2014.07.29 - 21:40

奥秩父主脈縦走路 1泊2日 ファストパッキングの旅

(文 根津貴央/ 動画・写真 松田正臣)

 
ファストパッキングの魅力に迫る本連載企画。第1回は石川弘樹さんのパイネ・サーキットの旅を紹介、第2回はワークショップにてノウハウを共有した。そして今回は、ラストを飾るのにふさわしい実践編。石川弘樹さんと一緒に奥秩父主脈縦走路をファストパッキングしてきた模様をお届けする。

「奥秩父主脈縦走路」は関東屈指の縦走路として人気のコースだ。通常であれば3泊4日(人によっては4泊5日)かかる行程を、1泊2日で踏破するプランである。衣食住を詰め込んだバックパックを背負いつつも行程をコースタイムの半分にするというこの試み。果たしてどんな旅になったのか。とくとご覧いただきたい。

【Day 1】瑞牆山荘(登山口)〜甲武信小屋(約20km)

トレイルランナーの石川弘樹さん、グレゴリー プレス担当の佐々木さん、筆者の3名は特急スーパーあずさ1号に乗車し一路「JR韮崎駅」へと向かった。8時半過ぎに到着し、タクシーに乗ること約1時間、私たち3人は瑞牆山荘前の登山口(標高1510m)に降り立った。

「よーし!」。さっそく準備運動をしながら声を発する石川さん。
この気合いの入れ方からすると、まさか、これから始まる長い登りも駆け上がっていく気では…そんな不安を抱きつつ、午前10時、石川さんを先頭にして私たちはスタートした。

「さすがにファストパッキングの時は、登りは走りませんよ!」
石川さんのこのひと言で安心した。とはいえ、通常の登山時よりもピッチは速い。30分ほどで富士見平小屋に到着。5分ほどベンチで休憩した。

登りが一段落したこともあり、ここから平地と下りはランも交えながら進んでいく。富士見平小屋〜大日小屋までのコースタイムは1時間だが、30分ほどで通過。この頃から天候が徐々に崩れ、小雨が降り始めてきた。

大日小屋からは登り基調であったが、雨のおかげもあってか思ったほど暑さは感じず、発汗も多くはない。キレイなシャクナゲも咲いていたりと、気持ちのいいトレイルがつづく。しばらくして岩稜帯に入り、12時50分に金峰山(標高2595m)に登頂した。スタートから2時間50分。コースタイムは4時間10分なので、1時間強短縮(圧縮率は68%)したことになる。

雨天だったこともあり、山頂からは富士山はもちろん何も望むことができない。しかし、一面に“もや”がかかった山頂は、神秘的な雰囲気に包まれていて意外といいものである。ここでお昼休憩をとった。

雨は強くなる一方。しかもガレ場もあって、足運びは慎重になる。スピードは思うように上がらない。
大弛峠、国師ヶ岳を過ぎると、倒木だらけのトレイルに入る。藪漕ぎ的な要素も多く、体力を消耗しつつあった私は、徐々に遅れをとる。一方、石川さんは軽快そのもの。総重量7〜8kgのバックパックを担ぎながらも「このバック(ミウォック34)をちゃんと背負うと、荷物を持ってる感じがしないよね」などと言うほどである。

倒木エリアを過ぎると、苔むした木々に囲まれた幻想的なトレイルが始まり、走りやすく自然とスピードも上がっていく。17時頃には雨もあがり、しばらく気持ちよく走った後、心臓破りの急登を経てようやく甲武信ヶ岳山頂(標高2475m)に到着。時刻は19時10分、すでに辺りは真っ暗になっていた。

本来であれば、1日目はここから約3時間(コースタイム)の所にある「雁坂峠」まで行く予定であったが、時間的にも体力的にもキツイと判断し、10分ほど下った甲武信小屋でテント泊することにした。

今日の行動時間は、9時間20分。登山口〜甲武信小屋までのコースタイムは12時間30分なので、3時間10分ほど短縮(圧縮率は74.6%)したことになる。

【Day2】甲武信小屋〜鴨沢バス停(約40km)

