2017.06.16 - 19:58

アイランド“トレイル”ホッピング。 御蔵島と八丈島の山で遊んだ、初夏の週末。

(映像・写真 松田正臣 / 文 村岡俊也)

 トレイルランナーの上宮逸子さんとアドベンチャーレーサーである久保亜樹子さん。トレランのレースでは顔を合わせるものの、それぞれ得意とするフィールドが少しずつ違う二人が一緒に旅に出た。仕事を終えた金曜日の夜、竹芝ふ頭からフェリーに乗って向かったのは、御蔵島だった。

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旅をしたひと

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上宮逸子(右)
京都市出身、名古屋市在住。学生時代からバドミントンの選手として活躍し、実業団へ。バドミントン引退後に、マラソンを始め、さらにトレイルランニングに出会う。近年の成績に、2016年Sean O`Brien 50mile5位、OSJ山中湖温泉トレイルレース優勝、2017年OSJ新城トレイル11K、32K両優勝、Sean O`Brien100K 7位など。

久保亜樹子(左)
栃木県出身。高校時代に山岳部に所属したことで山、クライミングと出会う。2010年にハセツネ30Kでレースデビュー。2015年トルデジアンを完走している。2014年からアドベンチャーレースを始める。2016年にアドベンチャ―レシングジャパンシリーズ 岐阜長良川大会、長州大会で優勝(チーム戦)。2016年OSJ山中湖温泉トレイルレース2位。主な登攀歴にメラピーク(6654m)、甲斐駒ヶ岳ダイヤモンドAフランケ赤蜘蛛ルートなど。

島の生態系を学びながらのハイキングを楽しむ

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 周囲20km強、人口300人という小さな島は、イルカと泳ぐことのできる島として知られている。野生のイルカが居ついているくらい、海の水は深く青い。海面から急峻に切り立った崖が続き、平坦な道はほとんどない。「御蔵島は島っていうか、山ですよ」と、ガイドの栗本一郎さんが笑った。

 御蔵島の核心部へと続くトレイルへは、ガイドの案内なしには入ることはできない。島にトレイルランナーのガイドはいないため、トレイルを走ることはできないと思った方がいい。だが、その分、上宮さんが「いつもは通り過ぎちゃうけど、ゆっくり気持ちよく歩けました」と語る通り、島の生態系を学びながらのハイキングを楽しめる。

 長滝山へのトレイルの入り口には、小さな祠があり、その前には石が並んでいて、ガイドの栗本さんが近くの葉っぱを取って、石の下に敷くように指示をする。

「これは神様へのお祈りであると同時に、まあ、入山届みたいなもんなんです。石の下に葉っぱがあるということは、誰かが山に入っているということ。だから帰ってきたら、自分の葉っぱを捨てて帰ります。島の風習ですが、良い習慣だから今でも残っているんです」。それぞれが旅の安全を祈念して山へと入った。

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 きれいに整備された階段が続く。いつもとは違う、ゆったりとしたペースで山を歩きながら、「これは柘植の木。昔、女性たちが切り出した柘植を運んでいた道なんですよ」とか、「これはミヤマシキミ。香りがすごくいいからリフレッシュにどうぞ」とか、栗本さんの解説を聞く。山と人との関係性を知るという、山歩きの大きな楽しみを思い出させてくれる1時間のハイクだった。

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「島の成り立ちとか、歴史を知るのは本当に楽しいです。石碑があったりするとついつい立ち止まって、いつも妄想してしまうくらいなので(笑)」と、久保さんがアドベンチャーレースに惹かれる理由の一端を教えてくれた。なぜ、こうなっているのか? この先はどうなっているのか? それが知りたくて、山へ入っている。

 850mのピーク周辺は、ぐっと気温が下がり、強い日差しにもかかわらず低木の間を心地よい風が吹く。もっと先へ行きたいと思いつつ山を降りた。

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「しかし、二人とも足が強いね! ビックリしましたよ」と栗本さん。山を降りた後には、島に600本近く生えているという幹の周囲が5m以上ある巨樹に会いに連れて行ってくれた。その巨木のシイノキは、オオミズナギドリという海鳥の巣になっていて、地面のあちこちに小さな穴が空いている。離陸のために羽ばたくことが不得手なこの海鳥は、シイノキを発射台として、毎朝海へと飛び立つという。巨木を抱える深い森の島。御蔵島は、まさしく海に浮かぶ山であり、海に浮かぶ森だった。

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赤く染まる海を見るために、走る。

 夕方、まだまだ体を動かしたいと、昼寝から目覚めた二人は黒崎高尾の展望台まで、6kmほどのロードを走った。ひたすら登りが続くトレーニングのような道。じんわりと500mの高低差を登り続ける。

「自分一人ではあんまりロードの登りの練習なんてしないから、旅に出てよかったのかも」と、上宮さん。二人で旅をすることの意味は、意思を強くできることにある。淡々と走り続け、展望台までの最後のほんの少しのトレイルで上宮さんのスイッチが入った。やっぱりロードよりも、トレイルが好きだということを再確認する。わずかな距離だったが、ステップを踏むスピードが、ロードとはまったく違った。展望台に着いた頃には昼には真っ青だった海が夕焼けに染まっていた。

