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(写真 KUNI TAKANAMI / 文 倉石綾子 / 協力 Patagonia

 アクティブウェアを通じて女性たちの挑戦や冒険を応援するパタゴニア。そして自らの選択や行動を通して、その価値観を代弁するパタゴニア・アンバサダー。アンバサダーの一人として活躍するのが、女性のプロ・ウィンドサーファーの先駆けとしてこの道を切り拓いてきた岡崎友子さんだ。現在はマウイ島に拠点を構え、女性や子どものためのウィンドサーフィンやSUPキャンプの開催にも力を注いでいる。岡崎さんを虜にした海のこと、旅のこと、そしてウィンドサーファーとして生きること。海で生きるという岡崎さんの選択を、インタビューから紐解いていく。

生活の中心がウィンドサーフィンだった

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 その日の波や風のコンディションを読み、いちばん遊べる道具を携えて海に出る。ウィンドサーフィン、カイトサーフィン、SUPと自在に道具を操りながら、日々、多くの時間を海の上で過ごす岡崎さん。10代で海に入り始めて以来、30年もこうした暮らしを続けている。
「18歳くらいの時にはやりたいこと、つまりウィンドサーフィンを生活の中心に据えるという術を身につけていました。それはすごくシンプルなルールで、つまり海でプラスになることはなんでもするし、逆にマイナスになることは一切やらない。だから青春真っ盛りの時期だったけれど、飲みに行ったりすることもほとんどなかったですね。夜更かしをすると朝起きられなくなるから」

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(写真 Jimmie Hepp:マウイ島にて、ビッグウェイブをカイトサーフィンで乗りこなす。)

 大学時代は教授に「専攻はウィンドサーフィンだね」と揶揄されるほど、海に通い詰めた。卒業後、ただ波に乗りたくてマウイ島へ渡ったのもごく自然なことだったという。
「始めたばかりの頃は自殺行為にしか見えなかったサイズの波にも、だんだん乗れるようになって。ステップアップできることが楽しくて、そんな自分に少しずつ自信を持てるようになったことが嬉しくて、気がつけば風、波が合えばいつでも海に出られるような生活スタイルを選択していました。ウィンドサーフィンのためにマウイに行くというとびっくりされる時代でしたが、才能も時間もない私には、最もレベルの高い場所での練習が必要だ、そんな風に思ったんです」

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(写真 岡崎友子:テントで生活しながらのメキシコ・バハでの生活は岡崎さんの大好きな旅の一つでほとんど毎年行っている。)

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(写真 山田博行:アラスカの冬山でスノーボード。)

 岡崎さんの世代の女性にとって、当時の社会には超えなければならないハードルがいくつも存在した。「女性にはできない」、そういう考え方は社会の中に当たり前に根付いていたし、ウィンドサーファーとして生きるという選択肢もありえなかった。その前にまず、自分の中に眠っている「女性だから」という気持ちこそを、克服しなくてはならなかった。
「社会もそうですし、女性のライフステージには乗り越えなければいけない壁がいくつも出てきます。それは現在でも変わらないかもしれませんね。結婚や出産という素晴らしい経験でさえ、時に自分のやりたいことの両立を危うくするんです。周りの友人たちも、本当に苦労しながらやりくりして時間を作って、なんとか海に行く機会を作っています。でも、どうにかハードルを越えていくうちに、そうやって解決法を探すこと自体がチャレンジだって気づいたんです」

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  •  (写真 Pedro Gomez:マーシャル諸島でのSUP。)
  •  (写真 Andrew Mcgary:マーシャル諸島で貝拾い。)

 高いハードルを前に思い悩んだり、迷ったり。そんな岡崎さんを支えてくれたのは、いつも女性の友人だった。たとえライバルであってもお互いを励まし合い、支え合う。だから「このスポーツをやっていて得られたいちばんの財産は、世界中の友達」と断言できる。困難にぶつかっても女性の方が素直にそれを表現できるのだから、むしろ男性よりも女性のほうが恵まれている。そんな風に思えるようになったのも、仲間の支えがあったからだ。
「私たちがやっていることは完全に男性社会の遊びで、つまり初めからみそっかすみたいなもの。『コンペでも女性は賞金が少ない』なんてことも言われますが、女性サーファーはスポンサーが付きやすいし、そもそもパフォーマンスに圧倒的な開きあるので金額に差がつくのは当たり前だと思う。認められるには、そうした事情を踏まえてそれでも諦めずに、仲間たちと支え合いながらコツコツと続けることだと思うんです。何かを証明するためでなく、ただ自分が幸せを感じるためだけに続ける。私の場合、そんな風に海に出ることを続けていたら、いつの間にか仲間に入れてもらえていました」

へこたれるような旅をする。その経験が力になる

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(写真 Mark Harper:メキシコ、バハの海での波待ち。夜明け前に起きてテントから出て目の前の海でサーフィン。)

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(写真・左右 Clark Merrit:バハのサーフポイントはサンディエゴからセスナで砂漠の真ん中に降り立つのでほとんど人がいない場所なのだそう。風や波の状況に応じて海の道具を使い分ける。)

 昔から勝ち負けには固執しない方だった。1991年のウェーブライディングでは世界ランク2位にまで上り詰め、多くのコンペに出場したが、結局、いい波を求めて気の合う仲間たちと世界中の海を旅して巡るライフスタイルを選択した。昨年はマーシャル諸島の底抜けに美しい海で、サメに囲まれながら最高の波を楽しんだ。電気も飲み水もないというワイルドな環境に、時に凹みながらも得難い体験をしたという。
「私にとって、旅も波乗りも同じなんです。どちらにしてもちょっとへこたれるくらいの経験をしたい。自分の無力さや存在のちっぽけさを痛感させられるような。そういう旅の方が長く記憶に残りませんか?波乗りもそうですよね。自然のパワーはあまりにも強くて、それに押しつぶされそうになる。でもそれを生き抜いてメイクできた時、得難い経験として自分の身になっていく」
 自分の都合でものごとは決して動かないけれど、真面目に、地道に自然と向き合っていると絶対にご褒美をもらえる。それが海や山にまつわる旅の醍醐味だという。しかもそのご褒美は何にも代えがたい。だからもっと欲しくなる。

