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(文 根津貴央 / 写真 松田正臣・佐々木拓史)

石川弘樹さんと行く『RUN&CAMP』も、ついに最終回を迎えることになった。舞台は、アメリカ合衆国にある「イエローストーン国立公園」と「グランドティトン国立公園」。広大な大自然、走りやすいトレイルに加え、今年はアメリカ国立公園局が誕生してから100周年という記念の年。まさに『RUN&CAMP』のラストを飾るにもってこいのフィールドと言えるだろう。

石川さんは言う。「アメリカには何度も足を運んでいますが、この2つの国立公園には行ったことがありませんでした。イエローストーンはとにかく広くて、その面積は東京都の約4倍、四国の約半分ほど。スケールも含めてずっと興味を抱いていました。グランドティトンは、アメリカのトレイルランナー仲間に以前から勧められていて、いつか走ってみたいと思っていたんです」

そんな石川さんの想いもあり、日差しが強くなりはじめた7月上旬、『RUN&CAMP』メンバーはアメリカへと旅立った。

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国立公園内に上陸(ジャクソンホール空港)

一行は成田空港を出発し、アメリカはワイオミング州にあるジャクソンホール空港へ。シアトル、ソルトレイクシティの2カ所を経由するため、所要時間は乗り換え時間も含めると20時間近くになる。

現地に行くまでひと苦労、と思う人もいるだろう。でも、石川さんが度々口にしているように、『RUN&CAMP』は旅である。目指す場所はあるが、そこに到達することが目的ではない。途上を楽しむことが大事であり、すでに自宅を出た瞬間から旅ははじまっているのだ。

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ジャクソンホール空港に到着したのは、21時頃。外は真っ暗かと思いきや、日が長いためまだほんのり明るい。タラップに出ると「あれ見てよ!」と指をさす石川さん。その方角に目を向けると、ティトン山脈にちょうど日が沈むところ。グッドタイミングにもほどがある。グランドティトンの大自然が、まるで僕らの到着を待っていてくれたかのようである。

ちなみにこのジャクソンホール空港は、アメリカで唯一、国立公園内(グランドティトン国立公園)に建てられた空港である。そのため周辺は自然にあふれ、他の空港にはない独特な雰囲気がある。市街に向かうためシャトルバスに乗り込んだのだが、しばらくはサファリパークを走っているような感じがした。

レンタカー屋さんで手続きを済ませてモーテルにチェックイン。明日からの『RUN&CAMP』に備え、僕たちは早々に眠りに就いた。

地面から噴き上がる熱湯(オールドフェイスフル)

モーテルから2時間ほどクルマを走らせて辿り着いたのは、イエローストーン国立公園内にあるオールドフェイスフル(Old Faithful)。ここはイエローストーンで最大の人気を誇るエリア。見どころはガイザー(Geyser)、日本語で間欠泉(かんけつせん)。これは周期的に水蒸気や熱湯が噴出する温泉のことである。ブクブクと湧き出しているくらいかと思っていたが、驚くことに大きなものは30m以上も噴き上がるのだ。しかも噴出のタイミングが決まっていてビジターセンターに掲示されているため、直前になると周辺は観光客であふれかえる。僕らは、たまたま到着直後にオールドフェイスフル・ガイザーという有名な間欠泉の噴出を見ることができた。見た目もそうだが、これが人工ではなく自然現象であることに驚かされた。

ガイザーを堪能した僕たちは、いざトレイルへ。ここには間欠泉群を起点にして、東側をぐるっと周回することができるルートがある。トレイルとしては、マラード・レイク・トレイル(Mallard Lake Trail)、マラード・クリーク・トレイル(Mallard Creek Trail)、パワーライン・トレイル(Powerline Trail)の3つをつなげたものである。距離にして20㎞弱。

