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#02『総合格闘技とはすべてが邪魔にならない競技』のあと番外編をはさみ、今回は『UNO DOJO』におじゃまして、実際のMMAにおけるトレーニングにまつわるエトセトラをうかがってきました。

身体をほぐす準備運動としてのストレッチから始まり、寝技から打撃へと総合格闘技の基本的な動きを、文字通り手取り足取り丁寧に指導していく。会員の方々も、とても熱心に、かつ楽しみながら練習をしている。時折、宇野さん自身も何かを確かめるような動作を見せていた。キャリアを重ねたベテランでも、指導者としては本格なスタートを切ったばかり。指導を終え、ひと息ついたところでお話をうかがいました。

一緒に練習する仲間たちと共有したいもの

――入会して、MMAの練習をスタートするにあたって、宇野さんから会員の方々に心構えというか、気を付けてほしいことなど、決まってお話ししていることはあるんでしょうか?

「実はメンバーズカードに、『日々是気付』として道場訓的な言葉が書いてあります。これは会員の方にだけお渡ししていて、ここだけにしか書いていないことなんです。日頃から自分が思っていること、大事にしていること、なかでも総合格闘技(MMA)に通じるなと思うことを、一緒に練習していく仲間たちと共有したいという気持ちがあって」

なぜ(WHY)~なぜならば(BECAUSE)を考えながら、伸ばしたい技術に焦点(FOCUS)を合わせて練習すること。
ひとつだけ!とお願いをして、『日々是気付』のからこれまで取材を続けてきたなかで、今の宇野さんが最も大切にしていると感じたひとつを、『onyourmark』読者へのメッセージとして、こちらに紹介させていただきました。

――前回おうかがいしたなかにあったMMAの独特な自由なイメージとは、対極にあるような気もしますが。

「そんな説教じみたことでもなくて、ベースとして最低限の“礼節”を身につけておいて欲しいのと、技術が上達するための姿勢というか、考え方みたいなものです。以前に所属していた和術慧舟會の道場に貼ってあった道場訓のなかに『十年経ったら一人前』というのがありました。10年まであと何年だなって数えながら、つらいときも10年経ったら桜庭(和志)さんみたいに上手くなっているんだろうなって思いながらずっと練習してましたね。今は10年以上経っても目指しているところが高いせいなのか、まだまだ多くの練習を必要としてますけど(笑)」

基本的な動作の大切さを再確認

これは、まさにエビが跳ねる動きに近い動きからその名が付いた、“エビ”と呼ばれる寝技の基本的な動きのひとつ。ただこの練習をみているだけではわからないかもしれないけど、実際の技をかけるプロセスで必要な部分を抽出して説明してもらうと、その重要性に気付くことになる。しかも、腹筋から背筋等、全身をバランスよく使わないとスムーズな動きができない。

――練習を始めるにあたっては、かなり長い時間をかけて基本的な動きを反復していましたが。

「基本動作は言葉のとおりMMAの基礎的な動作になり、何年経っても変わらず、自分が繰り出す技の地固めになるので時間を多くとってます。フリーになってから応用の部分を伸ばそうとして少し疎かになってしまっていた時期があったのですが、ある時期にもう一度基本的な動きの大切さを再確認し、いまではその動きに対して幅を持たせるような考え方に変わりました。その部分を理解してもらうためにも寝技に関しては、3か月にひとつからふたつの技をしっかり覚えてもらうというターンで考えています。

UNO DOJO道場を始めて、最初にみんなに練習してもらったのはチョークスリーパーです。自分の得意技というのもありますが、この技をちゃんとかけるまでに必要な技術が沢山あることを知ってもらう意味があります。まず、MMAの寝技においては人体の生理的な部分を逆手にとって技を極めることを知って欲しく、このチョークスリーパーも首を取れれば他の技と違って呼吸をすることができなくなり、かけられた相手も我慢することができないからタップ(※まいったの意)をせずにはいられなくなるし、また、バックに回るという点では、そこまでに寝技の基本動作を駆使してそのポジションにしなくてはならないのと、そのポジションになったときに相手の打撃を含め致命的な攻撃をもらわずにいられるので、安全な技であることが、イコールポジショニングの重要性を知ってもらえますから」

――寝技では、攻守を切り替えて技の反復練習をしてから、スパーリングという流れでした。

「本格的なものではなく、シチュエーションを決めてからの形ですが、今日初めてスパーリングにチャレンジしてもらいました。技の打ち込みの練習ではできていたことが、実践に近い形で相手もディフェンスをしてくるという状況になると、簡単に技がかからない。相手の守る力も加わったときの難しさがわかってもらえたんじゃないかと思います」

