フルマラソンの距離が42.195kmとなったのは、1908年に開催されたロンドン五輪といわれています。優勝した当時のアメリカ選手のタイムは2時間55分18秒。そこからスタートした近代マラソンの歴史は、約100年の時を経て、デニス・キメット(ケニア)が叩き出した2時間2分57秒までスピードアップしました。

実に100年で約1時間の短縮。そしてこの”2時間”という、マラソン界で脈々と続いた記録をブレイクスルーするために発案されたのが、ナイキのイノベーションプロジェクト「Breaking2」です。この挑戦に選ばれたのはケニアのエリウド・キプチョゲ、エリトリアのゼルセナイ・タデッセ、エチオピアのレリサ・デシサの3人。フルマラソンの2時間切りはまさに異次元の世界。ナイキは不可能を可能にするために、スポーツ分野に関わるさまざまなリーダーたちだけでなく、アスリート、プロダクト、トレーニング、栄養、環境まで、このチャレンジを達成するために包括的な視点でアプローチをする予定です。

昨年12月の発表以来、今後ナイキがどのような発表をしていくのか期待が高まっていた矢先に、当プロジェクトに参加しているナイキのフットウェアイノベーション担当副社長であるトニー・ビグネル氏、ナイキスポーツ研究所のブラッド・ウィルキンス氏、ナイキスポーツリサーチラボ研究員のブレット・カービー氏へのインタビューが実現。人類史上初となる偉業への挑戦に対して、可能性とその先にある未来について、「onyourmark」編集部がうかがってきました。

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多くのランナーに「Breaking2」を通して、情報や技術を還元していく

–このプロジェクトを発足した経緯を教えてください

アスリートはより速く、効率的に動きたいと考えています。それを実現するためにナイキは、これまでもプロダクトのデザイン、素材、サービスを通してサポートしてきました。「Breaking2」は、マラソンでの2時間切りの実現という、人間の可能性に挑戦するためのイノベーションプロジェクト。ゴール達成を目指すのはもちろん、このプロジェクトを通して得られる情報や技術を、プロダクトやサービスを通してエリートアスリートだけではなく、多くのランナーに還元していきたいと考えています。

–どのようにして、今回のアスリートをセレクションしたのですか?

約2年をかけて60名程のアスリートを分析し、このプロジェクトに挑戦する3名のアスリートを選定しました。分析した主なポイントとしては、①負荷に対する耐性②エネルギー効率③エネルギーの持続性の3点にフォーカスしました。①はフルマラソンを2時間で走ることに耐えられるような負荷に対応する力。②は車の燃費のように、エネルギーを効率よく消費できる力。そして③は長時間維持することができるエネルギーの持続力を意味しています。

また、プロジェクトに挑戦するにあたっては、運動能力だけでなく、メンタリティーも非常に重要な要素となります。長距離を走った後に「再度同じ距離を走って」と伝えた際の反応や、この挑戦に対して気持ちの高ぶりや、前向きな姿勢をもっているかなども、大きな選定のポイントとなりました。

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–「Breaking2」を実施する場所、環境、時期はどのような状況を想定しているか

まだ決まってはいませんが、完璧な場所、環境、時期を求めて、現在検討をしています。まずは坂のない平坦な場所。また一定期間において、気温、湿度、風などの環境が保てる場所を検討中です。気温はアスリートの体温が最適な状況に保てる約10℃を想定。ただ実施時期については、ロケットの発射タイミングと同じくらい難しい問題(笑)。まだ答えられませんが、だいたい1週間くらいの期間を使って記録達成にチャレンジします。

この「Breaking2」を通して、プロダクトの新しいイノベーションを作る

–挑戦にあたって、彼らはどのようなトレーニングを行うのでしょうか

世界トップレベルにある優れたアスリートである彼らに対して、運動力学、コーチング、デザイン、エンジニアリング、素材開発、栄養、スポーツ心理学、生理学など、各分野で世界クラスの専門家からなるチームを結成しています。アスリートが行っているトレーニングのデータを分析し、彼らのコーチがこれまでアクセスできなかった情報を提供。その情報をもとにアスリート、コーチと相談をしながらトレーニングをサポートしています。

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–このプロジェクトにおいて、どのようなプロダクトを投入するのでしょうか

プロジェクトを成功させるために、アスリートを守り、パフォーマンスを最大化させるプロダクトの存在は重要です。ポイントは3つ。「クッション性」「推進力」「軽量性」です。42kmを走るにはしっかりと足を保護し、身体を効率的に動かす為の「クッション性」が重要。2時間を切るためには、前に進むバネのような「推進力」も重要ですし、スピードを求めるならシューズの「軽量性」は欠かせない要素になります。

実際にどのようなイノベーションが搭載されるかは、まだお答えできません。ただクッショニング、推進力に関する新しいイノベーションを生み出したいと考えています。このプロジェクトにおいては、3名のアスリートに最適なプロダクトの開発を進めていますが、今後そのイノベーションを幅広いランナーの皆さんのために活用していくのが最大の目標です。