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(文 根津貴央/ 写真 渡辺誠司)

ファストパッキングの魅力を3回に分けてお届けするこの連載企画。第2回目の今回は、6月15日(日)にグレゴリー横浜オフィスで開催されたファストパッキング・ワークショップの模様を紹介する。

ファストパッキングとは、ハイキング(あるいは登山)とトレイルランニングを融合させたもので、衣食住を背負い、ランを取り入れたスピーディーな行動で長距離山行を楽しむアクティビティである。登山よりも装備を軽量化することで行動範囲は広がり、野営をすることで日帰りのトレイルランニングより自然を満喫することができる。

イベントは2部構成で、前半の第1部では、パネリストとしてトレイルランナーの石川弘樹さんとトランスジャパンアルプスレース(TJAR)で活躍した小野雅弘さんが登壇。ファストパッキングのプレゼンテーションを行なった。後半の第2部では、参加者自らがプランニングをするワークショップを実施した。

【第1部】プレゼンテーション
まずは石川さんが、スライドを用いながら自身のファストパッキングの体験談を2つ語ってくれた。

1つ目は、約10年前に走ったアメリカのジョン・ミューア・トレイル(以下JMT)。総延長340kmのトレイルを5日間で踏破するというものだ。

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総延長340kmのジョン・ミューア・トレイル

「当時はファストパッキングという言葉すらありませんでした。当然、アウトドアショップにもそういうコーナーなんてなくて。ネットで調べたりたくさんの人に聞きながら、できる限りの軽量化を図って、約10kg(水を除く)まで絞りました」

ところが、この旅は嵐の接近により突然終止符が打たれることになる。
「約140㎞ほどで終わってしまったけれど、トレイルランニングと山旅を融合させた感じで、とても楽しかったですね。いま思えば、意識せずにファストパッキングをやっていたんです」

2つ目は、昨年足を運んだ南米のパイネ・サーキット130km。ハイキングだと7〜10日かかる行程を3日で走るという旅である。(この旅の詳しい内容は『憧れのパタゴニア・トレイルを行く 石川弘樹 ファストパッキング130kmの旅』で)

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JMTのときよりも進化した彼のスタイルを、以下で詳しく紹介したい。

■装備リスト
<衣>
ハードシェル・パタゴニア/M10ジャケット 323g
パタゴニア/フーディニ ジャケット 100g
パタゴニア/フーディニ パンツ 88g
ベースレイヤー・パタゴニア/キャプリーン4 ジップネック 189g
ベースレイヤー・パタゴニア/キャプリーン4 ボトムス 161g
パタゴニア/ウルトラライトダウンジャケット 235g

<食>
ストーブ・ジェットボイル(アコンカグアと併用したため)
朝夕飯・尾西/アルファ米
行動食・パワージェル、パワーバー、トップスピード

<住>
テント・マウンテンハードウェア/スーパーオメガUL1 807g+631g
寝袋・マウンテンハードウェア/マウンテンスピード32 446g
マット・ニーモ/ゾア 20S 285g

※総重量:約8kg
※コースタイムの圧縮率(歩く場合と比べた時の短縮率):30〜40%。起伏が少なく走りやすかったこともあり、かなり圧縮できた。

■こだわりポイント
装備に関しては削ろうと思えばもっとできました。でも、快適性を犠牲にしてまで軽量化しようとは思いません。体質的に寒がりなこともありますし、不測の事態が起こった際に、しんどい思いをするのは避けたいのです。ですから、テントは自立式でしたし、寝袋もマットも寒さに耐えうる快適なものを選びました。

■ファストパッキングの魅力について
トレイルランニングをしているときは少し戦闘モードになるんですよね。登りでもできる限り速く登ってやるぞ!みたいな。でも、ファストパッキングだと、登りは歩こうというリラックスした気分になる。加えて、仲間と行ったりするとすごく楽しいなと。トレイルランニングとはまったく異なるスポーツという感覚ですね。あと結果論ですが、トレイルランニングのトレーニングにもなるんです。8kg前後の荷物を背負って走ることで、かなり鍛えられますよ。