必要なパーツをひとつひとつ磨いていく段階

――打撃の練習では、パンチのコンビネーションが上手い方、すごく重いキックを蹴る方がいらっしゃいましたね。ミットを持つのも大変そうに見えました。

「そうですね。ボクシングジムと並行して通っている方で、ディフェンスも含めて、かなり高い技術を持っています。蹴りの重い方は、学生時代に日本拳法の経験があるそうです。体格が大きいこともあるのですが、プロと遜色のないしっかりとしたキックだと思います。ミットを持ってる腕をもっていかれそうになりました(苦笑)。打撃で気を付ける点は、MMAではいろんな局面への対応が必要なので、レスリングのように前傾になりすぎないことですね。できるだけ後ろ脚に重心を置きながら、手打ちにならず下半身と連動したフォームが理想です」

――ミットの持ち方も、習熟度やレベルによって、変えているのが見て取れました。

「いいなと思ったところを引き出せるように工夫してます。皆さんには得意な部分に気付いてもらって、それを軸にしながら技の枝葉を伸ばしていて欲しいと思っています。経験のあるなしにかかわらず、みんな飲み込みがはやくて、わずか半年のトレーニングでかなり上達してきてます。まだMMAに必要なパーツのひとつひとつを磨いていく段階で、MMAのスパーリングまでにはもう少し時間はかかると思いますがスムーズに打撃を出せるだけの練習から、パンチと蹴りのコンビネーションを意識した動き、さらにMMA的な攻撃を意識した動きとレベルを上げていきたいと思ってます」

あらゆるスポーツにつながるエッセンス

練習を見ていると、バランスの取り方だったり、パワーの伝達方法だったり、あらゆる他のスポーツにもつながる正しい身体の使い方のエッセンスが入っているのでは?と気付く。この連載が始まってから、宇野さんの口からよく聞く「体幹の強さ」がキーワードになる。トレーニングで鍛えたその強さを競技のなかでどう上手く使っていくか、ということに意味がある。

――どのパートの練習をみても、姿勢というか、重心の置き方を強く意識していますよね。

「体幹の強さ、腰からまっすぐなバランス、ひざを柔軟にしながら猫背にならず反りすぎない。ファンダメンタルポジションと呼ばれる、安定感のある基本の姿勢ですね。これができるようになれば、組技の対応にもつよくなるし、寝技もしっかりできるようになります。なんとなくやっているんじゃなくて、ちゃんとそれを理解し意識してやるのとでは大きく違うので、指導しながらこういったことも伝えていきたいと思ってしまうんです」

――ファンダメンタルポジションは、MMAだけじゃなくあらゆるスポーツ、競技にでも有益な姿勢ですよね。

「その通りだと思います。たとえば、レスリングとテニスの構えはとても似てるんですよね。実際の動きは違っても、タックルに入るのと、ボールを打ちにいくことは、力の伝え方が同じなんです。パンチの打ち方であっても、できるだけ力を抜いて当たるインパクトの瞬間に力を入れてスーッと力をぬく。これって、野球やゴルフのボールに当てるのと近い感覚だと思います」

――技術的なものを習得する前に、基本的な姿勢、身体の動かし方を身につけることが、本当に重要だとわかりました。

「ボクもトレーナーに相談して模索しながら、少しずつ身につけてきたのですが、MMAはやることが多いので、正確な動作の原理を知ることが大事だと思います。それは他のスポーツを見ていても大切なんだなと思うことが多いですし、だからこそ他のスポーツから得られるものがあれば、やってみたいと思えるようになりました。まだまだ、できないことのほうが多いくらいです」

次回は、闘うための身体を作るためのベースになる“食”について。MMAファイターのグルメ論、運動を効果的にする食事のことをおうかがします。

宇野薫(うの かおる)
総合格闘家(UNO DOJO所属)。プロレスへの憧れから、高校時代はレスリング部に所属。修斗でプロデビュー。第4代修斗ウェルーター級王者についたあと、総合格闘技のメジャー、UFCに参戦。惜しくもベルトには届かなかったが、トップ戦線で活躍。
宇野薫公式ブログ:http://ameblo.jp/caoluno/
Twitter:@caoluno
宇野薫が主宰する総合格闘技道場「UNO DOJO」公式ホームページ:www.unodojo.com

【UNO VOICEアーカイヴ】
#01 総合格闘技がDo sportsである理由
#02 総合格闘技とはすべてが邪魔にならない競技
#番外編 ランナーへ向けたエクササイズを紹介

(文・聞き手 浅野じたろう(ATAQUE) / イラスト ナカオ☆テッペイ)