onyourmarkユーザーならきっとご存知、「人間は走るために生まれてきた」ということを思い出させてくれる名著『BORN TO RUN 走るために生まれた~ウルトラランナーVS人類最強の”走る民族” 』。走ることに長けたメキシコの民族タマウマラ族や、ウルトラトレイルレース、ランニングカルチャーの変遷と裸足ラン、それらがまるで一大タペストリーのように重層的に織りなされる物語の中で、ひときわ異彩を放つ人物が登場します。その名はベアフット・テッド。

ストーリーのクライマックス、タラウマラ族が住むメキシコのコッパーキャニオンで開かれるトレイルレース。そこへアメリカから向かったスコット・ジュレクやジェン・シェルトンといった現在のトレイルランニング界のスターに混じって参加者に名を連ねたベアフット・テッドは、不思議なサンダルを身につけ、裸足で走ることの効能を機関銃のようなトークで力説するトリックスターとして登場します。

現在、彼はタラウマラ族の履くサンダルにヒントを得て、自分の裸足ランの経験を反映させた走るためのサンダル、“ルナ・サンダル”を販売する会社を興し、裸足ランとルナ・サンダルの普及に力を注いでいます。

その彼がこの春に来日、ランニングクリニックやトークショウ、UTMF参加や被災地でのランニングなど精力的に動き回りました。

今回はランニングショップRun boys! Run girls!主宰のイベント『Are you BORN TO RUN?』の第一回として開催された、ベアフット・テッドのトークショウの模様をお伝えします。

サーフィンとスケートボードカルチャーで育った

ベアフット・テッド:
わたしは南カリフォルニアで生まれ、サーフィンとスケートボードカルチャーに囲まれて育ちました。(日本語で)「15年くらい前に滋賀の田舎に住んでいたことがありますので、日本語を少し話しますけど、英語がわたしのフェイバリットランゲージです」

48歳になりますが、サーフィンとスケートボードカルチャーには本当に大きな影響を受けています。若い頃はクッションの効いたシューズはまだなくて、なんでも裸足かVANS(シンプルなスケートシューズ)でやっていました。

自分が20歳の頃、40歳になる著名な上院議員がマラソンを走るという出来事がことがありました。当時はマラソン人口も多くなかったので、40歳にもなる人がマラソンを走れるのかと大変驚いたんです。それをきっかけに「よし、自分も40歳になったらマラソンを走ってみよう」と決心したんです。

そろそろ準備をしなくてはいけないなと考えたのは35歳になった頃。改めて考えて、これは大変なことだと気づきました。そこで、いろいろなアドバイスを受けながら1時間程走ってみたんです。結果、感じたのは疲れではなく痛みでした。「マラソンランナーは、ずいぶん痛みに強い人たちなんだな」と思ったものです。

それで、これは自分のやるべきことではないなと思ったんです。でも、もしかしたら何か新しいテクノロジーが助けになるんじゃないかとネットを駆使して調べてみました。そして見つけたのが、スイスのメーカーが作る”カングージャンプと”いうスプリングシューズ。感動して、随分高かったけどオーダーしました。ようやく届いて、これで2、3時間は走れるんじゃないかと思いました。

しかし、「15分あとで…(日本語で)」同じ痛みが襲ってきました。

裸足ランニングとの出会い

再びリサーチを始めて見つけたのが、ベアフット・ケン・ボブ(アメリカの裸足ランニングの第一人者)のサイトでした。三日三晩読みふけり、人類は走ることに完璧に適応して生まれてきている、ということを理解しました。生れ落ちたときは裸足なわけで、それを使って走るということを、言語のように学んでいくのではないかと考えました。自分は子どもの頃、裸足で生活していたという下地があったので、その言語=走り方を学び直すのにアドバンテージがあると感じました。そして、ベアフットの走法を学び始めた一日目から、これは何か良いことが始まっているんだと気づいたのです。

裸足ランニングとライフスタイル

ベアフット・テッドという私のキャラクターは、日本の文化の影響なくしてはありえません。私は剣道を習っていたのですが、これは裸足でやるものですよね。自分の考え方は、剣道をはじめとしたマーシャルアーツや比叡山マラソン、わらじなどに影響を受けていると思います。

今はトレーニングとして走るということはしていません。ランニングはわたしにとってサーフィンのようなものなんです。それは生活の喜びであり、環境の中をよりよく移動する手段です。

今日のワークショップに参加した方は分かると思いますが、あらかじめプログラムを作っておくということはしません。様々な路面を楽しみながら、目についたところをあちこち走りまわるんです。わたしは犬を飼っていて一緒に走るので、犬の行動に身を任せます。天気によっても気分が変わるかも知れません。ランニングはわたしにとってフリースタイルのダンスや凧揚げ、サーフィンのようなもので、どこにたどり着くか事前に知ることは出来ないものなんです。

