去る11月24日、ニューバランスが新たなランニングコミュニティ「new balance run club(NBRC)」を始動させました。「NBRC」の最大の特徴は、ランクリニックやイベント開催だけでなく、“自発的にランニングを楽しむ人々が、個々を尊重しながら作るコミュニティ”であることです。

テーマはずばり、“進化を触発するサードプレイス”。昨年発行された「mark 04」号でも紹介しましたが、 “サードプレイス”とは自宅でもない職場でもない第3の場所のこと。カフェ・カルチャーの隆盛を語るにあたって頻繁に使われる言葉で、新しい関係を作れる居心地の良い場所とも要約できます。

ゆえに、「NBRC」は旧来の競技性の高いランニングクラブや、集団としての結びつきが強いランクルーとは少し面持ちが違う模様。クラブメンバーはあくまで普段それぞれ自立した活動をし、オフィシャルイベントやSNSでお互いを触発しあい、新たなリレーションを作っていく存在を目指していくそうです。

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そして「NBRC」始動日と同じ、11月24日には同ブランドの世界最大規模の旗艦店「ニューバランス 原宿」でローンチイベントを開催。雑誌「走るひと」の上田唯人・編集長をファシリテーターにむかえ、文筆家の松浦弥太郎、モデル/スタイリストのベイカー恵利沙、実業団選手として活躍し現在は「YAGI RUNNING TEAM」の代表を務める八木勇樹による、ランニングとコミュニティの関係についてトークセッションが行われました。

頑張らないランニングに、楽しみの本質がある(松浦弥太郎)

ーー普段は、どのような姿勢でランニングに取り組んでいらっしゃいますか?

松浦弥太郎(以下、松浦) 僕は走り始めて7〜8年くらいたちますね。だいたい週に3回程度で、駒沢公園で10kmほど。準備運動含めて1時間走っています。
 

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八木勇樹(以下、八木) 練習は週に7回ですね(笑)。全て自分自身でトレーニングを決めています。チームでは週に2回、月に8回。私がチームメンバーのトレーニングメニューを個々につくって、私やスタッフがペースメーカーを務める形でランニングしています。

ベイカー恵利沙(以下、ベイカー) きっかけは、メディアでのフルマラソンに挑戦する企画です。最初は2kmくらいがやっとでしたけど、一生懸命に練習しました。何回もやめたいと思ったけれど、フルマラソンは無事に完走。その後もフルマラソンを走りつづけ、今は4回完走しています。現在はランイベントが多く週に1、2回は走ってますが、イベントは夜になることが多いので、1人で走る時には朝走るように心がけています。。

松浦 僕の場合、基本的に1人で走っていると、例えば4分/km台で走ろうとおもってしまう自分がいてつらい(笑)。ものすごくつらいですよ。こんなに苦しい思いをして「なんで走っているんだろう」と思うんだけど、走った後に、ブラブラと散歩しているような気分でジョギングするんです。近時間とか距離とかは関係なく、6分半〜7分/kmくらいのペースで走る。それがすごく楽しいんですね。

あと、誰かと共有しながらランニングするのもいい。僕は週1回、駒沢公園でラン仲間と走るんだけど、集まる理由は頑張るためっていうよりも、楽しむ感じ。だから自分にとって、早く黙々と走ることよりも、ライフスタイルにおけるランニングが重要になってきています。

ーー走るために集まるというより、走ることが集まるための“口実”という感じもします

松浦 例えば、1人でカフェに行き、コーヒーを注文して落ち着く。それが自分の習慣になってきたときに、隣にいた人とおしゃべりをし始める。すると、偶然そこで出会った人と仲良くなる……。いつのまにかカフェが“サードプレイス”になってたりする。

ランニングクラブも同じで、実はそういうことを目的としてなかったんですが、自然発生的に生まれた気がします。そこの居心地がいいというか、非常に自由だし、力の抜けた場所になっていますね。

ーー走ることをどのように生活に取り入れていくか、ということを無意識に取り入れてるような感じがします

松浦 そうですね。なんだかいつの間にか、衣食住と同じ感覚で、ランニングが入り込んでいる気がします。

コミュニティでも、それぞれの目標に向かうことがいい(八木勇樹)

ーー誰かと走ることが、競技としても有益である側面もあると思うんですけど、実業団と「NBRC」のようなランニングコミュニティの仕組みは違うものなんですか?
 

