技がフランスにおいてどんな意味を持つスポーツであるのか、なぜツール・ド・フランスはフランス文化のひとつであるかまで透読できる、活き活きとした歴史書です。

俺たちはみんな神さまだった
俺たちはみんな神さまだった
ベンヨ・マソ著、安家達也訳

上記の『自転車チャンピオン』と同じく、コアな自転車本に強い出版社、未知谷から2017年に刊行された新しい一冊。こちらはオランダの社会学者による1948年のツール・ド・フランス評論。選手のボベがレースの中からツールを描写した主観的な手法をとったのに対し、著者のマソはあらゆる証言やデータ、資料をもとに客観的にツール・ド・フランスを浮かび上がらせます。今日まで連綿と続くツールの真の礎となったのがこの1948年の大会であるという著者の論は、70年を経った今だからこそ納得できる点もたくさん。社会学的なアプローチでありながら、ロードレースのもつ情念や人間性を失わない語り口に著者の自転車愛がうかがえます。

西薗良太さんのポッドキャスト Side By Side Radio