2014.04.24 - 08:00

平山ユージ アメリカのクライミングキャピタル、ボルダーで出合ったスタイル

onyourmark発スポーツライフスタイルマガジン『mark』の2号目もついに発売開始! 今号の特集は「スポーツ旅支度」です。スポーツに導かれた旅の模様や、一期一会のドラマ、日常にはない新たな発見の数々など。さまざまな観点からスポーツと旅をクローズアップ。そんな今号のmarkとの連携企画として、onyourmarkでも「SPORTS TRAVELING」をキーワードに、スポーツと共に旅することの魅力を伝えていきたいと思います。

第一弾は、世界的トップクライマーとして長年クライミングシーンを牽引してきた平山ユージさんのSPORTS TRAVERING。世界のあらゆるフィールドで最難級の岩にトライし限界に挑み続ける平山さん、ご自身が綴った旅の模様を前編後編に渡って掲載します。

前編は、昨年(2013年)秋に訪れたアメリカ・コロラドでのクライミングツアー。27年前、単身で渡ったこの地を再び訪れた旅の記録を掲載します。

アメリカのクライミングキャピタル
(文 平山ユージ / 写真 Eddie Gianelloni)

2013年の冬、4月のスペインツアーが決まった頃、もう一つ訪ねてみたい場所が脳裏に浮かんだ。世界中のクライマーがスペインのカタルーニャを目指すわけだが、アメリカのクライマーと話すとほとんどがコロラドのボルダーに住んでいると言う。僕はそんなアメリカのクライマー達が何に魅れ、ボルダーに集まって来るのか。そんなボルダーの魅力を見てみたかったのだ。カタルーニャが今のヨーロッパでのクライミングシーンを熱く映し出す場所だとしたら、ボルダーはアメリカのクライミングシーンを映し出すもっとも熱い場所ではないかと思っている。

そんなボルダーのクライミングに思いを馳せると、トラッドクライミング(わずかな岩の割れ目に専用の器具を差し込み登るクライミングスタイル)があり、ボルダリングがあり、スポーツもクライミングジムも充実している。それでもクライミングの歴史を振り返ると、特にボルダーはトラッドの分野で他の場所にはない魅力をたっぷりと含んでいるように感じる。そんなツアーを考えた僕は、アメリカのクライミングシーンをリードするダニエル・ウッズに案内を頼み、イギリスのトラッドやアメリカ、フランスのボルダーシーンで世界が注目をする成果を上げた中嶋徹くんと、このアメリカのクライミングキャピタルに降り立つことにした。

プラン変更
〈day 1〉9.11
9月11日、僕はいつも通り慌ただしくアメリカに向かった。たまたま常夏のハワイ経由で青空のワイキキビーチを堪能した僕がたどり着いたコロラドは大雨の真っただ中、同行してくれたカメラマンのエディーは大雨で着いてから何もできなかったし、ボルダーから空港に向かう途中に見える橋が川に落ちて車が突っ込んでいたと言う、着いてそうそう大変なことになっていることを知った。
僕らは目的地のボルダーに向かう車の中、これからどうなるのかわからないと言うこともありダニエルに無事着いたことを電話した。激しく叩き付ける雨音で声がかろうじて携帯から聞きこえて来た。どうしようもない状況なのに「ジムにでも登りに行こうぜ!!」と高いテンションが伝わった。
 

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僕らの行き先はMovement、ダニエルのトレーニング場だ。中に入るとどこまでも広がる空間のリード壁と奥行きのあるボルダー壁が広がっていてトレーニングエリアもありハイテクで充実した施設であることを感じさせた。飛行機から降りたばかりの僕はゆっくり登ることにしたが、ダニエル、ポール ロビンソン、ジミ− ウェブ、マティ・ウォングなど今のアメリカのトップクライマー達に徹くんが混じりテンションを徐々に上げていった。そんな彼らを見ていると最初は難しそうな課題も少しづつひも解かれ一人また一人と成功して行く。そんな課題を次々とこなし高いエネルギーとアメリカNo.1のクオリティーで課題が登られて行く。こんな素晴らしい施設の中でトップ選手達が集まり本気モードで登っているところを観ると、それだけでここに人の集まる魅力が十分あった。

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そんな激しいセッションは夕方5時に終わった。通常より3時間も早く閉店なのだがこの時ボルダーで大雨のために浸水が始まり避難勧告が出ていたようだ。僕らも仕方なく外に出るが道路が既に川となって町中にあふれていたのだ。そして食事を終え車を走らせるとホテルに行く高速道路が冠水のため閉鎖され下道もこれでもかこれでもかと閉鎖されていた。空襲警報さながらにサイレンが鳴り響き避難指示がだされていた。僕らはどれだけの道を試みたのだろう、日付が変わろうとするころ、ようやくホテルにたどり着くことができたのだ。