昨日の遅れを取り戻すべく、3時起床。それぞれ朝食を済ませ、日の出も見て、午前4時半に出発した。とにかく天気がいいので、今日は絶景が見られそうだ。

スタートからしばらくは起伏が少なく、朝日を見ながらのラン。とにかく気持ちがいい。30〜40分経過すると右手には雄大な富士山がくっきりと姿をあらわす。破風山(標高2318m)を登りきって下り、日本三大峠の雁坂峠へ。ここからは笹の茂った見晴らしのいい稜線がつづく。

アップダウンはあるのだが、みんなの足取りは軽やか。昨日感じた疲労感はまったくない。どうやら、景色の良し悪しは心理面に大きく影響するようだ。

つづいて、雁峠。一面に広がる草原は、開放感満点で身も心も軽くなる感じがする。ここで少し休憩をとることに。とはいえ、今日は長丁場。あまりのんびりはしていられない。将監小屋でゆっくりランチ休憩を取ろうと話し、先を急いだ。

荒川、富士川、多摩川の分水嶺を越え、さらに水干(みずひ)と呼ばれる多摩川の源頭(最上流部分)へと進む。「ここが、多摩川の最初の1滴目なのか」と、3人ともその水を口に含みつつしばらく感慨にふけった。

10時50分、将監小屋(標高1800m)に到着。甲武信小屋から6時間20分。コースタイムは9時間35分なので、3時間15分の短縮(圧縮率は66%)である。まずまずのスピード。しかし、ここで事件が発生した。

「カップラーメンとか食べるものは売ってますか?」と将監小屋の主人に聞いたところ、予想外の答えが帰ってきた。なんと飲みものしか置いていないと言うのだ・・・。じつは、将監小屋に食べものが売っていると思い込んでいて、みんなでここでランチを食べようと楽しみにしていたのだ。

休憩もあまり取らずにがんばってきただけに、そのショックたるや相当なものだった。しかし、無いものはしようがない。コーラだけを買って小屋を出る。3人の手持ちの食料(行動食を除く)はというと、カップラーメン1つとアルファ米1食分のみ。これを3人でシェアすることにした。

「同じ釜のメシを食うというか、こういうのも楽しいもんだよね」。自然とそんな言葉が口から出た。
これは日帰りのトレイルランニングではなく、1泊2日のファストパッキング。ハプニングをもポジティブに捉え、前向きに対処することが、“旅”を楽しむ秘訣なのかもしれない。

気を取り直して出発し、飛竜山手前の禿岩からの眺望を堪能し、雲取山方面へ。一面に笹原が広がる狼平を経て、三条ダルミへ。ここらか雲取山へとつづく最後の急登が現れる。

最後の難所。まだまだ時間はある。これでこの山行もほぼほぼ終わるだけに、3人にも気持ちの余裕が出てきた。それぞれのプライベートな話などもしながら、しばらく登り、ついに雲取山山頂(標高2017m)に到着。

達成感に浸るとともに安堵の表情を浮かべる3人。時刻は15時半。将監小屋から4時間40分。コースタイムは5時間50分なので、1時間10分の短縮(圧縮率は80%)である。しばらく休んだ後、鴨沢のバス停へと下山したのだった。

選択肢、行動範囲がグンと広がるファストパッキング

3泊4日(あるいは4泊5日)かかる行程を、無事1泊2日で踏破することができた奥秩父主脈縦走路ファストパッキングの旅。特に私は、今回が初めてということもあり、「本当に1泊2日で行けるだろうか」と懐疑的な部分もあった。

しかし、終わってみれば余裕を持ってのゴール。意外とできてしまうんだなというのが正直な感想である。これなら、3日以上の休みが取れないという人でも踏破することができる。つまり、選択肢、行動範囲がグンと広がるわけである。

「やっぱり、走るのが好きなんだよね」。
私が石川さんに、「別に1泊2日じゃなくても3泊4日でのんびり縦走すればいいじゃないですか」と聞いたときに、彼が発した言葉である。特にラン好きの人には、このアクティビティはもってこいなのだろう。

まだまだ認知度が低く、実践している人も少ない「ファストパッキング」。しかしながら、非常に大きな可能性を秘めたアクティビティであることは確かである。3回にわたる本連載を通じて、読者の方々に少しでもその魅力が伝われば幸いである。そして、前回の記事にもあったように「ファストパッキングはこうあらねばならない」という制約はない。一人ひとりが、試行錯誤しながら自分なりのスタイル、楽しみ方を見つけてほしい。

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