2016.07.13 - 21:36

ボクサー山中慎介 「神の左」を生み出すトレーニング

(写真 / 古谷勝 文 / 小林朋寛 協力 / NIKE

容赦なく照りつける太陽はじりじりと音を立てて肌を焦がすかのよう。遠く望める海はその雄大な青さを湛えて輝いている。リゾート気分を抱えながらごった返す観光客を尻目にWBC世界バンダム級チャンピオンの山中慎介選手(帝拳ジム)は灼熱極まる沖縄で汗を流していた。

9月16日に決定した同級1位アンセルモ・モレノ(パナマ)との世界戦。日本歴代2位となる11度目の防衛がかかるこの試合に向けて、実践練習の前の走りこみを行うために梅雨明けの沖縄がトレーニングの地に選ばれたのだ。

山中選手のプロ戦績は27戦25勝(17KO)2分。「神の左=ゴッドレフト」という異名が物語るとおり彼の武器は数々のKO劇を演出してきた左ストレートだ。しかし、ボクシングを始めた当初はオーソドックススタイルだったのを高校の顧問の助言によりサウスポーにスイッチしたのだという。

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「ボクシングの前は野球をやっていて右投げ右打ちだったんですけど、実は鉛筆を持つのも、サッカーでボールを蹴るのも左だったんです。だから変えられた瞬間は違和感がなかったですね。間もなく自分の武器は左ストレートだという確信が生まれました。練習の中で一番しっくりくるパンチだったんです。他のパンチももっと練習すればよかったと思うこともありますけど、きっと左ストレートも並のものになっていたはず。だから、左ストレートに集中してひとつずば抜けたものを持てたのはよかったです」

ボクサーにしては実に柔和な表情が印象的な山中選手だが世界を獲った「神の左=ゴッドレフト」を語る眼差しの奥では確固たる自信が燃え上がっている。

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「自分のボクシングスタイルで一番重要なのは下半身。踏み込みの力とそこから伝わってくるパンチの強さを得るために、試合が決まったら、まず実践練習前に必ず走りこんで徹底的に足腰を鍛えます。下半身から上半身にすごくいい力の伝わり方をするような状態を作ることがテーマですね。砂浜やクロスカントリーのコースなど都内では走れないような環境でのトレーニングというのは絶対にプラスになる。肉体的にも精神的にも負荷を与えることができますね」

徹底的に走り込むことで強くなる左ストレート

沖縄でのトレーニングはひたすら走ることに費やされる。取材をした時は合宿も終盤だったが、まだ日差しが猛威をふるう前の早朝にクロスカントリーのコース1.5kmを7周=計10.5km、午後は50m走×10本を2セット走るメニューをこなしていた。上半身のトレーニングは午後のランの後にシャドーボクシングと両手とつま先を合わせる腹筋、肩を地面につけ万歳をした状態での首の上げ下げ20回×3セットを行う程度。

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走りこむことで山中選手の武器はその強度を増していく。「足で打つパンチ」とはまるで禅問答のようだが、まさに下半身の力が上半身にうまく伝わった時にその威力を最大限に発揮するのだ。

「脚力を上半身に伝える動作がうまいんだと思います。足の踏み込みをパンチまで伝えることができる。多くの選手はそれができてないです。持ってる筋力を最大限に活かすためには、身体の使い方が重要ですね。上半身への力の伝え方がうまければ、その分パンチのスピードや威力に影響していきますから」

これまでの試合を見てみると、山中選手の左ストレートは相手の顎をとらえる瞬間にさらに深くえぐるように伸びているのがわかる。ムチのようにしなる腕から放たれる左拳。それを受け、これまで世界の名だたるボクサーたちがマットに沈んできた。