「やっぱり夕焼けと海は、ご褒美ですよ!」 
 海を見つめる視線に、旅の充実感が滲む。

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縦走のため、八丈島へと向かう。

 翌朝4時半に、バンガローで目を覚まし、6時前のフェリーに乗って八丈島へ向かった。3時間弱で到着した八丈島の観光案内カウンターで、山好きだという女性から情報を仕入れた。オススメされたのは、八丈富士のカルデラの中にある神社と、それから御鉢。そして点在する、滝。ひょうたん型の八丈島には、森ではなく牧草の生えた美しい八丈富士と、空港のある平地を挟んだ反対側に、鬱蒼とした緑を抱えた三原山がある。標高854mと伊豆七島では最も標高が高い八丈富士にまず登り、それから一気に平地へ降りて、650mの三原山へと縦走することに決めた。島はそれぞれに、まったく違う景色を見せてくれる。アイランドホッピングの魅力は、その劇的な風景の変化が簡単に味わえること。

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 八丈富士へと登るトレイルの起点から、延々と階段が続いた。高低差300mを1280段の階段で登っていく。およそ1時間のコースルートを30分で登り、観光案内所で聞いた通り、まずは浅間神社へ。わずかでもトレイルがあると、上宮さんは思わず走り出してしまう。土の感触が、自然と体を動かすのだろう。浅間神社へ参拝すると、そこには苔むした岩があり、シダ類がまとわりついた御神木が後ろに控えている。雲がかかっていることの多い八丈富士の頂上は、“下界”と植生が違う。その湿気のためか、冷んやりとした空気のためか、神秘的な雰囲気を感じさせる。幸運にも雲が切れて光が差し込み、緑が立体的に輝いていた。

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 地形に強い興味を惹かれる久保さんは、神社の脇のさらに深く窪んだ崖下を覗き込み、降りることができる道を探していた。トレイルはなくとも、アドベンチャーレーサーにとっては関係ない。どうすれば、あそこへ行けるのか? その妄想さえもトレーニングの一環かもしれない。神社を出て、カルデラの中心部へ向かう途中にあった洞窟にも吸い寄せられるように近づいて、覗き込んでいた。「洞窟、気になるんですよね(笑)。どこまで続いているんだろうって」

 一度降りたカルデラの中から御鉢へと出てくると稜線から海がきれいに見える。この対比こそが、島の魅力だと、上宮さんが言った。

「視界の中に山しかないっていう風景ももちろん大好きなんです。でも、海が見えるとそれだけで開放感がある。稜線に出たら風が吹いて、海が見える。やっぱり島はいいなあ(笑)」
 御鉢をぐるりと回ると、先ほどまで自分たちがいたカルデラの中の池が見えた。

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 階段を一気に駆け下りて、三原山へと向かった。トレイルはそれほど長くない。ロードを走って平坦な土地に一度降りて、空港脇のヤシの木沿いの道を気持ちよく走る。島の牛乳を使ったソフトクリームで「復活!」してから、三原山へと登り出す。歩幅の狭い階段を登っていると久保さんが、その道が巡視路であることに気づいた。
「標識がNHKだったから(笑)。送電線が通っていれば、必ず道があるんですよね。これも山と人との営みの一つですよね」

 あっさりと三原山の頂上付近、稜線に出ると、八丈富士が裾野まできれいに見えた。あの山の頂から、ここまでの道のりが全て見える。だが、林道へと降りて3kmほど走り、唐滝へ向かうトレイルは、草に覆われてほとんど藪漕ぎのようだった。その状況にテンションが上がったのが、久保さん。トレイルが鬱蒼としていればいるほど、「開放されたように感じる」のだという。トレイルをなんとか辿って深く分け入るたびに、目が爛々と輝いていく。一方で嫌いな藪漕ぎに苦労していた上宮さんは、滝に到着した途端、一気にテンションが上がった。滝に打たれて、冷たい水に思わず「うひゃー!」と叫んでしまう。その間に久保さんは滝口で泳いでいたアカハライモリを捕まえている。なんとも対照的な二人だが、それぞれの山の楽しみ方をしっかりと持っている。

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 滝から林道、さらにロードと山を降りて、海へと走った。やはりゴールは、海がいいと上宮さん。島の楽しみは、山と海が同時に味わえることなのだ。

 上宮さんは言う。
「あっちから来て、こっちの山を越えて、最後に海へとたどり着く。それが視覚でも体感でも味わえることが、島の魅力なんだと思う。土地を体で把握するのは、やっぱりとても面白いです」
 次は「洞窟探検をやりたいです!」と、久保さんは笑った。

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旅をアクティブにしてくれるルーファスW6について

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2人の旅を快適に支えた、〈GREGORY〉のルーファス。今シーズンついに女性専用モデルのルーファスW6がリリースされる。プロトタイプからテストに参加していた上宮さんからのフィードバックも反映されているという。体を包み込むようなデザインと安定性が最大の特徴。行動食などへ簡単にアクセスできるポケットのほか、背面のツインポケットには、ボトルやアウターを入れることができる。容量は、6ℓ。重量、440g。

ルーファスW6 / 2色展開 / 15,000円(+税)
6月24日(土)発売予定
詳しくは以下のメーカー公式サイトにて
http://www.gregory.jp/item/detail/RUFOUSW6_D71_1/4199

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