(写真 古谷勝 / 文 倉石綾子 / 取材協力 THE NORTH FACE

先日、山梨県の瑞牆山近辺で「THE NORTH FACE キッズネイチャースクール」のプログラムの一つ、ファミリークライミングのワークショップが開催された。「キッズネイチャースクール」とは、子どもたちの冒険心を呼び起こし、親子で自然に触れられる機会を提供しようと、THE NORTH FACEが2014年に始めたプログラムだ。その内容はトレイルランニング、ネイチャーエデュケーション、スノーシューハイクなど多岐に渡る。また、このコンセプトに、THE NORTH FACEに関わる多くの一流アスリートが共感、ガイド役として各プログラムをサポートしているのだ。

 

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足を怪我してあいにくのコンディションの平山さん。本人たっての希望でイベントに登場した。

今回は企画段階からこのコンテンツに携わるプロ・フリークライマーの平山ユージさんに密着し、子どもたちにクライミングやアウトドアの楽しさを伝えるキッズプログラムの意義を考える。

11月のある晴れた土曜日。瑞牆山岩場エリアに、「キッズネイチャースクール」のリピーターを中心とした8組の親子が集まった。外岩は全く初めてというクライミングビギナーの親子、ジムに通う娘と娘に誘われてボルダリングを始めたばかりという父親のコンビ、去年の同イベントにも参加したという父子など、年齢も経験値もさまざまだ。ワークショップの冒頭、平山さんはそんな参加者たちに向けて今日のイベントの趣旨を紹介する。

 

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「これから登る岩にはルールはありません。みんなでスタートとゴールだけ決めたら、どう登るのかはその人次第です。自分だったらどう登るのか考えてみて、友達と話し合ってみたり、他の人とは違うルートに挑戦してみたり。一つの岩でもいくつもの楽しみ方があるということを知って、自分なりの登り方を探してみてください」

どの岩を登ろうか、そんなことからコミュニケーションが始まる

ワークショップは、ウォーミングアップを兼ねて高さ1メートルほどの小さな岩から始まった。クライミングは全く初めてという子どもも参加しているのだが、子どもたちの視点からはこのくらいのサイズの岩だって立派な冒険なのだ。1人が成功すると場のムードは一気に変わり、はじめはおずおずと岩を触っていた子どもも我先にと登り始める。やがて1メートル数十センチ、2メートルくらいと、少しずつ大きなサイズの岩を選ぶように。
 

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大きな岩壁にしがみつく子どもに対して、常時2〜3人のサポートがついている。この万全のバックアップ体制もこのワークショップの特徴だ。いずれもTHE NORTH FACEのショップスタッフたちで、スポットできちんとサポートができるよう、クライミングの経験者ばかりを集めているという。

 

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このファミリークライミングの開催は今年で3回目。平山さん自身、多くの親子と直接ふれあい、クライミングを教える中でプログラムのあり方や方向性を手探りで模索してきた。

「初回は既存のルートを使いましたが、参加者に自由に楽しんでもらう形にしたいという思いもあり、去年から自然のままの岩を使うようになりました。苔の生えた岩を前に、自分たちで『登れるかな?』と考えてもらい、苔や汚れを掃除してスタート&ゴールを決め……、それぞれがルートを考えるスタイルに変更したんです。その方が子どもたちの発想力が生きるし、岩を見て友達とああだこうだと言い合う楽しみが増えるでしょ?こんなに小さな、まだビギナーの子どもたちの間にも、クライマー同士のコミュニケーションが自然に生まれるんですよね」
 

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中でも目立っていたのは、クライミング経験者の小学生だ。5歳で初めてクライミングを体験、現在は月1回〜2か月に1回はジムを訪れるという小学3年生の男の子は、「息子と一緒に楽しみたい」というクライミング好きの父親に連れられて参加。外岩は去年のファミリークライミングに続いて2回目の挑戦だという。父親曰く、「普段は1つの課題に長く集中できない」というが、平山さんに手とり足とり教えてもらい、夢中になってトライしている。その他にも、観覧車は怖がるのに岩場には全く恐怖心を抱かないという6歳の男の子、この夏からジムに通い始めたという女の子など、それぞれが好みの岩を見つけて自由に楽しんでいる。

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子どもを外に連れ出すために、まずは親の意識を変える
午前中はキッズたちのクライミングをメインに実施、午後は大人も楽しめる岩場に移動して、家族みんなでクライミングを楽しんだ。このように親子で参加するプログラムの意義について、THE NORTH FACE KIDSでキッズプログラムの運営に携わる田中博教さんはこう解説する。
 

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「そもそもこの『キッズネイチャースクール』は、親の意識から変えていこうという思いから始まった取り組みです。キッズ向けのワークショップはたくさんありますが、親子が一緒になって自然に寄り添う術を学んだほうが、家族でアウトドアへ出かけるチャンスが増えると思ったんです。子どもたちに生きる力を育んでもらうと同時に、自然に触れることで得られる体験や知識を大人にも身につけて欲しい、そんな願いから生まれたのが『キッズネイチャープログラム』なんです」

そもそも大人のアウトドアスキルが高くなければ、子どもを外に連れ出す機会だって自ずと減ってしまう。若いクライマーを例にとっても、人工壁から入って外岩やアウトドアの世界を全く知らないままコンペに流れたという選手が圧倒的に多い。平山さんにとって、子どもたちを自然の岩場に連れ出すこと、自然のなかで親子一緒に遊ぶ機会を提供することこそ、このイベントの狙いなのだ。

「昔はハイキングや登山からクライミングに流れていましたが、いまはジムから入るのが主流。多くの子どもたちはジムでクライミングに触れ、室内のボルダリングしか知りません。でも、僕はクライミングの原点ってアウトドアにあると思うんです。ジムから入ると競技思考になりがちですが、コンペに勝つだけがクライミングじゃない。登るルートを見つけ、掃除をしてトライする、そんなプロセスにあるクライミングの醍醐味をクライマーの卵たちに見せてあげたい。うまく外の世界に誘導して子どもたちにいろいろな選択肢を示すことができたら、彼らのその後のクライミング人生も大きく変わると思うから」(平山)

 

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国内最大規模のボルダリング大会「THE NORTH FACE CUP」をプロデュースするなど、長きにわたって日本におけるクライミングシーンの発展に寄与してきた平山さん。子どもたちに向けたこうした地道な取り組みが2020年に向けてクライミングを盛り上げる一助になるのはもちろん、日本のクライミング界の裾野を広げ、より豊かなアウトドアカルチャーを根づかせるきっかけになると考えている。

「クライミングに限らず、アウトドアアクティヴィティというのは人生をより豊かなものにしてくれるツールです。そして自然は僕たちに冒険心やチャレンジすることの面白さを教えてくれます。このイベントをきっかけにクライミングの魅力に目覚め、自然の中で遊ぶことの面白さを見出してくれる子どもが現れたら、僕にとってこれに勝るプレゼントはありません」

 

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平山ユージ
1969年東京生まれ。15歳でクライミングを始め、日本の難ルートを次々に制覇。アメリカでのトレーニングを経て19歳からはヨーロッパを拠点に活動する。1997年ヨセミテのサラテウォールを、2003年には同・エルニーニョを、ともにオンサイトで完登。コンペティションでは1998年と2000年にワールドカップ総合優勝を果たしている。2010年に長年の夢であったクライミングジム「Climb Park Base Camp」を設立した。