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八木 全く違いますね。例えば大学競走部の長距離部門だったら、だいたい50人くらい部員がいますが、トレーニングメニューは1つしかない学校がほとんど。それがフィットする人は力をつけられますが、生まれ育った環境や、性格の違いもありますし、合わなくて結果が出なくなり、怪我をする選手もいます。

私自身は大学、実業団に所属していた時代から、もっと個々にあったメニューがあればいいのになと思っていました。結局、それが独立するきっかけにもなったんですが。東京五輪を目指すランナーとして、何が一番正しいのかを追い求めていくのもありますし、それは競技者だけでなく一般の方にもいえる。私が練習会で伝えているのが一緒にトレーニングしていても、その中から1人1人のメニューをそれぞれ確立して、それを結果に結びつけること。それが、タイムだけでなく、体重が落ちたとか走れる距離がのびたとか、それぞれの目標に向かえればいいと思うんです。
 

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松浦 目標が一つじゃないというのは、すごくいいことだと思います。例えば体育会系という言葉がありますが、まあそれはそれでいいんだけど、体育会系ではないスポーツの楽しみ方もある。僕のランニングも、いわゆる“体育会系”じゃない方向を目指している。決して苦しいことから逃げているわけではないんだけど、体育会系のスポーツではない走り方のスタイルは面白い。こういったアプローチは、うまく言語化はできないんですが、人間関係を作るような形の楽しみ方がありますね。

走る楽しさをメッセージしていくツールにしたい(ベイカー恵利沙)

ーーランニングコミュニティの可能性はどのようなところにありますか

松浦 僕はゆっくり走っているだけなんだけど、自分にとって日々の励みになっている。だからコミュニティで人に交わることで、1人の日常生活にもどったときに、普段よりタフになれる気がします。走っているときはみんなで走りますが、逆に1人でいるときはそれまでの自分より強くなっている感覚です。
 

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ベイカー みんなが走ることで、何かメッセージみたいなものを伝えていけるツールになればいいな、とおもっています。私達がInstagramで走る姿をアップすると、だいたい若い女性から「どれくらい痩せたのか」みたいな質問が多いんですけど、それが嫌で(笑)。私もそうなんですが、女性って、若いころから「痩せなければならない」という強迫観念のようなものがある。もっと踏み込むと、誰かになりたいという思いばかりで、「あれが足りない」と常に引き算になってばかり。近づかそうとすると、周囲にも同じような子ばかりになって、「もっと足りない」というスパイラルに陥るんです。

とても苦しかったんですが、いつからかそれを放り出したとき、すごく楽になりました。誰かになろうとしてもなれないし、それは自分でもない。だからランニングをしているときも、痩せたくて走っている人は周りにだれもいない。だから、時間はかかるかもしれないけど、自分自身を認めることの良さをランニングコミュニティを通して伝えられるんじゃないかなと思います。

八木 陸上に限らず日本特有の文化として、あらゆることがストイックでまるで修行僧のように思えます。私自身、大学や実業団でそこに身をおいていましたが、そういった環境にいると自分自身もその価値観に染まってしまう人が多い。僕はそこがブレていないというか、わがままだったので(笑)、比較的染まることなくこれまでずっと人間は1人1人違うものなんだと常々思っていました。だからランコミュニティを通して、自分は日本の陸上界をも変えていけたらいいなと思っています。実際、マラソンの世界記録が2時間2分台にまで到達している今、これまでの日本の陸上競技の世界では通用しない時代になってきています。私個人としてはその道を切り開くことで、10年後とかに有望な選手がでてきたときにサポートできればと思っています。

「new balance run club(NBRC)」
公式サイト http://www.newbalance.co.jp/running/nbrc/