昨年5月、富士山の周りを巡る100マイルレースUTMFが開催され、7月にはおんたけウルトラトレイル(エリート部門は100マイル)、11月には八ヶ岳スーパートレイル100マイルレースが開催と、日本では一気に100マイル(160km)のウルトラトレイルレースが脚光を浴びています。こうした100マイルレースが世界で広まるきっかけとなったのが、アメリカで行われているウエスタンステイツ100。もともとは馬によるレースだったものを、ある時ひとりの男性が自分の足で走破したことから、やがてランニングのレースとして独立していったというエピソードを持っています。

このWS100を7連覇した伝説的なランナーが、今日ご紹介する『EAT & RUN 100マイルを走るぼくの旅』の著者スコット・ジュレクです。ただ強いだけのランナーであるだけではなく、自身がトップでゴールした後も、シュラフに包まりながら最後のランナーにまで声援を送るという人柄が多くの人々を魅了しています。それにしてもこのタイトル、最初に”EAT”とあります。これは、スコットがランニングと食事、ひいては人生と食事は切り離せないと強く考えているから。彼は、競技とトレーニングと食事を真摯に突き詰めていった結果、ビーガン(完全菜食主義者)としてWS100の7連覇を成し遂げたのです。

『EAT & RUN』というシンプルでクリーンなタイトルからは想像できないほど、この本はひとりのランナーを巡るありとあらゆる要素が詰め込まれています。不遇だったけれど豊かな自然と向き合った子ども時代、生涯をかけての親友との二人三脚、自分の道を見つけるまでの内なる葛藤、困難を極めるウルトラレースの数々。そういった自伝的な物語の中に、ランニングに対する深い考察が挟み込まれ、時折それは囲みのコラムとしてまとまったTIPSにもなっています。カラーページには、彼が実際に普段口にしているベジタリアンフードの写真が収められ、それぞれのレシピが巻末に掲載されています。そのレシピは日々の料理にふさわしく、簡潔で食べ応えのありそうなものばかり。もちろん、アスリートのトレーニングに耐えうる栄養バランスも徹底的に考えられています。

軸となるのは彼の精神の遍歴と呼応するように変化してゆく食生活。幼い頃は、家族が自分たちで育て、採取した食べ物を自分たちで調理して食べる生活が、生まれ育ったミネソタの自然を背景に語られ、それが彼のルーツとなっていることがわかります。料理好きで地元のケーブルテレビに料理研究家として出演していた母親が多角性硬化性を患い、家族のために自分で料理をするようになったのが、その後のスコットの基礎になっているようです。
学生時代はファーストフードを好んで食べ、それが自由の象徴のように感じていながら、本格的なアスリートとして自分のポテンシャルを高めるために徐々に菜食を取り入れていった結果、完全ビーガンとしてWS100の7連覇を成し遂げるのです。

とはいえ、この本の本質は、レースにおいても人生においても必ず訪れる困難な状況を乗り越える知恵をいかに持つべきか、いかに楽しみながらそれを乗り越えるべきかといった真理を彼の人生を通してビビッドに感じ取れることにあります。この物語に触れているとスコット・ジュレクが勝利というものにどれだけ飢えていたか、そのためにどれだけの準備をしたのかということに圧倒されます。しかし、そこで繰り返し強調されるのは、大事なのはゴールではなく”いま、ここ”であるということ。それは、ランナーであるか、ビーガンであるかとは全く関わりなく、あらゆる人の人生において実践可能な生きる知恵に他なりません。

EAT&RUN100マイルを走る僕の旅
スコット・ジュレク 著
スティーヴ・フリードマン 著
小原久典 訳
北村ポーリン 訳
ページ数368ページ
定価 2,100円 (本体2,000円)

(文 onyourmark編集部)