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先月開催された日本最大のボルダリング大会「THE NORTH FACE CUP 2013(以後、TNFC)」ファイナル。昨年からの全国8ヶ所での予選を勝ち抜いた、国内の名だたるクライマーたちをはじめ、TNFC2012の覇者ダニエル・ウッズや常に世界ランクトップを争う女性クライマーのキム・ジャインといった各国のワールドクラスのクライマーたちも集結。

そのTNFC 2013ファイナルの一部を下記の映像からご覧いただけます。

Men’s DIVISION 1


W’s DIVISION 1


そして、このファイナルを終えた翌週「GLOBAL ATHLETE CLIMBERS TALK」と題したスライドトークショーがTHE NORTH FACE 原宿店にて実施されました。去年に引き続き、TNFC2013を制したアメリカのダニエル・ウッズ、韓国のキム・ジャイン、そして日本を代表するフリークライマーであり、TNFCプロデューサーの平山ユージが登壇。

トークショー後には、日米韓の代表をするクライマー3名がインタビューに応えてくれた。

THE NORTH FACE CUP 2013を振り返る
国民性を反映したクライミングスタイルの違いについて

ダニエル・ウッズ 今年も参加させてもらいましたが、他の国のクライマーと比べて日本人クライマーは、とてもやる気と情熱に満ちあふれていて、疲れても負けない忍耐強さがあります。クールで力強く、ダイナミックなクライミングスタイル。中でも柔軟性と強さ、この2つのポイントが印象深く残っています。

キム・ジャイン いざ会場入りすると、とても人が多くて、比較的若い世代の方が多かったことに驚きました。そこで多くの日本人クライマーの姿を見て、韓国のクライマーとの違いをすぐに見つけられました。韓国のクライマーは、コンペとなると競争や競技が主であるという意識が強い。でもTNFCで見た日本人クライマーたちは、コンペでも「クライミングをいかに楽しめるか」そんな意識を持っていたのがとても印象的でしたね。

平山ユージ ジャインが感じてくれたTNFCでの日本人クライマーの意識は、とても嬉しい発見だね。大会を主催する僕らは「たくさんの人が参加できたらいいな、この大会で多くの人とコミュニケーションできたらいいな」って想いが強い。そして、ダニエルやジャインのようなトップクライマーがもっと注目を浴びる場所であってほしいとも思ってるんです。より多くの人が楽しんで、関われることができる大会でありたい。しかも、今年は新しい試みを行いました。これまでは地区予選と本戦(ファイナル)が、別個にあった。それぞれのジムの中で完結していた地区予選を、TNFCの一部としてきちんとみせれるようにしたんです。ファイナルでトップクライマーが活躍している姿を見て、それを目標にできる分かりやすい構造になったので、参加者も観客も理解しやすいものになったように思います。

ーー さきほど話が出た”国別のクライミングスタイル”については平山さんはどう感じてますか?

平山ユージ クライマーにもお国柄というのがあります。背景にはそれぞれの国民性やフィールドの違いなど様々あると思います。日本とアメリカの外岩は全く似ていないですが、アメリカのクライマーのトップ選手のDVDとかを見て、憧れて取り入れているところもなくはないですし。一方で、韓国と日本とで比べると、アジア圏独特の身体的な柔軟性には親近感は感じますね。あとは、ジャインの登り方を見ていると、かなりの粘り強さを感じます。それと比べると、日本人はどちらかというとキレの良さ。「スパスパ」っと登っていくところは違うかもしれません。地理的な所や文化的背景によって微妙な違いがあってこそ、一緒にセッションしたときに刺激にもなりますし、発見もあります。だから、登っていて楽しいんです。

キム・ジャイン 日本へ来て、ダニエルさんとユージさんと一緒に外岩でセッションできたのは、私にとってとても嬉しかったことです。実は、私はクライミングにのめり込むきっかけをくれたのは、周りのお兄さんたちでした。尊敬できるお兄さんたちとセッションしているのがただただ楽しくて、その場にいたくて始めたようなものなんです(笑)。それで始めたばかりの頃は泣きながら「やめる、やめる」ってよく言ってて・・・でも今ではクライミングの魅力に取り憑かれ、クライミングをしているのが一番好きな時間になりました。

ボルダリングと
スポーツクライミング

ーー 先ほどの「GLOBAL ATHLETE CLIMBERS TALK」で、ダニエルさんが繰り返し話されていた“スポーツクライミングとボルダリング”というフレーズが耳に残りましたが、改めて、ご説明いただけますか?