〈day 2-3〉9.12-13
翌日、僕らはさらに自分たちのツアーを大きく変えるニュースを次々と聞くことになる。ロッキーマウンテンへ行く道が全て閉鎖、エルドラドキャニオン、ボルダーキャニオンヘ行く道も閉鎖されたことなど次々と情報が入って来た。そこでダニエルと話をしライフルに向かうことになった。出発前にはボルダーならではのクライミングをと考え最も旬なボルダリングエリアやトラッドエリアを訪問したいと考えていた。

でも天候ばかりは僕らではどうしようもできないし、こんな500年に一度の大雨にあたったのも旅の醍醐味として楽しむべきなのだろうと考えるようになった。むしろダニエルが行きたい岩場へ純粋に案内してもらうことで今の旬なアメリカを味わう旅になる気がした。そしてボルダーのライフスタイルを堪能する最高の機会になったのだろう。

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彼ら流のクライミングスタイル
〈day 4-6〉9.14-16-
ライフルに移動した翌朝、僕らを迎えたのは青空だった。さっそくウォームアップを終えダニエルの目標ルートがあるWicked Caveに向かった。自分が最後に訪れた12年前にはなかったどっかぶりのケーブに何本も新しいラインが引かれて入り口からハードルートがずらりと並んでいる。僕も徹くんも目標を絞りきれない程に迷ったが僕は自分の調子に不安もあったし、とりあえずPlanetX 5.14a/b を3日間かけて攻めることにした。

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一方、ダニエルはデーブ、グラハムも合流し共にBad Girls Club 14dを攻めていた。その攻め方はと言うとワイルドとしか言いようが無い。その登りを見ても決して動きが洗練されている感じではなく多少迷いながらも厳しい動きをねじ伏せ、あれよあれよと終了点間際まで突き進み、ついにはこの日の一発目で成功してしまったのだ。

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その高いモティベーションにつられるかのようにデーブもこれに成功した。強いクライマー同士でお互いに高め合っているこの感じがMovementで感じたエネルギーと同じものだった。そんなかれらのクライミングを横目に僕も最初のトライでPlanetXに成功することができた。

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翌日、更なる目標を求めダニエルがProject Wallに行くと言うことで僕らも向かった。そこで目の当たりにしたWaka Flocka Flame 14b/cも彼らは同じ攻め方でダニエルが攻め落とすと、デーブが続いた。ダニエルの恐るべき体力はもちろんだが二人のポジティブなエネルギーを見せつけられた。その翌日、彼らの登りに徹くんも刺激を受けたようだWaka Flocka 14bに成功し、僕も彼らのポジティブなエネルギーに刺激を受け同ルートを成功した。

このような形でプランにはなかったスポーツエリアでのクライミングだったが彼らのスタイルの重要な部分をたっぷりと体感させてもらった気がした。僕らはそんなボルダーのスタイルに思いを馳せながらボルダーの街に向かったこの日、徹くんは20歳の誕生日を迎えていた。広大なこの風景の中で迎える20歳と言う節目の誕生日、家族からも離れ寂しさもあるかもしれないが、ダニエルとのクライミングでいろいろなことを感じているようだったし、何よりもクライミングに意識が集中した格別な20歳の誕生日だったのではないだろうか。

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自由でポジティブな空気
〈day 7〉9.17
青空のボルダーには日常が戻っていた。芝生の上で寝転がる人々を見て、僕が初めてここを訪れた27年前と全く変わらない風景がそこにはあった。僕はその風景にお互いの信頼感と自由を感じる。ダニエルの家にこの日から毎日集合し、そこから岩場に向かうのだが敷居が低く居心地の良い家だった。毎日のフィーリングとモティベーションを通わせ向かう岩場がそうやって決まって行く。時間が読めないところはあるが自由でポジティブな空気もこんなところにも流れていた。
そんな流れの中でまず最初に向かったのがリンカーンレイク、標高3,600m程の高地にあるボルダーエリアだ。一時間半程で着いたこの場所は空気が澄んでいて目に映る景色は全てが美しく目に入って来た。しかしこの標高だけあって心臓の鼓動は地上とは比べ物にならないくらい早く自分の予想を裏切るように高鳴りがやって来た。登っている時以上に登り終えた時に激しい鼓動が押し寄せてくるようだった。

そんな中、ダニエルは アップで一通りムーブをこなすと今日の目標Deliriumv15と目される課題に取り付いた。これまでライフルで見て来た彼のクライミングは予想を超えたフィジカルでねじ伏せて行くスタイルだがこの課題でも同じスタイルでねじ伏せてしまった。

