2015.12.22 - 22:00

打てなくて当たり前。開き直りが僕を変えた。山田哲人

(写真 松本昇大 / 文 井上英樹 / 協力 adidas baseball

2015年の流行語にもなった「トリプルスリー」。

レギュラーシーズンで打率3割、本塁打30本、30盗塁を達成し、東京ヤクルトスワローズのセ・リーグ優勝の立て役者となった山田哲人選手。トリプルスリーを成し遂げたのは、山田選手と柳田悠岐選手(福岡ソフトバンクホークス)の2人。2002年の松井稼頭央(当時西武)以来、13年ぶりの快挙だ。その影響は野球界にとどまらず、日本スポーツ界でも大きな話題となった。トリプルスリー達成の大きな節目となった2015年を振り返り、山田選手に野球に取り組む姿勢を伺った。

 

今シーズンの山田選手はとにかく打った。打率は3割2分9厘。不調の時も粘り、出塁率は4割以上。出塁への執念が得点につながり、スワローズのセ・リーグ優勝に大きく貢献した。だが、山田選手は打席の集中について「なにもしていない」と、意外なことを言う。

「ほんとに、特別なにかしていることはない。『ここで打たなきゃ』とか『このランナーを返したら同点になる』とか。……そういうことは打席では考えない。あまり考えるとプレッシャーになって緊張する。だから、僕は考え方として、開き直るんですよ。『返さなくて当たり前や』と。だって、どんなに良いバッターでも3割しか打てないんです。10回打席に立てば7回はアウトになる。アウトになる確率の方が高いんですから。『(出塁できなくても)別に良いか』。その、“開き直り”を頭に入れて、気持ちをリラックスさせる。一球一球やっていく」

その言葉から、「野球道」の気負いは感じない。飄々とすら感じる。もちろん、ここで言う山田選手の“開き直り”とは、後ろ向きの発言ではない。相手も、その腕で食うプロ野球選手。球界一のバッターを打ち取って調子をつけたいはずだ。それに優勝を争うチームには当然、エース級を当ててくる。打席ごとに、頂上対決をしているようなものだ。その平常心を保つことができる集中力、精神は並大抵のものではない。

 

「打てれば良いなって感じですよ。『絶対打つ!』という感じはなかなかない。絶対に打ってやるという感じの選手もいると思います。でも、僕は「打てたら良いな」。そんな気持ち(笑)。……じゃないと体が硬くなるんです。だから、ちょっと和らげようと思って」

山田選手がその“開き直り”の境地に達したのは2、3年前。山田選手の成績が驚異的に上がっている頃だ。フィジカルのトレーニングは球団としてどういうサポートがあるのかと問いと、「そんなものはない」と言う。

「プロの世界なので自己管理なんですよね。メンタル面は各自ですね。練習というのは守備、打撃の反復練習です。でも、そんなのをやっている人は(チーム内には)いないですね、たぶん。……不安な時もありますし、絶好調の時もある。そこをコントロールしなくてはいけない。でも、そこが難しいんですけれどね。僕は『打てる!』となったら、トコトン打てる。もう、その時は自信に満ちあふれているんで、『なんでも来いよ!』という上から目線でいけますし。だけど、反対に不安な気分の時は、粘って粘ってって、ファーボールでも良いから塁に出る。バッティングって、一日一日で変わるんです。状態やコンディションも違う。このコンディションは自分でわかる。練習中に体や腰が重いなとか。反対に『今日は振れているわ』とか。……昨日調子よかったのに、今日はあかんやんみたいなね」

試合に勝つには体幹が必要になってくる。

山田選手は身長180センチ、体重は80キロに満たない。選手の中でも線のシャープな方だろう。この細い体にあれほどの長打力が潜んでいるとはにわかには信じられない。普段はどのようなトレーニングを行っているのだろう。シーズンオフには相当な走り込みを課しているのだろうか。
「いや、オフの時は走っても数キロですね。1キロをゆっくりと3本走るくらいです。僕は走り込むと、腰が痛くなるので、速く走るのは無理ですし、長距離が苦手なんです。高校の頃から腰痛とは付き合っているんで……。1キロをゆっくりと3本というのは、(昔から)そういうトレーニングをやっていたので、続けています。シーズン中は、まず走らないですね。

走るとしたら……試合中の盗塁一本ってくらいです(笑)。でも、盗塁って相当疲れるんですよ。ほんとに疲れる。だから、練習で走れるかというと走れないですね。それに、試合中で体を動かしているので、試合がトレーニングになっています。だから、この(キャンプ前の)12~1月というのが体を造るすごく大事な時期です。オフシーズンに力を入れるトレーニングはウエイトですね。やはりもっと体を大きくしたい。毎日はやりません。週に3~4日くらいですかね」

山田選手がウエイトと共に大切にしているのが体幹トレーニングだ。体幹を鍛えることで打球が飛び、力強い球が行くようになったという。
「体がぶれないというのが一番なんです。体幹トレーニングを取り入れたことで、安定したフォームになりましたね。野球をうまくなるにはどうしたらいいですかと聞かれることがあるのですが、それは体幹を鍛えることと答えています。そんな難しいことはやらないんですよ。簡単な腹筋とかで十分。体幹トレーニングをやると、踏ん張れる。この踏ん張れるというのが重要。

 

セカンドの守備は難しい体勢でも、しっかりゲッツー(併殺)を取らないと勝てない。難しい体勢でアウトをしっかり取るには、やっぱり体の強さ、体幹が必要になってくるんですね。守備がうまくなったのも、体幹を鍛えたことだと思います。ノックを受けるのも大事ですけれど、僕はまだ若いし、数多く受けたら受けた分だけ、うまくなると思います。だけど、それ以外にも、やはり体幹は必要だと思います」

他のインタビューの受け答えを読んでいると、山田選手は「一流」という言葉をよく使う。そして、「僕も一流になりたい」と発言する。しかし、もはや名実ともに山田選手は一流選手の仲間入りをしている。これ以上、なにを目指しているのだろう。

「それは、何年も続けることです。結果を出し続ける。(結果を出したのは)まだ1、2年の話なんで。これでは“一流”とはまだ言えないと思います。……イチロー選手(マイアミ・マーリンズ)、青木宣親選手(シアトル・マリナーズに)はすごいですよね。一流とは彼らのように何年も結果を出し続けること。結果を出し続けるということはすごいことだと思います。2015年の結果に関しては大満足です。来シーズンも今年と同じようになりたいですね。今年以上というのは……無理だと思うんで(笑)」

山田選手は2015年が良すぎたと笑うが、果たしてどうだろう。球界入りして5年。トリプルスリーという、高い境地に達した山田選手は、今後私たちになにを見せてくれるのだろう。2016年も引き続き、山田選手の打席、守備、走塁から目が離せない年になりそうだ。

  • 山田哲人(やまだ てつと)
    1992年兵庫県豊岡市生まれ。東京ヤクルトスワローズ所属。2011年ドラフト1位でスワローズに入団。2015年、打率3割、本塁打30本、30盗塁を達成しセ・リーグ優勝に貢献。