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(写真 徳岡一之:琵琶湖でのSUPのワークショップ。)

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(写真・左右 伊藤ひろし:琵琶湖でのワークショップは女性やキッズを中心に開催。)

 そんなわけで、一本でも多くのいい波に乗りたいと、ひたむきに風と波を追い求めてきた。そんな岡崎さんの心境に最近、変化が生じている。
「ここ数年、やっと自分の限界を受け入れることができるようになりました。ずっと上達し続けられると信じてきたけれど、いまはどんなに努力しても現状維持が精一杯。その代わり、自分がこれまでにいただいたたくさんの贈り物を次の世代に引き継いでいこうという気持ちが芽生えたんです。いままでは人に教える余裕があれば自分の練習をしたいって、心の底から思っていたのに」

 力を注いでいるのが、女性や子どものためのウィンド&カイト・キャンプやヨガリトリートの開催である。特にキッズキャンプでは、子どもたちに自然を大切にする気持ちを育んで欲しいと海や山の中で思いっきり遊べる機会を設けている。
「幼稚園児から小学校高学年までが参加するキッズキャンプは、子どもたちそれぞれが個性に合った役割をうまく担って、互いを補い合って集団生活をしているんです。運動が苦手で海では全く目立たない子が、陸に戻るとリーダーになっていたり、どの子にも素晴らしい良さがあるということにいつも感動します。私が彼らに教わっていることの方が多いかもしれません」

 一方、女性たちのためには少人数制のキャンプを主催してきたが、今年初挑戦するのが複合型ビーチイベントの開催である。マウイ発祥の、今年で10周年を迎える「バタフライ・エフェクト」がそれだ。女性たちが集まって互いを力づけ、鼓舞しようというワールドワイドのこのイベントを、岡崎さんはこの秋、日本で開催しようと企画している。

「『バタフライ・エフェクト』は、女性が集まってSUPをしたりウィンドをしたり、こんなに楽しいことをしているよ!というイベント。お金にならなくてもやりたいことについて考えてみよう、ワクワクすることをやり続けられる道を考えてみよう、そんな趣旨で始まったものです。このイベントでは、サーファーでライフガードの女性が撮った『The wave I ride』というドキュメンタリー映画の上映を考えています。タイトルには『私が選んだ人生の波』という意味も込められていると思うんですが、自分らしい生き方を模索する女性の映画やイベントを通じて、女性の選択について改めて思いを馳せてもらうきっかけになればいいなって思っています」


マウイ島で行われているバタフライ・エフェクトの様子。

アクティブなライフスタイルを支えるモノ選び

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(写真 CHAR:奄美大島ではサーフ&テントのトリップ。)

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(写真 CHAR:奄美大島までの移動は船で生活しながら行う。)

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 旅に出るときはさまざまな遊び道具をパッキングする岡崎さん。その分、身の回りのものはなるべくコンパクトに、を心がけている。
「好きなものはパッカブルになるものと、一つでいくつもの役割をこなすもの。赤道を超えて夏と冬を行き来することが多いので、ダウン・セーターは重宝しますね。メリノウールのミッドウェイトのシャツは着心地がいいうえ、一枚でも着られるしパジャマにもなる優れもの。ハードな旅では何日もお風呂に入れないことがありますが、そんなときもメリノウールなら安心して着られます。防風・防寒のどちらにも使えるフーディニ・ジャケットはどこに行くにも必ず持っていくアイテムですね」

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  •  パッカブルになるダッフルバッグは、荷物が増えてしまったときなどに持っておくとかなり便利。旅の必携品のひとつだそう。
  •  パタゴニアの新製品。革新的な裏地によってズレ落ちないビキニがお気に入り。
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ストールにも、サマードレスにも、ラグ、日よけのタープ代わりにと、何役もこなしてくれるパタロハ・パレオ。来週からのモルディブへの旅のお供に。

 キャンプのように、もののない中で工夫してうまくやりくりする生活が好きだという。
「道具もそうだし、料理だって余り物でもう一品作ったりしますよね。そうやって創意工夫を凝らす生活にピンときます。旅はもちろん、日常生活もその延長線上にあるのが私の理想。なるべくものは持たず、シンプルに。そして丁寧に作られたものを壊れるまで、壊れても修理して長く、大事に使う。そんな暮らしが今の自分にフィットするんです」

長く使うものを選ぶときには、それがどんな成り立ちでどう作られてきたのか、その背景も知りたい、と岡崎さん。知ることはすなわち、選択肢の幅を広げることにつながる。豊かな選択肢から大切なものを一つずつ選び取っていくことが、素晴らしい世界を作る。岡崎さんはそう信じている。

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岡崎友子

パタゴニア・サーフィン・アンバサダー。女性のプロ・ウィンドサーファーの先駆けで、プロ・カイトボーダー、バックカントリー・スノーボーダーでもある。16歳でウィンドサーフィンを始め、20代でマウイ島に移住。1991年のウェイブライディングで世界ランク2位を記録。多くのコンペに出場したが、いい波、いい風、いい雪を求めて旅を続けるライフスタイルを選択する。旅をしながらフリーランスのライターとして多くの記事を雑誌に寄稿。ジェリー・ロペスの著書『SURF IS WHERE YOU FIND IT』の翻訳も手がけた。