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徹くんも負けじと隣の短いv14をトライする。ダニエルとは対照的に鋭い動きと軽やかなリズムで動きを一つ一つ解決し取り付きからのリズムと一つ一つの動きがシンクロした時、彼もこの課題に成功していた。このV14をダニエルもトライするがタイプではないようだった。その登りは徹くんが磨き上げて来たものを示した瞬間でもあった。ダニエルと徹くんの違いでもあるが、客観的に両国のクライマーを比べた時、日米のスタイルの違いを感じさせてくれた課題でもあった。

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Reel Rock 8
〈day 8-9〉9.18-19
翌日、僕らはフラットアイロンでトラッドに挑戦しようと考えていたが地滑りへの警戒なのだろうか全エリアが立ち入り禁止。仕方なくレストとなった。それでもこの日はもう一つ大切なイベントがあった。Reel Rock 8が全世界に先駆けてここボルダーでWorld Premiereをおこなった。アウトドアのメーカーやメディア、トップクライマーから一般の方までたくさんの方々が集まって来ていた。僕とダニエルは今回そのなかの“先生”に出演していて会場に向かうことになっていた。

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夕方、会場に入るとそのイベントの大きさが初めてわかった。2日間で2,600席が販売され会場は人でいっぱいだった。その中で僕のところにもメーカの方や昔からの知り合いが挨拶にきてくれた。フィルムの制作者や出演クライマーが紹介され最後のとりでみなさんへの挨拶を僕が頼まれた。光栄なことだが英語で気の利いたことが言えるのか、不安でいっぱいだった。それでもテンションが高まっているここのお客さんにとって全ての言葉がもう火付けになっていたようだ。「それでは映画を楽しんでくださいね」と最後に伝えReel Rock 8の世界最初の上映が始まった。上映後、ここに集まった出演者のサイン会で列はいつ終わるともなく続いた。Reel Rock 8の上映会が全世界500ヶ所でこうやって行なわれる。日本でも今年初めて上映会が行われるが、どれだけの刺激を日本のクライマーにもたらしてくれるのか本当に楽しみだ。
自由と進化
〈day 9-10〉9.19-20
そんなReel Rock 8の上映会を2日間過ごした後、僕らの旅もあと数日で終わろうとしていた。一日はクリアークリークキャニオンで半日のスポーツクライミングをしてボルダリングジムSpotのコンペを観戦し、最終日は僕らの宿題が残っていた標高3,000mのグアネラパスへ向かった。この日もダニエルはIce KnifeのシットスタートV15、徹くんもIce Knife V14を目標に向かった。徹くんはこのチャンスをしっかりものにしIce Knife V14を落とした。連日登って疲れているダニエルはこの日の成功はお預けとなった。そして僕はと言うとこの若者達に交じってV10のDark Horse,Rainbow in the Darkに成功し僕のクライミングも終わった。

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日々こうやって世界最難級のV15に挑戦できる環境が普通にあり、一緒に向かうアメリカ最強のクライマー達がここボルダーに集っている。そんなクライマーの中心だけに世界最初のReel Rockの上映会がここで始まり世界に発信されて行くのだろう。そして自由な空気は27年前、僕が初めて訪れたころと全く変わらずに流れているがその一方で、良いと思うことには積極的にどんどん取り入れ変化して行くのも僕の目に映るボルダーだった。

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そんなボルダーの魅力は「自由と進化」をベースに山に囲まれた地の利と人々のエネルギーがクライマーをまたどんどん吸い寄せるのだろうと思う。クライミングのスタイルも多岐にわたっていてこだわった雰囲気もない。そこにはそれぞれのエリアで発展して行くスタイルがあって、そのスタイルがどんどん進化して行くと感じた。ダニエルをはじめアメリカのクライマー達と別れ僕らは空港に向かった。ダニエルや徹くんはこれからのクライミングをどんどん引っ張って行く人間で、そんな二人の世界最先端のクライミングは素晴らしかったし二人の違った才能も中々の見応えだった。日本、アメリカそれぞれのスタイルや魅力が更に発展し、時折Movementでのセッションのごとくそのエネルギーを交わして欲しいものだ。

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思えばここボルダーは27年前自分が初めて訪れた頃もアメリカのクライミング文化をどんどん発信していた。春に訪れたスペインのカタルーニャが「時代のクライマーを映し出すキャンパス」だとしたら、ボルダーは時代の「クライマーを映し出すキャンパス」以上の魅力を持っている。そして、僕らが暮らす日本の景色に「自由と進化」を重ねると役には立つのだろうとは思う。しかし、「時代のクライマーを映し出すキャンパス」以上の魅力を僕らの力で作り出せれば面白いことが起きるのではないだろうか。

平山ユージ

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