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本日9月28日、グレゴリーから新しいトレイルランニングパック『ルーファス』が発売された。ルーファスといえば、遡ること8年前。2008年に発売され、瞬く間に国内のトレイルランニング界を席巻。しかし2013年、『テンポ』という後継モデルの誕生を機に、惜しまれつつその歴史に幕を下ろしたトレイルランニングパックである。

それから3年の歳月を経て、その名作が装いも新たに戻ってくる。

その復活までの軌跡に迫るべく、石川弘樹さん、そしてプロトタイプのベースデザインに携わったハリヤマプロダクションの三浦卓也さんにお話を伺った。

信頼できるパートナーとの出会い

きっかけは、2015年1月に開催されたグレゴリーの展示会だった。来場した石川さんが製品開発担当者や日本法人の社長と話をするなかで、石川さんが今必要とするトレイルランニングパックを作ろうとなったのだ。

ただ、ここから一気に開発がスタートするかといえば、そうはならなかった。いや、厳密には石川さんおよびグレゴリーのスタッフがあえてそうしなかった。なぜなら、アメリカ本社と連携していちから開発を進めるとなると、発売までに2年以上の時間を要してしまうからだ。日進月歩のトレイルランニング業界において、スピードは明暗を分ける重要なファクター。そこで、本格的なデザインに入る前のベースデザインを日本でやろうとなった。しかし、それを手がけられる人材がいなかった。

石川:「最初は誰がいいのかさっぱりわからなくて。私の周りにもできるような人はいなかったので、古くからの知り合いであるスタイリストの石川顕さんに相談したのです。そこで紹介されたのが、ハリヤマプロダクションの三浦卓也さんでした」

ハリヤマプロダクションは、『unconscious design(無意識のデザイン)』をコンセプトに、バックパックをはじめサコッシュやポーチなどを製作しているガレージメーカー(hariyama.net)。そのデザイン〜製作までを一手に担っているのが三浦卓也さんである。

ただ、三浦さんはウルトラライト系の軽量バックパックは作っていたが、トレイルランニングパックは手がけたことがなかった。紹介された時点においては、タッグを組むことが確約されていたわけではなく、石川さんもとりあえず会ってみようというレベルだったし、三浦さんも同様の思いだった。

三浦:「声をかけてもらったことはとても嬉しかったです。自分もルーファスを知っていましたし、使ったこともありましたから。でも、グレゴリーの製品開発に携わるというのはとても大きな話じゃないですか。だから正直不安もありました」

2015年3月、初顔合わせミーティング。石川さんと三浦さんが初めて相まみえた。このときの印象を、石川さんはこう振り返る。

石川:「三浦さんは、技術力はもちろんですが、それ以上に普段トレイルランニングをやっているところに惹かれました。彼となら、一緒に走りながらよりいいものが作れるだろうと。しかも彼は、理学療法士でもある。人間のカラダを知り尽くしているわけです。それで、ぜひ彼にベースデザインをお願いしたいと思いました」

こうして、マスプロダクトメーカーであるグレゴリーと、ガレージメーカーであるハリヤマプロダクションのコラボレーションが実現することになった。

開発を加速させた新しいアイデア

2015年の3月に設けられた次のミーティングでは、ルーファスとテンポを手元に置きながら、どんなバックパックにするか具体的な議論がなされた。

石川:「二つのバックパックを見ながらデザインを考えました。テンポは、荷物を詰めたときに重心がやや下側になる。よりブレないようにするためには、もっと重心を上にしたほうがいいという話をしました。じゃあどんなカタチにしようかと考えていたんですが、そこで三浦さんがおもむろにテンポを両手で持って、クルッと上下を反転させたんです。見た瞬間、これだ!と思いましたね」

三浦:「重心のことを考えていたときに、ふと思ったんです。テンポを逆さにしたらいいんじゃないかと。それで試しにひっくり返してみたんです」

そこから開発は急ピッチで進められた。まず三浦さんがプロトタイプのベースデザインをし、本格的なデザインワークをグレゴリーのアジア・パシフィックのデザイナーが行なう。そして石川さんがテストしてフィードバックをする。もちろん一度や二度のテストで仕上がるわけではない。トライ&エラーの連続。特に石川さんとグレゴリーのデザイナーとのやりとりは幾度となく繰り返された。