トレイルラン初日ということもあり、足慣らしの感覚で僕たちはゆっくり走りはじめた。序盤はゆるやかな登り基調で、澄んだ小川や一面に広がる針葉樹林、広大な湿原などがあり、目を飽きさせないトレイルだった。湖はマラード(日本語でマガモのこと)と名が付くだけあってマガモがいるのかと期待したが、目にすることはできなかった。でも青空に浮かぶ雲を映した湖面は美しく、僕たちはしばらくカラダを休めた。実は3人とも思った以上にカラダが動かなかったのだ。時差のせいもあるだろうが、それ以上に高度の影響があったのだろう。スタート地点ですでに標高は2,000mを越えていた。

結局、湖畔で1時間半ほどのんびりしてマラード・クリーク・トレイルへ。ここからしばらく登り、樹林帯を抜けて開放感あふれるエリアに入る。振り返ると湖の全貌を視界におさめることができる。「景色の良さはもちろんなんだけど、間欠泉のエリアとは打って変わって人がいないのもいいよね」と石川さん。

そう、トレイルには驚くほど人がいないのだ。オールドフェイスフルの巨大な駐車場は満車で、間欠泉のまわりは人でごった返していたのがウソのよう。こんな極上のトレイルを楽しまないなんてもったいない!とも思ったが、どう楽しむかは人の自由。よくよく考えてみれば、ここは観光に来る人も、アクティビティをしに来る人も、両者が満喫できる素晴らしい場所でもあるのだ。

僕たちはパワーライン・トレイルを経て、スタート地点のエリアへと戻ってきた。大小さまざまな間欠泉が点在し、熱湯が噴出している光景はなんとも不思議でならなかった。石川さんいわく「目を奪われる反面、今自分がいるこの地面の下もグツグツしているわけで。そのうちドカーンと大爆発したらと想像すると、ちょっと怖かったですね」とのこと。

一周して戻ってきたタイミングで、またもやオールドフェイスフル・ガイザーから水蒸気&熱湯が噴出。30m超の巨大な噴出を2回も目にすることができて得をした気分になった。

これで無事に1日目の旅が終わったのかというと、そうではない。実は近場のキャンプ場がことごとく満員で、今晩のキャンプ場はここからクルマで北上すること約2時間。イエローストーンを抜け、モンタナ州に入った所にあるのである。『RUN&CAMP』という枠を超えて、もはやロードトリップをしている感じではあるが、別に「これをやってはいけない」というルールがあるわけではない。旅が楽しければそれでいいのである。

イエローストーン川沿いにあるキャンプ場に到着したのは、22時前。辺りは真っ暗。人里離れたこんな所でキャンプする人なんていないだろうと思っていたのだが、キャンプ場はほぼ満員。「どんだけキャンプ好きなんだ、この国は!?」と正直驚いた。しかも家族連れが多く、22時近いのにみんな起きている。予約したサイトを探してウロウロしていると、親と一緒に焚き火をしていた小学生くらいの子どもが「何番なの?」と尋ねてきたので番号を言うと「じゃあ、この奥だよ!」と教えてくれた。キャンプ慣れしているというかなんというか。キャンパーはみんな友だち!みたいな感じがしてなんだか嬉しかった。

僕たちはそれぞれテントを手早く設営した。アメリカに来て初のキャンプということもあり、夜の宴を楽しもうと思っていたのだが、疲れもあってかみんないつの間にか眠りについていた。

石灰岩のデコレーションケーキ(マンモス・ホットスプリングス)

翌朝。目を覚ましてテントから出ると、昨晩は真っ暗で見えなかった周辺の景色が目に飛び込んできた。「こんなに荒寥とした山々に囲まれているとは!」と驚きを隠せない石川さん。僕たちはしばらく辺りの景色に見入っていた。

今日の目的地は、イエローストーン国立公園の北端にあるマンモス・ホットスプリングス(Mammoth Hot Springs)。異様な景色が広がる人気スポットである。なにが異様かというと、温泉に含まれた石灰分が蓄積され、それが幾重にも重なり、温泉段丘が形成されているのである。見た目は、まるで巨大なデコレーションケーキのよう。これが有名なテラスマウンテンである。

この周辺にはいくつものトレイルがあるのだが、今回僕たちは、ビーバー・ポンズ・トレイル(Beaver Ponds Trail)とセパルチャー・マウンテン・トレイル(Sepulcher Mountain Trail)を組み合わせた約30㎞の周回コースを走る。石川さんはこう語る。

