2014.12.24 - 09:22

生きる本質に触れるシニアヨガ 山田いづみ

(写真 松本昇大 / 文 小矢島一江 )

 フィジカルだけでなくメンタルにもいい影響を与えるヨガは、世代を問わず愛されている。ことシニア向けに特化したヨガのインストラクターとして活躍する山田いづみさん。高齢化社会が深刻化するなかで、予防医療のひとつとしても注目されるシニアヨガ、普段なかなか触れる機会のない現場の話をじっくりと伺った。

親友を亡くして落ち込んでいたおばあちゃんが、みるみる元気に

 ヨガを始めたのは、東京に来てからなので10年程前です。もともと地元の名古屋でモデルをはじめ、本格的にお仕事するために上京しました。たまたま入会したスポーツクラブでヨガをやってみたら、身体が伸びてすごく気持ちよかったんですよね。ただ、自分の生業にした直接のきっかけは、名古屋のおばあちゃんなんです。

 ちょうどその頃、おばあちゃんの親友が亡くなって、すっかり元気がなくなってしまったんです。でもその空き家になった親友のおうちに、ヨガの先生を呼んで教えてもらうようになったら、またすごく元気になったんですよ。そのヨガの先生は、おばあちゃんが自分でお葬式にいった先にたまたまいらした方で、そのお葬式でおばあちゃんがナンパして連れてきた(笑)。とにかくそれをきっかけにすごく元気になった姿を見て、ヨガって直接的に身体をよくするだけでなく、その場に集まってみんなとおしゃべりして体操するだけでも効果があるんだなっていうのが分かって、それで私もヨガの先生になりたいと思ったんです。

 シニアヨガをやりたくてTT(ティーチャートレーニング)に行ったのですが、卒業してすぐにやれるところはなかったんですね。デイサービスに入って365日、シニアヨガを教えたいと考えていて、でもそれにはまず運動指導員として採用されなければならず、基本的には理学療法士などの国家資格を持っているか、それ以外は運動指導経験がないとダメだったんです。
 
 それでTTを卒業して都内のスタジオでヨガを教えて、10ヶ月ほど運動指導経験を積みました。

シニアヨガを教える難しさ、面白さ

 デイサービスに採用されてからは毎日がすごく楽しかったですね。デイサービスにもいろいろな種類があって、私が就職したのは機能訓練特化型と言われるリハビリ専門の施設。3時間のスケジュールのうち、ヨガを1時間、筋トレと歩行訓練を30分ずつ、残りの1時間はカウンセリングでした。

 シニアヨガでの発見は、運動の提供の仕方一つで人生が変わるっていうこと。運動の進め方とかコミュニケーションの取り方、ひとつひとつの影響力がとても大きくて、それでよくもなるし、逆に悪くもなってしまう。もちろん、若い人たちも当然ヨガを通じて人生が変わることがあります。でも、シニアの方々が抱えるひとときの尊さみたいなものが、大きな発見だった。あとは目上の方に、自分の言うことを理解してもらったり、やってもらったりするためには、よっぽど強い信念をもってやらないと伝わらないというか、信じてもらえないということ。
 「ヨガはすごくいいですよ」「精神的に安定しますよ」と言っている私自身が安定していなかったら、まったく伝わらない。3時間のリハビリの間、その人たちと絶対的に関わっていないといけない。みなさん、すごく細かい行動まで見ているんですよ。デイサービスは衛生面も大切ですから、例えばテーブルを拭く仕草や、手洗い場のきれいさとか、ちょっとお姑さんみたいな感じなんです(笑)。そうやって日常生活を含めて、私のことを先生として見てくれているから、自分の生活や心の在り方もきちんとしていないと、その人たちを導けないんです。

何よりメンタルへのサポートを

集団レッスンをしていると、ケガをしている人も、麻痺している人も、認知症の人も、最初は同じようにはできないことが、誘導の仕方ひとつでみんなできるようになるっていうのがすごく面白い。ただ、そもそも8割以上の方が何かしらの生活習慣病を持っているので、疾患の知識は必須なんですね。
 例えば高血圧の方は逆転のポーズをとったら危ないとか、そういう知識がないとその人の人生をよくしたくて提供したことが、まったく逆の作用になってしまいます。
 
 大前提としては、身体の面で言うとこれ以上悪くならないようにする、あるいは加齢によって進行する老化の現象をゆるやかにするっていうのが一番の目的で、筋力をつけたりよく歩けるようになったりっていうのはあまり求めていないんです。でも何もしないと身体は衰えていきますし、できなくなることが増えると、何よりメンタルに堪えてしまう。高齢者は鬱の方がけっこう多くて、配偶者やお友達を亡くされたり、お子さんが独立されたりして、できなくなることや失うことがすごく多いんです。

 メンタル的には逆に向上させていかないと、どんどん迫ってくるハードルを超えられなくなってしまうので、精神的にポジティブになれるよう、そこはしっかりサポートしたいと思っています。

 実はヨガを始めた頃は、身体の動かし方とか解剖学とかフィジカルなことに興味があって、あまり精神的なことに興味はなかったんです。高校の部活がテニス部で根性論的なところが強くて、そこがあまり得意な方ではなかった(笑)。でもヨガというのは、ずっと動いている中でも精神的な静けさを保てるというか、競争心や闘争心を問われないところがすごくいいと思っています。マイペースにやれることが一番よくて、そこが気持ちいいんですよね。

シニアヨガを取り巻く状況に目を向けると

 例えば医療費にしても、これだけ少子化が続く一方でシニア層が増えていけば、今までのように税金ではまかないきれなくなりますよね。かといって個々の収入も潤っている時代ではないので、国自体が「介護を予防しましょう」という政策に転換しています。現在の、対処療法がメインの医療では、みんながハッピーな顔にはならないと思うんです。

 病院で3時間並んだのに、5分しか診察してもらえなかったというのはよくある話です。緊急の時はお医者さんに頼りますが、それと合わせて普段から予防が必要なんですよね。それはヨガがもたらす心身への作用もそうですし、日常的で些細なことだと思うんです。どれだけ日々小さなことに気づけるか、注意して生きていけるか。きっと、生きる本質みたいなことですよね。ヨガを通じて心身をゆるめる。身体を動かすことを通じて心を変えることもできる。そんなことを、世代を超えて伝えていけたらなと思っています。

山田いづみ(やまだ・いづみ)
10代よりモデルとして活躍し、体型維持のためにヨガを始める。シニアヨガのインストラクターを目指してTT卒業後、都内のスタジオ、スポーツクラブなどで健常者向けハタヨガのクラスの指導を経験。介護予防運動指導員の資格を取得し、都内のデイサービスに就職、シニアヨガの指導をはじめる。インストラクターを経てシニアヨガのトレーナーに就任。リハビリのためのヨガのプログラム開発・指導者育成・研修などを行う。退職後は、全国各地でシニアヨガのワークショップや指導者養成講座などを行っている。