石川:「ルーファスは私のシグネチャーモデルですから、妥協することだけは絶対にできませんでした。私が求める機能、たとえば締める緩めるをワンアクションでできるコンプレッションシステム、ボトルやアウターを入れられる背面のツインポケット、大小組み合わせたフロントポケット、行動食やヘッドランプを収納できる両サイドのポケットなど、を走りを妨げないように高い次元で実現させるべく、デザイナーには何度も修正をお願いしました」

あっという間に月日は過ぎていった。年は変わって2016年3月。4つ目のサンプルがグレゴリーのデザイナーから上がってきた。このとき、石川さんは三浦さんと一緒にテストをするために丹沢を走りにいった。徐々に完成には近づいていたが、ここでさらなる改良点が見つかった。

三浦:「石川さんはあえて重めの荷物を入れていたのですが、バックパックの見た目がすごく悪くて。重心が上に来るはずなのに、下のほうが膨らんでしまっていたんです。これはマズイなと」

石川:「とにかく、走っているときに重さを感じました。早急に改善してもらうよう、グレゴリーのデザイナーに伝えました。5月の東海自然歩道FKT(Fastest Known Time)で最終チェックをするつもりだったので、どうしてもそれに間に合わせてほしいと」

1,000km超の過酷なテストを経て、ついに完成

残された期間は、2カ月足らず。
結果、東海自然歩道FKTの直前に最終サンプルが上がってきた。そして、石川さんはそれを背負い、約18日間をかけて1,000㎞超を駆け抜けた。バックパックのクオリティーは、満足のいくレベルだった。三浦さんは、こう振り返る。

三浦:「グレゴリーの特徴といえば、背負い心地の良さ。ですからそこは意識しました。ただ単にテンポをひっくり返して縫ったわけではなく、グレゴリーのシステムや前モデルのルーファスの良さを参考にしながら作りました」

彼のベースデザインを経て、バトンはグレゴリーのデザイナーへ。石川さんのこだわりを具現化するべく、何度も何度も改良が重ねられた。作っては直し、また作っては直しの繰り返し。細かいものも含めれば、サンプル数は10個を超えたという。

石川:「作り手によっては、その人のこだわりやポリシーゆえに受け入れてもらえないこともあると思います。でも三浦さんはそうではありませんでした。さらに、私の要望を踏まえた上でもっとこうしたほうがいいんじゃないかというプラスアルファの意見もくれて。本当に頼りになりました。グレゴリーのデザイナーもそう。本当に細かいリクエストにも応えてくれましたし、根気強く、そして妥協を許さない姿勢で臨んでくれました。おかげで、自分のイメージ以上のものができあがったと思っています」

1年以上の開発期間を経て、ようやく新型ルーファスが誕生した。いや、初代ルーファス時代を含めれば要した期間は10年以上。それだけの歳月をかけて、石川さんが欲しい機能をすべて搭載したトレイルランニングパックが完成したのである。まさに、石川弘樹シグネチャーモデルだ。

石川:「初代のルーファスから言っていることなんですが、これはトレイルランニングパックの原点と呼べるものです。走りながら水を飲めて、走りながらモノが取り出せて、そして収納できて、さらに食料補給もできる。そういう機能をとことん追求し、完成度を高めたプロダクトなのです。使う人を選ばないパックなので、ぜひ多くのトレイルランナーに使ってほしい。そして、その快適さを体感してほしい。きっと、トレイルランニングがもっと楽しくなると思います」

詳しくはGREGORY製品ぺージを

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【グレゴリー ルーファス8】
8L 460g ¥15,000+税
ブラック/レッド

【グレゴリー ルーファス8】
8L 460g ¥15,000+税
ネイビー/オレンジ
石川弘樹シグネチャーカラー(インナーにサインタグ入り)

※『ルーファス』という名前の由来:ハチドリ(ハミングバード)の一種で、体長は8cm程度。冬はメキシコに生息しているが、夏になるとアメリカのコロラドまで、約3,000㎞の道のりを飛んでくる。アメリカ滞在時にその存在を知った石川さんは、その速く遠くまで飛ぶ行為はまさにウルトラランニングだと思い、シグネチャーモデルの名前として使用した。

HOW TO USE RUFOUS
ルーファス8のフィッティング方法や使い方は以下動画より確認できる。