「後者はセパルチャー山(標高2,939m)を経由することもあって、ある程度イメージがありました。でも、前者は池があるくらいで、特に見どころはなさそうだなと。正直あまり期待していなかったんです」

しかし、ビーバー・ポンズ・トレイルに入った途端、石川さんは躍動するかのように走り出した。予想に反して序盤から素晴らしいトレイルだったのだ。荒寥とした砂漠地帯のような広大なフィールドに、キレイなシングルトラックが描かれている。走るにはもってこいのトレイルで、まさに石川さんが好むタイプだったのだ。こういう思いがけない発見や出会いが、旅の面白さでもある。特に今回は、国立公園自体はメジャーだがトレイルはマイナーなものばかり。事前情報が少なかったことが幸いした。

もちろん、事前にビジターセンターで情報は仕入れていた。そこで得た有力情報としては、相当数のブラックベアとグリズリーが生息しているエリアだということ。いつどこで目撃されたといった詳細情報もあり、ベアスプレーは絶対に持って行け!とキツく言われた。そのためベアスプレーは購入したのだが、トレイルの素晴らしさに気を取られてクマへの警戒心を忘れてしまうことが度々あった。

ビーバー・ポンズという池を過ぎると、様相は一変。辺りは樹林帯に変わり、彩り豊かな花々も咲き乱れている。「ここはアメリカの飯豊か!と思うくらいキレイな花が咲いていて。昨年の夏に行った飯豊連峰を思い出しました」と石川さん。

セパルチャー・マウンテン・トレイルに入ると、山頂まではゆるやかな登り基調。山頂手前には溶岩で形成された岩場があり、これがセパルチャー(岩に掘った墓)という名前の由来だそうである。この岩場からは、モンタナ州の広大な大地が一望できる。雄大なイエローストーン川とその両サイドにそびえる山々。アメリカらしい光景だった。

山頂を越えると、急に雨雲が空を覆い出した。遠くには、何本もの雨柱が見えている。僕たちは雨につかまる前に標高を下げるべく、スピードを上げた。でもスイッチバックを下っている最中に、いとも簡単にとらえられてしまった。石川さんはこう振り返る。

「日本だったらまっすぐ道を作りそうな斜面だったんですけど、この恐ろしく長いスイッチバックはとてもアメリカらしいなと。雨にはガッツリやられてしまいましたが、個人的には走りやすくて好きでした」

下りが一段落して樹林帯に入ったあたりで雨も止んだ。小川沿いのトレイルを一気に駆け抜け、テラスマウンテンの裏側に位置するアッパーテラスと呼ばれるエリアへ。ここにもさまざまなテラスが存在し、その奇怪な自然美に僕たちはただただ驚くばかり。現実のものだとわかっていながらも、なんだか現実ではないような心地がして、とにかく不思議な感覚だった。

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イエローストーン国立公園をめぐる2日間の旅。たった2日間ではあるが、アメリカの懐の深さ、得体の知れなさを身をもって実感した気がした。でもこれはまだまだ入口にしか過ぎないはず。もっとイエローストーンを深掘りしたいが、日程上そうもいかない。グランドティトンが待っているのだ。

次回の『RUN&CAMP』後編は、グランドティトン国立公園。いったいどんな発見と出会い、ハプニングが待ち構えているのか。お楽しみに!

9月中旬先行発売予定 グレゴリー ルーファス8
石川弘樹さんがトレイルランニングパックに望む全ての機能を盛り込み、シグニチャーモデルとして開発が進められてきたグレゴリーのルーファス。ついに来月9月に先行発売予定。

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男性モデルは2色展開。女性モデルの発売はもう少し先になる予定だという。

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  • 【グレゴリー ルーファス8】 8L 460g ¥15,000+税 ブラック/レッド
  • 【グレゴリー ルーファス8】 8L 460g ¥15,000+税 ネイビー/オレンジ
    石川弘樹シグネチャーカラー(インナーにサインタグ入り)