(動画 上山亮ニ 動画音楽 Mitsu the BEATS / 写真 八木伸司 / 文 倉石綾子)

抜群の柔軟性を武器に各地のコンペティションを転戦する、日本を代表するフリークライマー野口啓代。昨年はクライミング・ワールドカップのボルダリング部門で4度目の年間総合優勝を果たすなど好成績を収めた。さらに今年1月に開催されたボルダリングジャパンカップ2016では、10度目となる優勝を飾り、第1回大会から第9回大会まで9連覇してきた大会の王座に返り咲いた。

「とはいえ2015シーズンのスタートは散々でした。10連覇がかかっていた2月のジャパンカップでは力を発揮できず準決勝敗退。これに向けて体重も落とし自分を追い込むようなハードなトレーニングをしていたのに、まったく結果に結びつかなくて」

コンペで勝つことを最優先し、つらいトレーニングや減量を自らに課してきた。結果を伴っていればこそ多少の無理も耐えられたけれど、勝つためだけにトレーニングをしている毎日に疑問を感じてしまったという。

「もっと楽しくクライミングをやりたい、そんな風に思い始めた時、カリフォルニア州ビショップへクライミング・トリップに出かけたんです。これが大きな転機になりました」

自らが望み、進んで計画したロックトリップでは、3週間に渡る滞在の最終日に目標としていた難関の岩を完登。一つの課題にじっくり取り組んだ結果、限界を超えて挑戦するというクライミングの醍醐味を味わえた。

「そんなこともあって、旅の直後に行われたワールドカップではいままでとは違う感覚でクライミングに向き合う事ができました。例年なら大舞台のために焦ってトレーニングをして、旅をしようなんて思いもしなかった。今年は『勝てなくてもいいから、ワールドカップ自体をもっと楽しんでみよう』、そんな風に思えたんです」

ビショップでの経験が心に余裕をもたらした。足の怪我というトラブルにも見舞われたけれど、それでもワールドカップ年間総合優勝を決めることができたのはひとえにあの3週間があったから。まさに、禍福はあざなえる縄のごとし。

「不本意な成績や怪我のせいで悔しくてつらい思いをしたけれど、おかげでトレーニングを見直すことができました。結果、メンタルもフィジカルも強くなれた。立ち止まって振り返るタイミングだったんでしょうね、これまでの自分や方法論を見直すような」

筋トレは相変わらず苦手だけれど、いまはヨガやコンディショニングと一緒に楽しく取り組んでいる。中でも最近始めたヨガは、身体の繊細な部位を同時に意識する感覚がクライミングに近いと、お気に入りのメニューに。クライミングのためには苦手なこともがんばれるけれど、どうせなら楽しく強くなりたい。目標のためのプロセスにも意味を見出すようになった。

「山あれば谷ありのクライミングってやっぱり不思議なスポーツだなって、あらためて実感した一年でした」

野口啓代(のぐち・あきよ)
1989年5月30日生まれ。小学5年生の時、家族旅行のグアムでフリークライミングに出会い、翌年行われた全日本ユース選手権では中高生を抑え、優勝するなど瞬く間に頭角を現す。2008年、日本人女性として初めてワールドカップ ボルダリング種目で優勝。この年から設立されたオーバーオール部門(ボルダリング、リード、スピード)で初代チャンピオンを獲得し、翌2009年は2年連続でワールドカップボルダリング年間総合優勝を飾る。2014年は4シーズンぶりに年間総合優勝に返り咲き、2015年も自身4度目のタイトルに輝く。ワールドカップなどを中心に世界を転戦する日本が誇る世界屈指の女性クライマー。近年は外岩での活動も積極的に行い、2013年にはスペインにある「MindControl」8C+(5.14c)で日本人女性最高レッドポイントグレードを更新。2015年3月には自身の念願でもあったアメリカにあるMandara(V12)を完登するなど幅広く活躍中。

【2015年コンペティション戦績】
ワールドカップ トロント大会(カナダ)2位   
ワールドカップ ヴァイル大会(アメリカ)  2位
ワールドカップ 重慶大会(中国) 優勝  
ワールドカップ 海陽大会(中国)  2位
ワールドカップ ミュンヘン大会(ドイツ) 4位

【外岩】
2013年 
MindControl (5.14c)

2015年
Mandara (V12)

【クライミング・ワールドカップ・ボルダリング部門年間ランキング1位】
2009年、2010年、2014年、2015年 

【クライミング・ワールドカップ・オーバーオール部門総合優勝】
2008年、2009年、2014年