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(写真 濱田晋 / 文 中島良平)

圧巻のスピードとステップワークのキレで奪うラインブレイク。ラグビー日本代表の一員として世界制覇を目指す松島幸太朗は、ラグビーのピッチで、身体的な強さとスピード、リズミカルな身のこなしを存分に発揮する。南アフリカの名門、シャークス・アカデミーで世界トップクラスの環境に揉まれ、現在はサントリーラグビー部「サンゴリアス」の一員として日本代表の命運を担う。

ジンバブエ人の父と日本人の母の間に生まれた松島は、「サンゴリアス」に加入した1年目の昨シーズンからチームをけん引する存在感を見せ、日本トップリーグのベストフィフティーンにも選出された。そして3月、日本選手権では準優勝に終わってしまったが、チームとしてたしかな手応えも掴んだ。今年の7月まで、ラグビーの本場であるオーストラリア、ニュージーランド、南アフリカのチームで構成される南半球の最高峰リーグ、スーパーラグビー傘下の「ワラタス(オーストラリア)」に期限付きで移籍。スーパーラグビーへの参戦を直前に控え、世界を見据えるラガーマンに取材した。

桐蔭学園で全国大会を制覇

中学生だったころに、1年間だけ南アフリカに行く機会がありました。生まれも南アフリカだったので、語学を学んだり、向こうでの生活を経験するための留学です。小学校のころはサッカーと水泳をやっていたんですが、南アフリカで友だちに誘われて、初めてラグビーをやりました。小学校に上がる前から鬼ごっことかをよくしていましたし、追いかけるのが好きだったので、ラグビーをすぐ好きになりました。

日本に戻ってから、ワセダクラブラグビースクールというところでプレーしたのですが、そこのコーチが桐蔭学園のOBの方だったんです。そのコーチに桐蔭学園を紹介してもらって、中学のときに練習を見させてもらうこともあり、高校は桐蔭学園に行こうと決めました。

高校に入ると、やっぱり全国大会の優勝を目標に毎日練習するわけです。高校3年生の全国大会では1回戦と2回戦で自分らしいプレーができていなくて、基本的にクールな監督なんですけど、そのとき監督から「このまま次の試合を迎えても負けちまうぞ」と、ずばっと言われたんですね。その言葉があったので、日々やってきたことを振り返り、次の準々決勝からいいプレーができたと思っています。決勝で全部を出し切って、桐蔭学園としても初の全国優勝ができたことは嬉しかったです。

高校卒業後は南アフリカの名門へ

日本でラグビーをやっていると、高校を卒業して大学に進むのが一般的なんですが、みんなと違う経験をしたいという思いもあって海外を目指すことにしました。僕が入ったのは、南アフリカのシャークスというチームの育成部門です。基本的にチームメイトは現地の人ばかりでした。住んでいたこともあるので普段の生活での苦労もなかったですし、チームでもすぐに友だちができました。どんどん身近な選手とコミュニケーションをしていけば、海外でも問題なく自分の居場所を作れると思っています。

南アフリカでまず強く感じたのは、ハングリー精神が日本と全然違う。自分が得意とする部分を練習からアピールするわけですが、そこで埋もれてしまうと名前すら覚えてもらえません。自分をアピールする部分とつながっているかもしれませんが、海外の選手は比較的、決まったことをきちんとやるというよりも、自由にプレーしているように思います。瞬時に判断して、その状況で何をやったらいいのか、勝つために自分がそこで何ができるか。そういう状況判断力と、発想力が南アフリカでは鍛えられました。

南アフリカでは一度、右膝の半月板を手術しました。しばらく膝の痛みが続いていて、徐々にその痛みが強くなっていったので、検査をしたら半月板に損傷があったんです。それを縫い返すという形の手術です。そのときのリハビリで意識したのは、まず膝回りの強化。腿とふくらはぎの筋力を強化して、あとは大臀筋ですね。同じ部分が損傷しないように、周辺の筋力を強化することはすぐに止めず、リハビリは意識的に長く続けました。

コアトレーニングでスピードと強さを両立

それと、南アフリカはみんな体が大きくて、ひたすらウェイトトレーニングをしている印象が強いです。チームでやるウェイトトレーニングにプラスして、自分で足りない部分をさらにトレーニングする人が多かったので、その意識の高さは学びました。とはいっても、自分のプレースタイルはランニングスキルやステップワークなので、ウェイトの強さも必要だし、スピードを落とさないようにすることも気をつけないといけません。感覚としては、自分の得意とするスピードの部分を6〜7割、残りの3〜4割でコアトレーニングによって体幹を鍛えて、自分のスピードを活かせる体重維持にも気を配っています。