トレーニングに対する考え方もサーフィンと似ています。毎日乗りこなすのは手頃なサイズの波です。そして時々、大きな波がやってきます。大きな波は危険ですから、これに毎日乗りたいとは思いません。しかし、大きな波が大好きなのは間違いありません。大きな波が来た時に常に乗りこなせるように準備をしておくということが大事なんです。

ルナ・サンダルとの出会い

これはマヌエル・ルナが初めて私にサンダルの作り方を教えてくれた瞬間の写真です。ルナはタラウマラの伝説的なランナーで、言ってみればマイケルジョーダンがバスケットシューズを作ってくれたようなものです。タラウマラのサンダルは、古タイヤで作ります。サンダルを作るための古タイヤを売ってくれるお店があるんですよ。

マヌエル・ルナとベアフット・テッド (photo by Luis Escobar)

わらじも試したりしたけれど、耐久性に問題がありました。比叡山の修行僧は100足くらいわらじを持っていたのではないでしょうか?いずれにしても日本の文化や伝統は自分の調査にとても影響を与えています。

わたしのサイト barefootted.comでは、サンダルを改良していった様子を全て見ることができます。サーファーがボードをシェイプするように、自分の体験を基にサンダルを改良していった歴史です。コッパーキャニオンのレースから帰って、自作キットの販売から始め、だんだんと広まって行きました。最初のものができてから、ベースは変えずにブラッシュアップさせて、いまのかたちのルナ・サンダルができました。サンダルというのは人類の最も旧いテクノロジーであり、それを現在によみがえらせることができたことを誇りに思っています。これは、チャリティのためやっていることではありませんが、マヌエル・ルナから名前をもらったサンダルですから、彼らのための基金を設立して還元しています。使い方は彼らの自由ですが、教育のために使ってもらうのが良いのではないかと考えています。

カバーヨ・ブランコとの思い出

編集部:
『BORN TO RUN』の物語の起点となるカバーヨ・ブランコは、タラウマラ族の近くで生活し、コッパーキャニオンでのレース(the Copper Canyon Ultramarathon)を企画した人物。そのカバーヨが2012年4月、トレイルに走りに出たまま行方不明となり帰らぬ人となった。トークショウでは、カバーヨの思い出も語られた。

カバーヨ・ブランコ (photo by Luis Escobar)

ベアフット・テッド:
最近、2005年のメールを見返していたんです。それはカバーヨ・ブランコに初めてメールを送った時期のものでした。裸足ランやサンダルについて調べていて、タマウマラ族が走ることに優れた民族だということを知り、それがきっかけでカバーヨに連絡したのでした。カバーヨがタラウマラと親密な関係にあり、イベントを企画していることを知って、自分のサンダルに関する調査を深めるために連絡しました。

イベントに参加したいという意向を伝えると、是非来るようにと返事が来ました。素晴らしい経験をして、そこに素晴らしい作家(BORN TO RUNの著者クリストファー・マクドゥーガル)が同行し、その経験が『BORN TO RUN』という本となって多くの皆さんとシェアできたことはエキサイティングなことでした。

カバーヨはとてもオーセンティックな人です。彼は自分の信念の下に行動する人。彼は私自身の道を行く上でも大事な人でした。彼がいなければ今の自分はありません。まるで父親のような存在です。そして、どんな父親とも一緒ですけれども、彼と長く付き合うのは簡単ではありません。いつも意見の食い違いはありましたが、最終的にお互い尊敬し合い、愛し合っていました。

2006年に彼が主宰し20名で始まったレースは、参加者が500名にもなり、ローカルなイベントから世界各国からランナーが集まる大きなレースになりました。大会の目的は彼らの歴史を守り、さまざまなかたちで支援することです。カバーヨはどこにも所属せず、個人でそうした活動をしていたのです。

カバーヨとタマウマラ族から学んだもの

彼から最後のメールを受け取ったのは亡くなる5日前のことでした。その後、わたしが返信した時にはもう亡くなっていたということになります。

カバーヨが残したのは、自分の生きるべき道を生きろということだと思います。そして彼はそのように生きた人でした。

また、彼を通じてタラウマラから学んだこと、それはシンプリシティです。タラウマラの人々は、多くのモノを持たなくても幸せな人たちです。彼らが持っているものと言えば、健康な身体と、素晴らしい自然、そしてその中を走ることができる環境です。それは私が一番欲しいものでもあります。みなさんも同じではないでしょうか。

現在開店準備中のランニングショップ『Run boys! Run girls!』では、オープンに先駆けて様々なイベントを開催中です。今週末には鏑木毅さんを講師に迎えた”都会でトレランすること”テーマにした『Urban Trail』や、トークセッション『Are you BORN TO RUN』の第二回などが行われる予定(残念ながら既に定員に達してしまったそう)。今後もこうしたイベントを継続的に行うそうなので、FACEBOOK ページ などから発信される情報に注目です!

(文・写真 松田正臣)