2018.05.22 - 08:00

スポーツがあるから挑戦できた
伊達公子×五郎丸歩 

( 文 井上英樹 / 協力 アディダス ジャパン

2018年4月末、アディダス ジャパンによるスポーツイベント『YOUNG ATHLETES CHALLENGE 2018』が東京・墨田区総合体育館にて開催された。このイベントはフットボール、ラグビー、テニス、バスケットボールのスポーツプログラムを一度に体験できる子どもたちを対象としたイベントだ。元テニス選手の伊達公子さん、ラグビー選手の五郎丸歩さん(ヤマハ発動機ジュビロ)、元サッカー選手の中田浩二さん、元バスケットボール選手の渡邉拓馬さんらが、子どもたちと一緒になってイベントに参加し、会場は大いに沸いた。挑戦し続ける伊達さん、五郎丸さんのお2人に『挑戦』について対談して頂いた。

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私たちは「怪我つながり」

伊達 初対面じゃないんですよね。私たち「怪我つながり」なんですよね(笑)。

五郎丸 そうそう(笑)。さっきも控え室で入院の話をしていましたもんね。

伊達 私は膝の手術で。病院は違うんですけれどリハビリが同じ場所でしたね。

五郎丸 小さい頃からテレビで見ていた方が、リハビリ室にいたので驚きました。不思議な感覚でしたね。伊達さんは様々な経験をされてきたからこそ、すごく感じがいいというか、しゃべりやすいんですよね。全部受け止めてくれそうな。おおらかな感じ。

伊達 ありがとうございます(笑)。実は私、ラグビーに詳しくはないんです。試合も一回しか実際に見たことないんですよ。膝を怪我したときに、時間があって見に行ったんです。五郎丸さんのいるヤマハじゃなかったんですけどね(笑)。

五郎丸 どこの試合でした?

伊達 パナソニックと、どこだっかな。……あ、東芝だ(笑)。

五郎丸 どうでした?

伊達 おもしろかったです。客席から歓声がワーッと起こったり、静かになったり。「今、なにかが起きようとしているな……」という雰囲気を感じました。ラグビーはボディコンタクト(対戦相手との接触)もすごいけれど、戦略的な駆け引きがおもしろさの一つでもあるなと思いました。テニスも将棋やチェスに例えられるけど、どうやって攻めるかを動きながら考えるので、戦略的なラグビーの動きには興味を持ちましたね。

五郎丸 うれしいですね。ありがとうございます。

伊達 五郎丸さんはテレビでご活躍を拝見していました。色んなことを計算し、考えながら、迷いのない中で選択していて。……すごい集中力なんだなと、思っていました。

五郎丸 いえいえ。

伊達 ラグビーとテニスでは競技性は全然違うんですけれど、プレッシャーの中で(キックで)流れが変わったりするじゃないですか。五郎丸さんは、そこで確実に決めていくのがすごいなあと思っていました。

五郎丸 伊達さんは一度引退して、それで選手として戻ってきましたよね。すごい決意を感じます。選手にとって引退というのは、すごく大きな決断です。その決断を覆して、またもう一回やりたいというのは、並大抵のものではないと思いますね。

伊達 これも競技性だったんでしょうね。たとえばラグビー、サッカー、野球のような団体競技はやっぱり監督ありきじゃないですか。いくらやる気があっても監督が選んでくれないと試合に出る機会はうまれない。テニスは個人競技です。レベルは様々とはいえ、「チャンスを与えない」というのはあり得ないので。

五郎丸 なるほど。

伊達 でも、まさか9年半もやるとは思っていなかった(笑)。国内でしか考えていなかったのが結果的に世界にでたし。……予想外でしたね。

五郎丸 すごいですよね。いやあ、本当にすごい。

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挑戦のモチベーションは身近なところから

五郎丸 僕は「挑戦」をするモチベーションは、案外身近なものから感じますね。子どもの頃は1つ上の兄貴を越えたい一心でした。小学校一年生くらいですかね。兄と一対一でぶつかり合って、両方吹っ飛んだんです。だけど、兄貴はそのままボールを持ってトライを決めた。……それがものすごく悔しくて。体格もそんなの変わらないのに、吹っ飛んだんです。だから、いつか社会人で兄弟対決をやりたかったというのはありましたね。もう、兄貴は引退してしまいましたけれど。

伊達 そうだったんですね。

五郎丸 その身近な目標の連続がワールドカップまで続きました。それで、ある程度結果が出たとき、自分の目標が全部なくなってしまった感じがしたんです。

伊達 ええ、そうなんですか?

五郎丸 ええ。そんな頃、海外から声がかかったんです。日本でプレーをした方が生活は安定しますけど、それではなんだか「目標」がないと思った。迷ったけれど、苦しい方に行った方がいいと思って決断したんです。

伊達 私も夢を実現するためには、厳しい環境に身を置きますね。実はそのプロセスが嫌いじゃないんです。

五郎丸 そうなんですか?

伊達 ええ。目標を達成するためには「じゃあ今はなにをしよう?」と考えていくタイプなんです。目標達成のためにはどのような環境に身を置くといいか。そのためだったら、厳しい環境に身を置くのは耐えられる。

五郎丸 なるほど。

伊達 若い頃は、そういう考えは難しかったけど、年を重ねたら考え方が変わりましたね。特に、再チャレンジの場合は効率よくしないと、吸収できるものも限りがあるし。……若い頃はスポンジのようになんでも吸収できたんですけど(笑)。年を重ねてからは、どのようにすれば「効率よく実現できるか」を考えるようになりました。

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世界に挑戦する2人の考えること

伊達 私は1989年にプロになって、日本と世界の「スピードの差」を実感したんです。世界で活躍する選手たちと比べて、私は身体も大きくはないし、筋力があるわけでもない。そのなかで、スピードにどう対抗していくかと考えるなかで「ライジングショット(バウンドした直後のボールを捕らえて打つ)」が生まれました。再チャレンジをした時は、女子のテニスがパワー化していてガラッと変わっていました。ブランクがある中、そこをどう埋めるかを考えたんですね。

五郎丸 どうやったんですか?

