(文 小泉咲子 / 協力 GapFit

9月30日から3日間、“スポーツと乳がん”をテーマにチャリティヨガイベントを行うなど、乳がんに関する知識と理解を深める取り組みを積極的に行っている『GapFit』。イベントの目的は、乳がんサバイバー(経験者)やそのサポーターへの支援です。イベントのレポートはこちらを見ていただくとして、ここでは、聖路加国際病院の山内英子先生によるレクチャーをお届けします。乳がんサバイバーを取り巻く現状や運動と再発との関係など、興味深い話の連続です。

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Q.乳がんのリスクファクターは?
A.食生活の欧米化などさまざま。美容目的のホルモン摂取も要注意。

今は、初潮が始まるのは低年齢化している一方で、未婚の方が多く、初産年齢が高い。乳がんはホルモンに関連する病気なので、女性ホルモンに晒されている時期が長いほどリスクが高まります。また、ホルモン補充療法もリスクファクターになりえます。お肌がつるつるになるとった美容的メリットを求め、ホルモンを摂取したりプラセンタ注射を打ったりするのは、正確なデータは出ていませんが、10年、20年と続けるのはリスクになると思います。リスクを考慮した上で、使ってほしいですね。

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Q.若いうちからみんな検診を受けるべき?
A.マンモグラフィーは40歳からで十分。

乳腺が非常に密な若い人がマンモグラフィーを撮っても、判別がつかない場合が多いんです。判別がつかず再検査となると、検査結果を待つ間、その女性は「乳がんだったら…」と不安でたまらない。そうした方の精神状態を調べると、がん患者さんより鬱度が高いんです。
被ばくの問題もありますし、“検査はいいことばかり”と思っている方が多いのですが、不利益もあることを知ってほしいですね。

不必要な検診による医療経済的な問題もあります。任意検診で自分が費用負担する場合でも、医療現場のマンパワーには限度がありますので、「若い人の乳がんが増えている」という報道を見て「怖いから」という理由だけで検査を受ける人が殺到してしまうと、ほんとうに検査が必要な人が受けられないことも。日本では、40歳から2年に1回のマンモグラフィー検査を薦めています。検診は賢く受けて、いたずらに不安にかられないでください。

ただ、女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが乳房の予防的切除を受けたことで有名になった遺伝性乳がん・卵巣がん症候群の方は例外です。ご家族に乳がんの方がいるなどの理由から心配で遺伝子を調べる際は、ちゃんとした医療機関で行いましょう。ネットなどを通じて気軽に行えるDirect To Consumer(DTC)遺伝子検査は、唾液を送るだけで手軽で、日本でも話題になりましたが、データの根拠に乏しい上に、遺伝子情報を研究に使われることも。アメリカでは今、訴訟に発展しているケースもあり、気をつけて選択してください。

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Q.私たちが取り組むべき、がんサバイバーを取り囲む問題は?
A.大きな問題のひとつが就労。

今は日本国民の2人に1人ががんにかかる時代。がんと診断された人が仮に、全員仕事を辞めると最大で1兆8000億円の労働損失となります。その中でも最も損失が大きいのが乳がんで1042億円。そのくらい乳がんは、働き盛りの女性がかかるケースが多いんです。がんは、もはや不治の病ではなく慢性疾患。とくに乳がんは死亡率が低く、治療を受けながらも仕事に戻れるサバイバーもたくさんいます。しかし、以前と同じように働けないこともあります。ホルモン治療をしている方には、言葉で説明するのが難しい倦怠感がありますし、抗がん剤は研究段階ですが、認知機能が落ちることもあると言われています。でもみなさんも、お子さんが病気だとどこか集中できなかったり、ショックなことがあると仕事の能率が落ちますよね。それと同じように、サバイバーの方もつらい時があっても仕事を諦めてほしくないのです。そのためには、職場の理解が欠かせません。

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Q.よくあるがんサバイバーへの誤解は?
A.治療後は、体重が増加する場合があります。

皆さんはがんになると痩せると思われているかもしれませんが、乳がんサバイバーは治療に使うホルモン剤の副作用で食欲が増進したり、倦怠感や関節痛から運動不足になってしまったりと体重が増加する場合があります。それなのに復職したら「がんだったのになんで太って帰ってきたの?」と言われものすごく傷つく方がいます。体重増加は、脂肪細胞が増えることでホルモンが出るため、再発リスクを上げると言われています。再発予防として、運動はとても大切。今、聖路加国際病院では、筑波大学とセントラルスポーツ株式会社と共同で運動プログラムを作り、サバイバーに実践してもらい結果を検証しています。

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Q.がんサバイバー以外の人にとっても、運動は有益?
A.もちろん運動のメリットはあります。

『GapFit』のイベントで行ったヨガなんかもすごくいいですね。日頃から運動をして、筋肉をちゃんと鍛えている人は、大きながんは別ですが、術後の回復も早いです。

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Q.身近な人ががんにかかったり、サバイバーとして社会復帰した時は、どう接したらいいのでしょう?
A.まずは、寄り添ってあげてください。

日本は、まだまだがんがタブー扱いされています。私の患者さんの例ですが乳がんの治療を終えて外来に来た方が、突然泣き出したんです。「友達に悪いことをしてしまった」と。診断を受けて間もない頃に、その友達の誘いに対して「忙しくて会えない」と返事したそうなんです。手術も終えてひと段落したので、一緒にご飯を食べることになり、「連絡くれなかったけど、どうしたの?」と聞かれたので、「実は乳がんで手術をして」と答えたら、その友達が「ごめん」と言った後は、ご飯を食べる手は止まり、会話も弾まなくなってしまったそうです。残念ですが、これが日本の現実です。がんがタブーのように扱われてしまっている現状は、本当に変えなければ。今や、がんは不治の病とは言い切れません。がんサバイバーが自分らしく生きて、輝ける世の中になってほしいと思っています。

周りの人がまずできることは、黙ってそばに寄り添うこと。「あれががんにいいらしい」「こんな先生がいる」というのは、患者さんにとってかえって負担になる場合があります。抗がん剤治療に通うのが怖い方なら、病院に一緒についていって横に座ってあげるだけでいいんです。「何かしてあげなくちゃ」と思うのなら、何ができるのか聞いてあげてください。

労働損失が膨大な金額にのぼること。運動が再発防止のキーになること。初めて知ることの連続に驚くばかりのQ&Aでしたが、こうして得ることができた知識をどう生かすかは自分次第。『GapFit CHARITY YOGA EVENT』のようなイベントに参加するのも大きな貢献ではないでしょうか。