2013.07.12 - 12:00

福士加代子「地球とケンカしない」 究極のスピードを追い求めて

(写真 奥山由之 / 文 村松亮 / ヘアメイク 柿本留里)

3000m、5000m、ハーフの日本記録を保持し、オリンビックにも3度と出場しているランナー、福士加代子さん。

日本が誇るスピードランナーの彼女が中距離からフルマラソンに転向を決めたとき、多くのメディアや業界関係者が彼女に大きな期待を寄せたのは言うまでもありません。彼女はこれまで、4度とフルマラソンに挑み、いまだ優勝経験はなし。42.195キロと福士加代子の相性は本当に良いのだろうか、そんな空気を払拭したレースが今年1月に行われた大阪国際女子マラソンでした。レース終盤、ペースメーカーが外れた30キロ地点からひとり抜け出し、独走体勢に。しかし35キロを境にペースダウン、残りわずかのところで終盤追い上げたタチアナ・ガメラシュミルコ(ウクライナ)に逆転され、惜しくも日本人最高の2位でゴール。でも福士さんのタイムは、自己記録を17秒上回る2時間24分21秒でした。この結果をして、彼女は今年8月にモスクワで開催される世界陸上選手権のマラソン日本代表に選出されました。これは自身初となる、女子マラソン日本代表への選出でもあります。

世界陸上を目前に控えた今年の5月某日。地元である京都にてトレーニングに励む福士さんにインタビューを行うことができました。42.195キロに苦悩し続けてきたスピードランナーが語る「マラソンランナーにとって最も重要な能力」そして「福士加代子にとって“走る理由”とは」。

30キロの壁
失敗ではなく、すべて経験だった

今年の大阪で、たしかな手応えみたいなものはありました。でもいまだ私はフルマラソンを完全につかめていない。それでも、ここを変えればもっとよくなるっていうのが見えたと思っています。30キロからのスピードの切り替えと、ラスト1キロからの勝負。あそこで、もう一回勝負かけれるなっていう手応えも得たんです。

今までの私にとって、30キロ以降は未知の領域で自分自身でも「この後どうなるんだろう?」っていう不安があったんです。でも今は「あ、いけるな」っていう、不安が自信へと変わりました。むしろ、気づけたポイントさえ修正すれば「もっといくんじゃない?」って(笑)。

ずっと勝ち続けてきて、何度も負けて、一回萎えて。でも、そこから這い上がるときに精神力とか忍耐力を手にすることができた。いっぱい失敗しましたけど、全部が経験だったんだなって、今は思ってますね。

やっぱり這い上がれたのは、練習でしかない。当たり前な答えですけど、練習を繰り返して、ようやくつかめるようになってきたんです。思えば、それまでは練習でもできてなかったから・・・(笑)。それだけですよ。練習できたなー、っていうことでしかないんです。

練習してつかんで、不安がなくなって自信に変わる。それがランナーの強みになるので。

マラソンランナーにとって
最も重要な能力とは

これまでの中距離とフルマラソンは、根本的に違うわけですけど、一番違ったのは距離と時間。分かりやすく練習時間も長くなりました。あとは気持ちの持ち方も「落ち着いて、焦らずにいこう」ってことをだいぶ意識するようになりました。昔の私では、とてもじゃないけど2時間走るなんて考えられませんでしたけど、今は「2時間もあるんだから、焦らずいこう」って思えるようにもなりました。これは自分にとって大きな変化でもありましたね。中距離のときは、もっとバタバタしていたんですよ。不思議なもんで、その気持ちが普段から定着しはじめると、性格も変わった。気が長くなったんじゃないですかね。昔はもっと気が短かったんですよ(笑)。

思うんですけど、マラソンランナーにとって最も重要な能力って「無理しないこと」なんですよ。私は昔よりガッツがなくなったのかもしれない、そう感じるときがあります。昔は練習で追い込んで「やったなー」って満足感と、メラメラ感があった。それがあってこそ自分を落ち着かせることができていたんです。でも今はそれがなくても、落ち着いていられるメンタルを持てるようになりました。ま、変な意味で落ち着いてしまったらダメなんですけど、でも変な無駄がなくなってきたんですね。

だから今、私はモスクワヘ向けて、我慢できてる(笑)。今の段階からすっごい練習をすることもできるんですけど、やりすぎちゃう部分があるので、あえて抑えています。3分の1くらいの練習で終えていて。まだ準備段階だから焦ってもなくて、追い込むのは1ヶ月間ぐらいの予定なんです。6月後半か7月前半ぐらいから、完全に上げておきたいんですね。追い込むときは、月で多ければ2回くらい40キロが入るかもしれないですね。それで週2ぐらいはポイント練習を入れて、と思っています。

「地球とケンカしない」
速く美しく走ることへのこだわり

鴨川沿いとかで練習していると、多くのランナーとすれ違います。彼ら彼女らを見ていて思うんですけど、ランナーはみんな、どこかで自分を試したいんじゃないですかね。どこまで耐えられるか。ドMとも言えますけど、何かに挑むこと、そして走り抜くことの先には何かある。だからみんな走るのかなって。

私もそうですよ。一等賞をとりたい。人よりも早く走りたい。大きな大会で勝ちたい。やっぱり何か挑んでいるんです。「一等賞とってやろうじゃないの」って(笑)。だけど、もっと言うと、私の走る先には「きれいに走りたい」、そして「ラクして走りたい」という想いもある。それが走る理由かもしれません。どうやったらきれいに見えるのか、どうやったら一番ラクな感じで走れるのかって、いつも探求しているんです。

たとえば、世界のトップランナーの走りを改めて観察してほしいんですけど、とくにアフリカ系の選手の走りなんかを見ると、無駄が一切ないことが分かります。もう見ているだけで気持ちいい。私もそこのレベルまでいきたいなって思うんです。それで彼女らと肩を並べて、一緒に走りたいなっていうのがあります。

結局、「チカラじゃダメ」ってこと。これは考えすぎて走ってもできないんです。頑張ってスピードをだすんじゃなくて、「あれ? 前に進んでる?」みたいな感覚です。見た目にも、「あれ? なんかあのランナー勝手に進んでない?」っていう状態にならないと(笑)。今の私はまだ、力でいこうとしてるから、それを外したいんですよね。それが私が求めていることで、スピードへの執着です。走りへのこだわりですね。究極は力を入れない、それで地球とケンカしないこと(笑)。

だからこそ、シューズは大切で武器にもなります。そう、武器。クッションと反発。パンって地球を蹴り上げてもクッションがあったらカバーしてくれる。とくにadizeroは、軽くて、クッション性がいい。踵のホールドもフィットするので履いた感じも軽快。むしろ、この踵がズレるとまずいんです。

私は地球から重力を借りて走りたい。それを意識できないと、理想の走りにはならないので。結局、スピードを追い求めていくと、器なのかなって思うときがあるんです。中身よりもまず速く走れるカラダを作ること。ココロよりもまず、カラダから。早いカラダが持てるようになると、中身(ココロ)が後から自然についてくる。これもまた、究極ですよね(笑)。

<プロフィール>
福士加代子(ふくし かよこ)
1982年3月25日、青森県生まれ。五所川原工高卒。ワコール女性陸上競技部所属。