双子の兄とともに3歳から水泳を始め、全日本選手権、マスターズ主要大会をはじめとする数多くのレースを経験してきた、前田康輔さん。水泳マスターズ世界記録保持者でもあり、キャラクター立ちした人柄から、マーマンキング、前田ツインズなどの愛称で親しまれ、水泳業界を盛り上げている彼。現在は“日本初のプロスイムコーチ”として、トライアスロンのチーム指導をはじめ、泳げる人から泳げない人まで、老若男女に水泳指導を行なっています。スイマー、インストラクター、敏腕営業マン、そして現在のプロスイムコーチという多彩なキャリア至るまで、そのヒストリーに迫ります。

(写真 古谷勝 / 文 onyourmark)

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物心ついた頃から泳ぐことが生活の中にあった前田さん。現在の迫力のある体つきからは想像できないですが、水泳を始めたきっかけとなったのは低出生体重児の双子で産まれたため、身体が弱かったから。でも、そんな体質もものともせず、すぐに競泳の才能を開花することになります。しかも、双子の兄・健輔さんとともに。地元・神奈川県内でつねにワンツーを争う“前田ツインズ”として、功績を残していきました。小学生ではジュニアオリンピック全国3位、高校1、3年で国民体育大会優勝など、トップレベルで凌ぎを削っていましたが、スランプが訪れたこともあったと言います。

「高校2年生の時、ずっと見ていてくれたコーチが異動してしまってから、スランプでした。結局そのコーチを追ってまた指導してもらうことになり、記録は伸び出しましたけど、当時は誰かのせいにしてしまったりした時期も……。でも、その時に得たものが大きかったです。自分と向き合って見直すきっかけになったし、いろんな人に話を聞いたりしたことで、メンタル面の捉え方に関して視野が狭かったことに気づけました。分野を問わずたくさんの人から意見をもらい、一つの物事に対してアプローチを変えて考えるというスタンスがそれからずっと活きています」

そんな気づきもあってスランプを乗り越え、大学は推薦で中央大学へと進学。レスリング、バレー、サッカー、野球、駅伝などさまざまなジャンルの競技者とともに、全寮制の環境で、切磋琢磨する日々を送ります。トレーニングは週に12回。それまでの2倍の練習量に当初戸惑った前田さんですが、スイムだけでなく、ピラティスやウェイト、TRXといった陸でのトレーニングをスイムの前後に行ったことで、現在のたくましい肉体ができたのだとか。そんな大学生時代、全日本選手権で決勝進出したレースはとても思い出深い瞬間だったそう。

「大学4年の春に出場した全日本選手権では決勝に残れて、トップスイマーの皆さんと泳げたことに感動しました。その時は、決勝進出、それで満足でした。当時日本代表を狙ってた僕と、トップ選手との差が1日で縮まるわけはないので、勝ちよりも楽しもうと思って。この雰囲気を、この緊張感を絶対忘れないように、全部感じようと思っていました。タイムは一番悪かったけど、でもすごく印象に残っています。大学入学当初は、練習がこなすことが大変でしたけど、追い込んだことで自分の泳ぎの強みにも気づけました。自分は前半に強いタイプで、前半にスピードを出せない人もいますが、僕は出せた。ある程度余力を残しつつ前半から飛ばしてそのまま逃げ切っちゃうスタイルですね」

大学卒業後は、リオオリンピック代表を目指す傍らスイミングインストラクターとして3年ほど活動した後、25歳の頃、思い切って“スイマーとしての前田康輔”を捨てることを決意。ソフトウェア開発をする会社に就職し、営業成績トップの敏腕営業マンになりました。スイマーではない自分で飛び込んだ社会でも、水泳で培った力が活きていると感じることもあったと振り返ります。

「水泳がない自分に当時は自信がなかった。だからこそ、スイマーではない前田康輔がどう見られるか、一度ぶつかってみたいと思ったんです。もちろん営業の仕事は初めてでしたけど、ゴールを決めて、それに対して逆算してスケジュールを組んでいくことだったり、水泳でやってきたこととの共通点を感じました。アフター6は泳ぎに行っていたので残業はほとんどしなかった。そんな僕を見て、周りには要領が良いと言われましたが、ポイントを絞り無駄を削って仕事をするというのは、泳ぎの特訓と一緒だと思いました。水泳はいかに抵抗を減らして、0.01秒を縮めていけるかに尽きるからです」

社会を経験し確かな手応えを感じ、スイマーとビジネスマンのスキルを掛け合わせた仕事をしたいと考え、昨年からプロスイムコーチとしての活動をスタート。プロスイムコーチとは、マネージメントや後援がついているコーチということで、海外では珍しくないそうですが、日本では前田さんが第一人者。これまでの経験を生かして、前田さんならでは幅広い活動に注目です。

「コーチングにおいては、ロジカルにテーマに沿っていろんな人に教えています。これまでの経験を生かして、細分化してやることで、しっかり身になるレッスンを心がけてます。特に、トライアリート向けのレッスンは需要があると感じています。自分の活動を通して、スポーツをやっててよかったと思えるアスリートが増えて欲しいです。スポーツ選手だった人や、選手を目指してきた人たちが、“デュアルキャリア”と呼ばれるステージで活躍できる環境があまりないのが現状。でも、競技者だった時が人生のピークじゃなくて、そのあとの人生のほうが長いから、ひとりの人間としての個性をどう表現できるかっていうのをみんなに見せれたらいいなって思っていますね」

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【名前】KOSUKE MAEDA 前田康輔
【生年月日】1988年9月28日
【職業or所属】プロスイムコーチ/株式会社アスリートプランニング マネジメントアスリート
【やっているスポーツ】競泳(26年)

【instagram】@maekou28

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「Pearl Izumi」のトライスーツ、「On」のランニングシューズ、「speedo」のスイムウェア
「各アイテムのメーカーの方と交流があり、それぞれの製品に対するこだわり、バックボーンを知っているから、愛着を持って使っているモノたちです。着心地、履き心地の良さはもちろんのこと、ビビットなカラーリングも気に入っています」