伊達 テニスってパワーやスピードだけではない。そこにこれまでの自分の経験をうまく使いながら、「タイミングを奪うテニス」を強調する形でテニスと向き合っていきました。

五郎丸 わかります。でも、ラグビーはコンタクトスポーツなので、逃げてしまうと戦いが成立しないんです。

伊達 そうか!

五郎丸 ええ。だから、まずは身体を大きくするところからはじめました。筋力やスピード面で身体の大きな海外の選手と一対一で戦ったときに勝てるかというと、正直言って難しいケースも多い。だから、体重や筋力などのベース部分を上げて、なおかつ日本人らしさをチームワークで持った、というのがワールドカップの大会でした。ぶつかり合うので、どうしても恐怖心を持ちます。ですけど、僕は恐怖心は悪いことじゃないなと思っているんです。

伊達 うんうん。

五郎丸 恐怖心があるからこそ、トレーニングを人よりハードにしないといけないと思うし、その危機感を僕はネガティブには捉えていないんです。

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競技をやめても人生は続く

五郎丸 これまで、ずっとラグビーを続けてきたわけですが、「人生はラグビーだけじゃない」という思いが強くなっていますね。本当に、今まではラグビーだけだったんです(笑)。

伊達 ですよね(笑)。

五郎丸 生活のすべてをラグビーに捧げてきました。だけど、ワールドカップ後に人生観が変わったんです。人生はラグビーだけじゃない。ラグビーを引退した後も人生は続くって。今はいろんなものを吸収しなくてはいけないと思っています。今回の『ATHLETES CHALLENGE 2018』にしても、子どもたちの接し方も学べるし、自分のなかに様々なキャパを増やしていかなければと思う。

伊達 もう競技者という立場ではないけれど、テニス・スポーツ界と離れるわけではないんですよね。スポーツから経験してきたことを、これからを生きていく子どもたちにも触れてもらって、スポーツを通して人間的に成長してもらいたい。私自身も小さい頃からスポーツと触れていろいろなことを経験してきたので、触れる機会を増やしていきたいなと思いますね。

五郎丸 僕も小さい頃、こういうイベントに参加したり、社会人の人に教えてもらったりしていたんです。だけど、緊張して固まっていたんですよね(笑)。子どもたちから話しかけてくるのはハードルが高いことがわかります。だから、なるべく話しかけたりしていました。

伊達 今回のイベントも子どもたちにとって印象深い体験になるのは間違いない。様々なスポーツを体験した上で、テニスを選択してくれればうれしいけれど、それがサッカーでもラグビーでもいい。もしかすると、スポーツから離れるかもしれないけれど、今日という日を境に、なにかに気づいたり、感じて考えはじめてくれたらいいですよね。

五郎丸 そうですね。本当にそう思います。

伊達 スポーツからやりきることの楽しさ、うれしさなどを学んだ上で、違うことを選択するのであれば、スポーツに限らなくてもいい。でも、私はやっぱりスポーツを通して伝えたいし、世界にも自分が経験したことを還元する存在になりたいと思いますね。

五郎丸 伊達さんは、人生でなにか成し遂げたいことはありますか? ……もう、成し遂げすぎてないかもしれませんが(笑)。

伊達 そんなことないですよ(笑)。私は元気なかわいいお婆ちゃんになって、ずっとテニスをしていたいですね。テニスはやり続けたい。それに、一日中テニスクラブにいる人は元気そうで、楽しそうでしょう?

五郎丸 海外のようなテニスの雰囲気を作りたいんですか?

伊達 そう。作りたいですね。フランスにいると日本との環境の違いを感じましたね。私は欧州のようなゆったりとテニスができる環境を作りたいですね。ラグビーもフランスやオーストラリアは盛んでしょう? 環境もとてもいいんじゃない?

五郎丸 そうですね。やっぱり、違いますね。

伊達 ラグビーもプレーをする子どもの人数を増やすのは大変ですよね。今日はイベントの最初に「なんのスポーツをしていますか?」って全員に挙手をしてもらったけど、サッカーの人気は圧倒的にすごかった(笑)。

五郎丸 そうですねえ。ラグビーもテニスももっと子どもたちにプレーする環境を作っていかなくてはなりませんね。

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  • 伊達公子(だて・きみこ)
    1970年京都府生まれ。
    小学校1年生の時にテニスを始め、高校卒業と同時にプロに転向。1994年、ニューサウスウェールズオープンで海外ツアー初優勝。日本人初のWTA世界ランキングトップ10入りを果たし、翌年4位となる。1996年に現役を引退するが、2008年に現役復帰。2017年に引退を表明した。
    https://kimiko-date.thetennisdaily.jp/

  • 五郎丸歩(ごろうまる・あゆむ)
    1986年福岡生まれ。
    早稲田大学では3度の大学日本一を経験。19歳で日本代表に選ばれる。2008年にトップリーグのヤマハ発動機ジュビロ入団、2016年シーズンにはレッズ(オーストラリア)に加入後、2017年にヤマハに復帰。
    https://goro15.com/