ダニエル・ウッズ 僕はもともとボルダーとして育ってきたんですが、今はボルダリングからスポーツクライミングへと広がり、オールラウンドなスタイルになってきました。家の近所の岩山を見つけて登り、成長したいと思うようになってからは、世界中の様々な場所を訪れて他のクライマーが作った課題に挑戦するようになりました。クライミングを通じて世界中を旅し、たくさんの人々と出会う。それはクライミングを愛する大きな理由のひとつです。今回日本を訪れて、改めて、旅とは新しいカルチャーとの出会いなのだと気づけました。

ーー トークショーでは、日本で一番挑戦してみたい場所は二子山だとも話されていましたね。次回の来日の際にはぜひダニエルさんオリジナルのルート(課題)を日本各所に残していってほしいとも思いますね。

ダニエル・ウッズ 一方で、外岩のクライミングだけでなく、僕はコンペも同様に楽しんでいます。ナショナルボルダリングコンペティション、ワールドカップなど世界の大会に多数出場してきました。これらの「その日」誰が強かったか、にももちろん興味があります。ただ今は、誰かと競うのではなく、むしろ自分との戦い、自分自身でのコンペと言えるスポーツクライミングの方が自分の興味が向いているんです。だから今後はさらに、ボルダリングからスポーツクライミングにシフトし、新しいルートにチャレンジすることに専念したいんです。

ーー 誰かと競うわけでないカタチで、モチベーションを持つことができた、ということでしょうか?

ダニエル・ウッズ 一番大事なのは、力ではなくゴールを目指そうとするモチベーションと信念です。自分が目指すルートがあり、それに向かうモチベーションとは、必ずしも高い場所であったり、特別個性的なものである必要はないんです。ただ「色が素晴らしい」ということでも構わない。さらに言うと、クライミングをはじめた頃は、他の人が登ったルートを登り、そのルートに挑戦することで自分のレベルを高めてきました。でも今は、新しいプロジェクト(課題)を自分が築くようになってきました。クライミングを通して自分の能力を表現したい。課題は困難であればあるほど嬉しいものなんです。もちろん、スポーツクライミングとボルダリングは両方続けることで、相乗効果が得られます。どちらも行うことをお勧めしますね。

3人の共通点のひとつ、ヨガ。
それぞれが目指す理想のクライマー像とは

ダニエル・ウッズ ヨガは柔軟性を高めるために、一日に15分程度行っていますね。実は、私の妻がヨガのインストラクターでもある。強い味方です。続けていくことで、クライミングには指と腕の強さだけでなく、身体の柔軟性も非常に重要なのだということを実感できます。

キム・ジャイン 私は身長がさほど高くはないので、ヨガを取り入れることで身体全体を使い、柔軟に動けることを目指してます。

平山ユージ 動くときって呼吸と身体の一体感がないと、思い描いた動きにはなりません。その点では、ヨガは良い影響をもたらしていると思いますね。それと、「ここぞ」っていうときに、ヨガによって集中力を養われた気がします。岩があってそこを登るためにどうしよう、課題に直面したときに、自分の能力を上げて、その岩に合わせていくということが必要となるんです。

ーー その岩に合わせていく、その順応性こそ、理想のクライマー像と言えますか? 最後にそれぞれ、理想のクライマー像についてお聞きしたいと思うんですが。

キム・ジャイン 他のスポーツと異なり、最も重要なのは試合に勝つことではなく、自分自身に打ち勝つこと。私はそう思います。

ダニエル・ウッズ ジャインが言っているように、常に自分自身との戦いであると思います。たとえトップクライマーになっても、また大きな目標やゴールにたどり着けたとしても、そこに立ち止まることなく、さらに自分の能力を磨き、さらに難しい課題に向かうこと。大きな大会にトライし、常に上を目指す気持ちを持ち続けること。クライミングの美学とは、立ち止まることなく、果てしなく前に進んでいくこと。

平山ユージ 〆が僕ですね(笑)。僕は、クライミングが自分自身の知らない世界へ連れてってくれているような気がするんです。だからもっと成長したいし、もっとうまくなりたい、どこかの大会に出たい、という気持ちが自分を育ててくれているような気がします。だから僕は「この世界の頂点を」ということより、今の自分自身の年齢の中で、クライミングを通して何を学ぶかっていう立ち位置。どんなことをクライミングは教えてくれるのかな、っていう期待に胸を膨らませていますし、だからこそ、自分の将来がどういうクライマーになるのかなんて結局分からない、分かってないんですね。でも、辞めないでしょうね。この先を見てみたい、そんな興味をもちながら突き進みたいんです。クライミングに関わる人たちが膨らみ、たくさんの人にクライミングを楽しんでもらえる時代になっていったらいい。国境とか人種とか、文化的な背景を超えて簡単に友達になる、そういったクライミングというツールを通してみんなが仲良くなっていったらいい。これが僕が思い描く未来像ではありますね。

THE NORTH FACE:
http://www.goldwin.co.jp/tnf/

THE NORTH FACE CUP 2013:
http://thenorthfacecup2013.blogspot.jp

(文 村松亮 / 写真 松本昇太)