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つづいて、小野さんのプレゼンテーション。

ファストパッキングのきっかけは、トレイルランニングを始めて5〜6年目の頃に、日本アルプスを縦断するトランスジャパンアルプスレース(以下TJAR)に参加したことだったという。

もともとスキーやトライアスロン、アドベンチャーレースなど、幅広いアクティビティを嗜んでいたこともあり、アルプスの約415kmを8日以内で踏破するTJARに強く惹かれたそうだ。

日本海から太平洋まで約415kmを駆け抜けるTJAR

「最初は、とにかく軽ければいいんだろと思って、極端な軽量化をしていました。初心者が陥りやすいダメなパターンですね(苦笑)。耐久性の問題や快適性の低さを痛感して、それから徐々に重量が増えている感じです」

ここではレース時ではなく普段の小野さんのスタイルを詳しく紹介したい。

■装備リスト
<衣>
レインウエア上・montura 265g
レインウエア下・montane/ミニマスパンツ 125g
バフ 30g
アームカバー・montura/EMANA 50g
グローブ・アクシーズ/ライトシェルウォータープルーフグローブ 25g
ロングシャツ・montura/ランウインターマグリア 180g
ダウンジャケット 145g
ダウンパンツ 225g
替ソックス・Feetures 30g
(以下常時着用)
シャツ・montura/ランスカイTシャツ
ショーツ・montura/ランライトショーツ
ベースレイヤー・montura/EMANAシームレスTシャツ又はファイントラック/フラッドラッシュスキンメッシュ
ソックス・ドライマックス/ライトトレイル

<食>
ストーブ・プリムス/ナノストーブ 68g
ガス缶・プリムス/IP110 200g
カップ・チタン製 50g
箸・プラスチック製折り畳み 14g
朝夕飯・尾西/アルファ米、日清/カップヌードルリフィル 200g
行動食・柿の種、カロリーメイトなど 300g

<住>
シェルター・ヘリテージ&信州トレイルマウンテン/ストックシェルタープロ(ペグ込み) 290g
マット・山と道/ミニマリストパッド 40g
寝袋・SOL/エスケープライトビビィ(長さカット) 140g
(季節、場所に応じて変更または追加)ナンガ&スカイハイマウンテンワークス/スカイハイキルト 340g

<その他>
スマートフォン 110g
スマートフォンバッテリー2個 73g
カメラ・ソニー/ミラーレス一眼 410g

総重量(常時着用ウエア除く)4キロ+食料500g+水1~2L
※コースタイムの圧縮率(歩く場合と比べた時の短縮率):50%。休憩を含めない場合は35%(注:小野さんは日本山岳耐久レースで8時間台の走力)。

■こだわりポイント
私自身ギア好きなこともあって、超軽量モノ(たとえばヘリテイジのストックシェルターは270g)など、さまざまなものを試しています。今回寝袋はありませんが、季節や場所に応じて持っていくこともあります。軽量化すればその分リスクも増えるので、知識や経験は欠かせません。いちばんは自分で試してみること。誰かが勧めていても、それはあくまでその人の基準でしかないので注意が必要です。

■ファストパッキングの魅力について
トレイルランニングだと走らないと!という意識が出すぎてしまうんですよね。それに比べてゆっくり楽しめる。でも全部歩くわけではなくて下りは走る。走ることが好きな自分にマッチしたスタイルだと思います。ワンデイのトレイルランでは行けないコース設定もできたりするので、行動範囲がグンと広がるのも大きな魅力です。

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【第2部】ワークショップ
参加者が3グループに分かれ、1泊2日のファストパッキングの計画を考えてプランニングシートを完成させるというワークショップ。

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プランニングシートの項目は、エリア、起点、終点、時期、山と高原地図によるコースタイム、想定コースタイム、スケジュール(行程表)、予定キャンプサイト、エスケープルート、装備、ウェア、食料計画、ベースウェイト(水、食料、燃料等の消費アイテムを除いた重量)。