いまサントリーでやっているのは、ウェイトよりもスピードにフォーカスするトレーニングとして、ビニールのボールや浮き輪のようなものを使っています。そこに半分以下程度の水を入れて、重さの安定しない状態を作るわけです。それを持って腿上げなどをするんですが、アンバランスな状態をわざと作って、自分の体幹でバランスがとれるように調整します。それと、スピードを上げるためには足を上げる動きが重要なので、腸腰筋(ちょうようきん)という筋肉の強化を意識的に行っています

1日の流れとしては、起きるとまずシリアルなどで簡単な朝食を済ませて、すぐクラブハウスに行きます。大体8時ぐらいからウェイトトレーニングとスピードテクニックをやって、9時過ぎに間食としてプロテインと果物を取ります。それから一度部屋に戻り、午前中は少し昼寝もしてリラックスします。南アフリカでも結構自炊をしていたんですが、そのころから昼はスパゲッティが多いですね。あと、うどんも。消化が早い麺類を食べるようにしています。栄養士さんからの指導もあって、無駄な脂肪がなくてタンパク質を効率よく取れる鶏肉を食べる頻度が多くなったり、体を作るために食事には気を遣っています。

ラグビーの楽しさのコアの部分はずっと変わらない

追いかけるスポーツという、中学生のときに感じたラグビーの楽しさはいまも変わっていません。続けるうちにレベルがどんどん上がってきて、いままで通用しなかった選手に対して、自分には何が足りないのかをリサーチして、そこをトレーニングでカバーする必要が出てきます。強い相手に勝ちたいというモチベーションはずっと変わらないので、自分の足りない部分をカバーして、どんどんラインブレイクなどができると喜びは大きいですね。

南アフリカの3年目で、日本代表監督のエディー・ジョーンズさんにメールで「日本代表でプレーしてみないか」と誘っていただいたんですね。南アフリカから日本への移動は大変ですし、日本でプレーして代表に定着したいという思いは強かったです。そのなかでも、施設も整っていますし、スピードのある選手も多くて、プレースタイルも自分に合っているサントリーに入ることを早くに決めました。

リーグ戦を終えて、この前の日本選手権では、準決勝と準々決勝でパナソニックと神戸製鋼が相手だったんですが、どちらもリーグ戦で負けていたんですね。経験の少ない若手とベテランが日ごろからコミュニケーションをとって、負けている状況でもパニックせずに自分たちの目指すプレーを思い出す意思統一がチームでできるようになったので、その両チームに勝てたのはいい経験でした。チームもすごく盛り上がりましたね。リーグ戦の終わりからプレイオフ、日本選手権と5連戦があって、決勝が6連戦目。体が疲れていて最終的に決勝では負けてしまいましたが、そこまで来れたメンタルの強さはチームとして誇れる気持ちがあります。次に必ずつながりますから。

日本でのシーズンが終わって、スーパーラグビーに参加できるチャンスをいただきました。自分が何を目指すかというと、とにかく練習からアピールして、試合に出られるようにしたい。リザーブでもどこのポジションでもいいです。とにかく出たいというハングリー精神をどんどん前面に出していきたいです。行って満足ではなく、ただ練習をして数ヶ月後に帰って来るのでもなく、試合に出られるレベルに達するアピールをして帰ってきたいです。

松島幸太朗(まつしま・こうたろう)
1993年2月26日、南アフリカ・プレトリア出身。サントリーラグビー部「サンゴリアス」所属。ポジションはCTB(センター)、WTB(ウイング)、FB(フルバック)。ジンバブエ人の父と日本人の母の間に生まれ、幼少期から東京で暮らす。12歳のころに留学した南アフリカでラグビーをスタート。2010年度の全国高校ラグビー大会で、桐蔭学園高校(神奈川)のFBとして優勝に貢献(東福岡高校との両校優勝)。卒業後は、南アフリカの名門、シャークスの育成組織に入る。2012年6月には19歳以下の選抜チームのセレクションに合格し、7〜10月の国内大会でチームのMVPに選出されるなど、頭角を現すが、日本代表への強い思いを胸に2013年に帰国。サントリーラグビー部「サンゴリアス」に加入したシーズン1年目にして、トップリーグのベストフィフティーンに選出される。2015年3月から7月、スーパーラグビーに所属するオーストラリアのチーム「ワラタス」に期限付き移籍をする。日本代表キャップ数6。