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「パンチの伸びも下半身の安定とつま先の力の粘りによるものです。それがないとそこまで伸びないし、身体も流れっぱなしになってしまう。他の選手よりも身体をねじってるんで、多少流れてしまうんですけど、それでも右足でしっかり固定できているので問題ない。逆に右足をしっかり踏み込む分、返す時の右のパンチが打ちにくいというのはあるんですけど、左パンチが伸びて距離が遠い分、右を返さずに終わってもそもそも相手が返してこれないだろうと。迫力あるパンチが打てればそうそう返せないですからね。右脚を軸にした一瞬のひねり、そこからの身体の動きがすべて合っているから左腕にうまく力を伝えられているのかなと思います」

相手を圧倒する左ストレートの存在感。これまで10度の防衛を果たしてきた「神の左=ゴッドレフト」はこのようにして生み出されているのだった。

世界王者に訊く、トレーニング時にモチベーションを保つ秘訣

ボクサーと言えば減量をはじめ禁欲的なイメージがつきまとう。特に今回の沖縄合宿もメニューの変化はあれど、走りこみに終始するという点で非常にストイックなものだ。そこでトレーニング中のモチベーションや心持ちについて訊いてみた。

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「モチベーションを保つのは難しいですよね。毎回の課題です。トレーニング中は自ずと試合中の精神状態と同じようなものになっていきます。10kmのラントレーニングの中でも自然とラウンドを想定しながら走ってますね。まだ、6ラウンドで折り返しかとか。そこでのシミュレーションが実際の試合に結びつくような大げさなものではないですけど、ひとつひとつこなしていくという点ではトレーニングも試合も同じですね」

例えば3ヶ月先のマラソン大会に向けて、平日はなるべく毎日5kmを走るトレーニングを課してみても、なかなかモチベーションがつづかないと悩んでいる一般ランナーの声を聞くことは多い。世界チャンピオンといえどトレーニング中に心が折れることはあるのだろうか。

「トレーニングの序盤は気持ちではがんばろうと思っても、肉体がついてこない。肉体がついてこないと心は折れるもんです。そういう意味では、やはり肉体を作りこんでからの精神力だと思います。辛い時をどう乗り切るかっていうのも合宿のテーマのひとつです。今回のキャンプは実践練習の前に足腰を鍛えることが目的なんですけど、実践練習のことは基本的には考えてない。今回のトレーニングをやりきるという強い思いしかないです。だからあまり先を見過ぎないというのも重要ですね」

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ラウンドを積み重ねるように一歩ずつしっかりとトレーニングをこなしていく。そこで培われた肉体の強さはそのまま相手と拳を合わせる実際の試合に向き合う精神の強さに結びついていく。その相関関係は世界最高峰の左ストレートとそれを生み出す下半身の強さのそれに似ていると言えるかもしれない。沖縄合宿をスタートにこの夏さらに強さを増す山中選手が9月に11度目の防衛を果たすのが今から楽しみだ。

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山中慎介(やまなか・しんすけ)
1982年10月11日生まれ、滋賀県出身。帝拳ジム所属。
WBC世界バンタム級チャンピオン
第65代日本バンタム級チャンピオン
プロ戦績:27戦 25勝(17KO)2分

アップデートしたNIKE+ TRAINING CLUBアプリ、その注目ポイントは?

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日々のトレーニングをサポートしてくれるアプリとして人気を博しているNIKE+ TRAINING CLUB(NTC)アプリがアップデート。「これ全部、無料なんですか?」と山中選手も驚いていたのは新たに100種類を超えるワークアウトが追加されていること。沖縄合宿中に山中選手が取り組んでいたトレーニングにも似ている腹筋を鍛えるメニューをはじめ自分のレベルにあったものを自由に選ぶことができ、NIKEトレーナーによる音声と映像の説明ガイドがサポートすることで適切な動きをマスターすることができます。また、それぞれの目的に応じて、自分に合ったパーソナルなトレーニングプランを作成することが可能。進捗に合わせてプログラムが対応していき、もし、トレーニングを忘れてしまっても自動的にスケジュールを調整してくれるなど、目標に向けてしっかりとサポートをしてくれます。

http://nike.com/NTC