より実践的であることを目指し、装備の選択肢には、参加者が持参したものに加えて石川・小野さんの私物も加えた。さらにデジタルスケールで各アイテムの重量も細かく計った。

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約1時間にわたり議論、検討してもらって作成したシートがこちらである。

TEAM SYS『南アルプス〜3000m級の稜線を行く〜』
山と高原地図でのコースタイム:1日目 14時間15分 2日目 15時間
想定コースタイム:1日目 8時間30分 2日目 9時間(圧縮率約60%)
ベースウェイト 4360g
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チームSYSへのアドバイス

⇒宿泊地の白根御池小屋は標高が2,000mを超えているので、もう少し防寒着があったほうがいいでしょう(小野)

TEAM 野点『信越トレイル』
山と高原地図でのコースタイム:1日目 25時間 2日目 13時間
想定コースタイム:1日目 15時間 2日目 9時間30分(圧縮率約65%)
ベースウェイト 4840g
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チーム野立へのアドバイス

⇒行程はバッチリです。時期が7月と設定されていますが、信越トレイルは水場が少なく特に夏場は水を多く持つ必要があるので注意しましょう。あと、走る分カロリーもかなり消費するので、行動食はもっと増やしたほうがいいと思います(石川)

TEAM GREGORY『南アルプス〜まぼろしの光岳コース〜』
山と高原地図でのコースタイム:全行程31時間40分
想定コースタイム:1日目 11時間30分 2日目 9時間(圧縮率約65%)
ベースウェイト 4000g
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チームグレゴリーへのアドバイス

⇒食料計画ですが、1日目の夕食以外は柿ピーとキャンディーのみで済ませることになっています。食料と水は重要かつ欠かせないので、もう少し緻密に考えましょう(小野)

【総括】
今回、参加者のほとんどがファストパッキング未経験者。経験豊富な石川・小野さんの話は興味深く、かつ示唆に富んでいたこともあり、参加者それぞれの理解が深まり、イメージも膨らんだようだ。

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会場では、長野県軽井沢町のヤッホーブルーイングからアメリカンペールエールスタイルの『よなよなエール』が、Vita Coco Japanからは天然由来の水分補給飲料『Vita Coco』がふるまわれた。

また、登壇者の一方向的な話で終わるイベントは数あれど、今回のような双方向的かつ一体感のあるものは少ない。プログラム終了後の懇親会も含めて終始アットホームであり、個人個人気になったことはいつでも石川さん、小野さんに聞くことができる雰囲気だったため、非常に有意義な時間になったように思える。

最後に、グレゴリーの佐々木さんはこう話して締めくくった。

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「思えば、私自身15年以上前は80〜90ℓ以上のバックパックを背負って山に行っていました。でも、3年ほど前には60ℓも要らないんじゃないかと思うようになって。実際50ℓのバックパックで1泊2日の山行にでかけました。さらに、最近では34ℓ(ミウォック)でも充分なんじゃないかと思って試してみたら、装備が全部入ってしまって。私自身トレイルランニングもするので、この34ℓを担いで通常であれば4日間かかるようなところを2日で踏破したら、想像以上に楽しくて。近年つよく思うのは、“山はこうあるべきだ” “こうしないといけない” みたいな決まりははないんだなと。今は本当に新しい時代、いい時代になってきていると思います。トレイルランニングの人も含めて、さまざまな人が山に親しむようになり裾野が広がっています。ウルトラライトとかファストパッキングとか言うと、その言葉のイメージから軽量化に目が行きがちかもしれませんが、今日の石川さん、小野さんの話からも分かるように、人それぞれいろんな楽しみ方があるわけです。その楽しみの幅を広げる選択肢のひとつが、ファストパッキングなのだと思います」

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ミウォック34(女性モデルはマヤ32)
M 容量: 34 L 重量: 1.10 KG TORSO: 46-51 CM
L 容量: 36 L 重量: 1.20 KG TORSO: 51-56 CM
価格:¥18,000+税(レインカバー付属)
http://jp.gregorypacks.com/ja-JP/GM74522.html