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(写真 八木伸司 / 文 小泉咲子)

「知識は力になる」をコンセプトにしたアカデミーシリーズ『K.I.P(Knowledge Is Power)
で、フィジカルトレーナーの中野ジェームズ修一さん&ランナーから絶大な支持を集める編集者・松島倫明さんの対談が実現。運動と脳の関係性を正しく、そして熱く語ってくださいました。

“運動が脳を鍛える”はもはや常識

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松島 僕はもともと中野さんがよくご覧になっているような、お腹の贅肉を取るためにいやいやジムで30分走るような人間でした。走る=罰ゲームだったんです。そんな僕が積極的に走り始めるきっかけになったのが、7年前に刊行した『脳を鍛えるには運動しかない!』なんですね。著者で脳科学研究者のジョン J. レイティは、中野さんと同じように、研究しながらトラブルを抱えている人を診ている方です。有酸素運動は、科学的な見地からも身体によく、脳を活性化させて神経細胞ニューロンを増やすといったことが書かれています。
いろんな例が出ていますが中でも象徴的なのが、アメリカの高校で行われた“朝の0時限運動”。始業1時間前の“0時限”に生徒を走らせるんです。速い遅いは関係なし。心拍数を90まで上げたらビリでもAをあげる取り組みを始めたところ、読み書き能力が17%向上したんです。しかも、走った効果が継続している2時限目と1日の最後の6時限目に同じ授業をしたら、前者の結果がかなりよかった。ランニングという有酸素運動をしたことで、アメリカ全体では30%と言われてる太り過ぎの方が、あるクラスでは5%しかいなかったりと、かなりの効果が出ました。この本のメインメッセージである「脳を活性化するには運動しかない」というのは、中野さんが仰ってきていることにも繋がると思うのですが。

中野 実は、松島さんとの対談のお話がある以前に、この本を読んでいました。正直、嫉妬しましたよ(笑)。脳科学者の方みなさん言っていますが、運動指導者の立場としても「脳を鍛えるには運動しかない」のは当たり前。僕がふだんから言っていることをそのままタイトルにした本を誰かが出したと聞いたら、いてもたってもいられなくなりました。

松島 ありがとうございます。

中野 本に線を引きまくりましたよ。取材で聞かれた時に薦める本を入れておく棚に、ずっとあります。

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松島 中野さんの本はすごく科学的なバックグランドに基づいて書かれていますよね。エセ科学をぶった切りにするのも快感です。

中野 栄養や運動に関してはいろいろと間違った情報がありますからね。この本はすべて論理的なんですよ。好きなテイストです。僕も、科学的根拠のあることをちゃんと伝えていきたいと思っています。

松島 運動をすると、海馬や前頭葉といった重要なところで、脳の成長因子が増えることがわかっています。もうひとつ、有酸素運動に複雑な動きを組み合わせるのが最強とも著者は言っています。単に足を前後に動かすだけではなくて、マーシャルアーツやヨガ、バレエやピラティスもいいのかもしれませんが、頭を使いながらやる有酸素運動ですね。

中野 複雑な動作、たとえば、バランスを取るときなんかは、小脳が活発に働きます。バランスボールってありますよね。あれは、ダイエットやトレーニングツールではなくて、もともとは小児麻痺のリハビリ用に開発されたんです。でも、ふだん椅子に座ってる人が不安定なボールの上に座ったり、さらに膝立ちになって立ち上がろうと不安定な状態を作ってあげると、小脳の働きは活発になるんです。

チャレンジなくして達成感なし。スポーツは人生そのもの

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松島 スポーツの中には、年齢によって身体が衰えて引退せざるを得ない競技もあるじゃないですか。一方で、走ることは、必ずしも若いからタイムが速いわけではなく、50代、60代の人が若い人をどんどん追い抜いていく。スポーツとして相当特殊だと思うんです。年を取っても速くなることはあり得ますか?

中野 もちろん。アスリートを指導していて感じるのは、“好き”という気持ちでやっていると、成績がどんどん上がっていくんですよね。クライアントのクルム伊達公子さんが、なぜ現役復活できたのか。彼女は以前、勝たなければいけないプレッシャーの中で戦っていて、テニスが好きではなかった。でも一回現役を離れ、解説の立場で客観的に他の人の試合を見て初めて、どうすれば勝てるか冷静に理解できたらしいんです。それで競技者に戻ったら、今ではテニスが好きで好きで仕方ないそうです。

――運動を始めたら、次は好きと思えるまでつづけられるかが、ひとつカギですね。運動が脳にいいのであれば、「走って気持ちよかった」と思えて何かしらのリターンを得た実感があればつづくとも考えられます。

中野 まさにそうなんです。報酬予想交差は、脳のシステムにすごく関係しています。たとえば、「TRIPLE R」で出しているビーガンプリン。「かぼちゃのプリンです」と言われたら、食べたことがある人は過去の経験から、どんな味がおおよそ想像がつきますよね。で、食べてみたら、想像よりもはるかに美味しかった。この食べる前と後との誤差が大きければ大きいほどドーパミンが出るんです。超快感!運動も同じで、走りに行こうと思ったけど雨が降っていたとか湿気が多いから嫌だなとかありますよね。でも走ったら、スッキリ気持ちがいい。走る前後で報酬の誤差が大きい分、ドーパミンが出るのです。これを繰り返すと、ハマっていく。もし、走ることにハマらなかったら、違うスポーツをどんどん試してみてください。自分にとって誤差の大きいスポーツを探すために。見つかったら、ドーパミンを出したくなる。その状況まで持っていけたら、絶対にハマります。

松島 気持ちがうわー!となるのを感じることですよね。

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――先ほどの有酸素運動+複雑な運動という話に戻りますが、ランニングだったら何をプラスするといいのでしょう?

中野 それが難しいところでして。ふつうにランニングできる方がちょっとした不整地を走ってもさほど脳の働きは変わらない。できるかできないかくいらい難しいことでないと、フル回転しないんです。ランニングの最中は難しいので、公園でジャングルジムや平均台にのってみるとか、バランスボールで仕事や会議をするとかでしょうか。

松島 ちょっと難しいことってストレスだと思うんですよ。ある程度のストレスは、身体にいい。だから自然と僕らは常に、チャンレンジというストレスをかけている。

中野 そうですね。チャンレンジから得られる達成感は重要です。なければ、何事も継続できない。10km走れる人が3km走ったところで達成感はないけれど、20km走れたら達成感が得られる。でも、それは相当なストレスです。達成感を得るには、ストレスがかかるけれども、自分へのチャンレンジでもあります。

松島 難しいことへのチャレンジなくして達成感は得られない。人生そのものですね。

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次回『K.I.P』は9月15日(木)に!
9月15日(木)に「K.I.P (KNOWLEDGE IS POWER)」の第2回目を開催。今回のテーマは「牛乳は悪か?」牛乳はカラダにとって良いのか。悪いのか。豆乳との違いなどを紐解きながら、牛乳の豆知識とともに改めて牛乳の魅力について、ゲストに森永乳業の専門スタッフを迎えて、K.I.Pホストである中野ジェームズ修一さんとクロストーク! ぜひお越しください。

受付はこちらから!
http://kip-2.peatix.com/

アカデミーシリーズ『K.I.P(Knowledge Is Power)』とは
2016年春に馬喰町にオープンした、カラダとココロのメンテナンス・ステーション『TRIPLE R』にて定期的に開催されるアカデミーシリーズで、ホストをフィジカル・トレーナーの中野ジェームズ修一が務める。
TRIPLE R公式サイト:http://afd3r.com