2016.09.12 - 21:30

負けたことに負けない 福士加代子

(写真 松本昇大 / 文 村松亮)

結果を求めすぎて、心が身体を動かせなかった。

4度目のオリンピックとなったリオも、マラソン競技としては初出場。08年のトラックからの転向後、課題だった30kmの壁も乗り越え、3位という結果を出せたのが13年の世界陸上だった。その後、良い波に乗れると思った矢先、右足2回、左足1回と疲労骨折に見舞われた。「すべて自分のコントロール下で起こったこと」と、福士は語る。課題を見つけてクリアするきっかけとして骨折を捉え、前を向いて走り続けた。
 

当時の福士を支えたのは、2004年アテネオリンピック後に恩師の安田先生(青森県五所川原工業高校陸上部の安田昭信顧問)からもらった「負けたことに負けるな」という言葉だった。

「あれ以来、弱いままでもいいやって思えるようになったんです。ちょっと強くなっただけで、成長を毎日実感できますよね。昨日の自分に今日は勝つってのが、私たちは毎日だから。楽に生きていけるようになったし、素直になれたと思う」

記憶に新しいのが、五輪選考タイムをクリアして優勝した16年の大阪国際だろう。「リオ決定だべ」以降の選考騒動で、彼女の注目度は一層高まり、そんな中、福士には周囲の期待にこたえられる準備をやってきたという自負があった。ゴール後には完全燃焼した自分が金メダルを手にしている。そんなイメージができていたからこそ、マラソン人生を締めくくるレースとしてリオを位置付けていたのかもしれない。

  • sample alt
  • sample alt
sample alt

リオのレースを共にしたランニングシューズ

心と身体が分離した、これがオリンピックか
「オリンピックという目標があれば、何でもできるんだなって思っていました。自分の中ではできることは全部やりましたし、やり切ったつもりだったので。レース直前はやってやるって気持ちで、メンタルはイケイケでした。でもレースが始まると、身体はその気持ちについてこれなかった」

欲が強かった、と分析する。心と身体が分離していて、思ったとおりに身体が動かない状態だった。「なんでなんで、神様なんで、あんなに頑張ったじゃん」そんな思いがレース中、福士の意識を埋め始めていった。

「あのときこうしていれば、そんなシーンがいくつもあります。ペースの上げ下げも、終始、位置取りの難しさも打破できなかった。トップ集団の駆け引きに、私は参加すらできていなくて、駆け引きが始まって一歩出遅れていた私は、結局最後までその差を埋めることができなかったんです」

日本人首位となる14位でゴール。「金メダル獲れなかったぁ~」というコメントの直後、彼女は少し泣いているようにも見えた。

sample alt

強いランナーになりたいか? という質問に「強くなったらきついよ。弱いままでいい」と福士は答えた。

まだ終われない、次勝つために必要なことが見えた

「リオのレースは一番辛い、長い、しんどいマラソンでした。それでも30km地点で一瞬、楽に走れている自分がいた。もっと早くここにきていれば、もっと私はやれた。悔いが残ったんですよ。たしかに今までの私ではダメだったし、今回の私でもやっぱりダメだった。でも次があれば勝てるかもしれない。私のマラソンは終われねーなーって。レース前には思ってもいなかったんですが、もしいけるなら2020年の東京だって、そんな気持ちが芽生えたんです」

sample alt

次は2020年TOKYOを狙う、その確約までは得られなかったが、視線の先には4年後を見据え始めた。

次があれば・・・ではいったい、福士加代子はリオで何を反省し、何を得たのか。

「あんなに苦しいことをやって、それでも成せなかった。うまく言えませんけど、そこまで苦しまずに自分なりに楽しんでやっても良かったんじゃないかなって今は思うんです。いつもなら手を抜けるところを、今回は抜けなかった。最大限のパフォーマンスを発揮できるメンタルでは、きっといれなかったんです、それが明確になった」

"手を抜く“、それはどんな状態なのか。

「たとえば、(3位でゴールした2013年の)世陸は無欲な勝利だったと思うんです。結果を全く意識しないで走っていたし、無駄な感情をすべて捨てれていたと思う。良い意味で”抜けていた”し、もっと空っぽな状態だったんです。(リオ選考レースの)大阪国際も、あきらめの境地で、もう全部やってきたから一か八かだって気持ちで迷いもなかった。レースに向かう理想の状態とはかけ離れていたのが、リオだった。きっと想い過ぎていたんです。結局、楽しめた人が勝つのだと思う。私は楽しもうとし過ぎていて、どこかでフラストレーションも溜まっていたから」

心と身体、その理想的なバランスが見えてきた。

「まず、私は練習の取り組みに対する考え方を変えようと思うんです。挑戦を続ける中で、身体への負担、イライラをもっと排除していく必要がある。まだまだ一般論に縛られていて、もうそのマラソンセオリーから離れて、次のチャレンジへ向かいたい。だから心にも身体にも嬉しい走りをしようって思う。心が嬉しくても身体が痛かったらダメ。身体が良かったら、やっぱり心は嬉しいと思うから。その先に私の理想の走りがあるんです」

sample alt

福士加代子(ふくし かよこ)

1982年3月25日、青森県生まれ。五所川原工業高等学校卒業。ワコール女性陸上競技部所属。3000mと5000mの日本記録保持者。ハーフマラソンでは、アジア・日本記録保持者。

 
 

sample alt

福士さんのシューズ選びは、足をいれた第一印象の直感なのだという。それでもここ数年、信頼をおいているクッション性と反発力を兼ね備えた素材「BOOST™ フォーム (ブースト フォーム)」。トレーニングにおいて欠かせない武器で、「ブーストなしの衝撃にもう身体は耐えられない」という。写真のシューズは女性のためにデザインされたランニングシューズ「adidas PureBOOST」¥12500(税抜)。