2016.11.14 - 18:51

大迫傑 戦いを終え、次へ。

(写真 / 松本昇大 文 / onyourmark編集部)

リオ五輪での戦いを終えた大迫選手。現地時間8月14日に行われた男子10000m、決勝では27分51秒94で17位。17日に行われた5000m予選は13分31秒45の28位でいずれも敗退した。2種を終えた大迫は、試合後のインタビューで「レースひとつひとつが僕の経験になっている。それを活かして、課題を見つけて、次に向かっていきたい」と悔しそうに答えた。それから2ヶ月後、リオ大会を振り返ってもらった。大迫選手はいつも通りクールで、普段の大会とさほど変化はなかったという。

ただ、驚いたのはその「歓声」の熱量

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「五輪も僕にとっては普通の世界大会とあんまり変わらないと思っていた。だけど、応援や反応の違いをすごく感じましたね。ほかの世界大会に比べると非常に大きい。普段、陸上をあまり見ない人でも僕に声をかけてくれたり、Twitterでのフォロワーが急に増えたり、しばらく連絡を取っていなかった地元の友だちから連絡が来たりとか(笑)。ほかの大会とはやっぱり違いますね。そういう違いを肌で感じて、オリンピックってすごく大きな大会なんだなって気がつきました。それがモチベーションにもなったので、上手くプラスにできたなと思います」

リオ五輪の中で、大迫選手のハイライトはどのシーンなのだろう。それを問うと、大迫選手は意外にも自身が戦ったレースをあげることはなかった。

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「一通り1500mと5000mの決勝は見に行きました。オレゴンプロジェクトのチームメイトが1500mでメダルを取ったのはすごく興奮しましたね。僕の応援席の後ろに、ナイキ本社の人がいて一緒に盛り上がった。その歓声を聞いて、五輪というのはやはり大きな大会だなって改めて感じました。
選手村は、なんというかお祭りっぽい雰囲気でした。五輪のマークの前で写真を撮ったりね(笑)。長距離と競歩の宿泊施設は、日本選手団とは離れていて、ほかの競技の選手とはあまり会うこともないんですよ。だから、友だちになったり話すこともありませんでしたね。選手の中にはドアを開けたままアニソンを聴いている人もいて……。……それもまた、五輪のハイライトですね(笑)。もちろん、僕もヘッドフォンで音楽を聴きます。アガル系のやつを聞くことが多いかな。洋楽のテンポやリズムが好きなので、エミネムとか聞きますね。レース前に気持ちを高めたり、逆にリラックスもできるので」

リオの舞台で、走ってるときはなにを考えていたのだろう。また、どういうふうに結果を受け止めているのだろう。レースを見る限り、暑さと戦い、必死に先頭集団に食らいつこうとする大迫選手の姿が印象的だった。

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「リオではいつもの大会と変わらないような感じでスタートラインに立てました。足が軽いとか、緊張で重たいという感じではなく。そうですね、レース中は戦略を一番考えています。どこまでがんばってリラックスしていこうとか。……(先頭集団と)離れたときは別空間にいるような感じでした。先頭の選手なんてすごい歓声の中走っている。僕は別レースをしたな……っていう風に感じました。
(五輪を終えて)今までやってきたことをボリュームなり質なりを、追い求めていくということが改めて大事だと再認識できたと。それと同時に、劇的に自分が変わることがないと改めて実感した。だから、本当に少しずつ時間をかけて確実に成長していくしか、自分が目指したところで戦うことはできないと思いましたね」

筋トレはルーティンに組み込まれている

onyourmarkでは、名古屋市瑞穂公園陸上競技場で行われた日本陸上競技選手権大会後、大迫選手に取材をしている。その時、アメリカでのトレーニング時に筋トレを取り入れたことを話してくれた。日本でのトレーニングでは筋トレをしていなかったそうだが、その時と身体の違いは感じているのだろうか?

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「本格的な筋トレはオレゴンプロジェクトのチームに来てから始めました。筋トレは体幹トレーニングがメインになっていますね。筋肉を大きくせずに『強くする』イメージ。筋肉の1本の繊維を太くするのではなく、ボリュームは変わらないけど、1本1本を強くする感じ。最初は、筋トレをやったことがなかったので、(筋肉を付けたことで)走りづらさを感じたことがあったのですが、今はもうトレーニングのルーティンの中に入ってるから、走る上でもそんなに邪魔でもないですし、むしろ自分の身体に馴染んできている。ここ最近、自分が強くなったという感じがあるのですが、ウェイトトレーニングが役に立っているのかっていうのはわからない。筋トレだけではなく、色んな要素が合わさった中での強さという感覚なので」

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取材時に大迫選手が履いていた「ナイキ エア ズーム ストリーク 6」。大迫選手はストリークを2年ほど前から履いているのだという。

「トラックシーンではあんまり使わないんですけど、ちょっと長めのテンポ走やペース走のときは履きますね。あとは5000mくらいのロードレース。履いて思ったんだけど、日本の人が好きそうな感じじゃないかな。わりと固めですけど、クッション性もある程度あって、ロードでも反発をもらえます」

五輪が終わり、次なる目標は、イギリスのロンドン・スタジアムで開催される2017年世界陸上競技選手権大会だ。ロンドンに向けてのモチベーションを訊ねた。

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「今、常に前進している感じがしています。例えばタイムが1秒早くなるって、周りの人にとっては気づかない変化だと思うのですが、自分にとってそのタイムは『初めての体験』なんです。そういう『自分にとっての新しさ』が常に自練習のモチベーションの中になってるのかもしれない。タイムや距離が伸びた後、それによって身体がどんな感じになるのだろう、その後シーズンでどれだけ変わるんだろうっていうのは楽しみですね」

アメリカを拠点にして約2年の月日が経つ

現在のオレゴンプロジェクトでの環境や練習は大迫選手にどのような刺激を与えているのだろう。最後に、アメリカでの環境を訊ねた。

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「(オレゴンプロジェクトに参加して)スピード、スタミナ面でも成長してる。ゲーレン・ラップなどのトップ選手との練習も増えてきた。今の僕は目標としている選手を追って練習量を上げたり、強くなっていく段階だと考えている。今はこの環境に満足しています。だけど、今後彼らトップ選手に勝ちたいって思ったときは、さらにコーチと相談して戦略やトレーニングを決めていきたいですね。
 昔に比べて僕はずいぶん、タフになったなって思います。例えば10000mの試合中、レースが遅くても8000mまでは集団の中で我慢できるようになった。高校生くらいだと、調子が良かったら前に出ちゃったりとかしてたけど、ちゃんと自分の戦略に徹することができるようになってきた。『戦略ができる力』もついてきたというのもありますね」

五輪という大舞台を経験し、多くのことを学び、吸収した大迫選手。次に大きな注目と声援を受けるのは2017年世界陸上競技選手権大会。ゆっくりと、しかし力強く大迫選手は変わり続けている。その「変化」がどのような結果に結びつくのか、ロンドンでの戦いに期待したい。

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大迫傑(おおさこ・すぐる)
1991年5月23日生まれ、東京都出身。早稲田大学スポーツ科学部卒業。ナイキオレゴンプロジェクト所属。

自己記録 5000m:13分08秒40(日本新記録)
     10000m:27分38秒31
     ハーフマラソン:61分47秒