普段目にすることのできない、わたしたちの身体の内側にある内臓は、一体どんなカタチをして、どんな働きをしているのか、みなさんは意識したことがありますか。
知っているようで意外と知らない、身体のメカニズムを紹介する「OYM 家庭の医学」、2回目は握り拳サイズの小さな巨人、心臓についてひも解きます。

心臓は筋肉製のポンプである。

左手で拳を握り、みぞおちのやや左側へ当ててみよう。その奥があなたの心臓のポジション。心臓はその人の握り拳ほどのサイズがあり、その3分の2は人体を左と右に分ける正中線の左側にある。心臓は筋肉の固まりで、血液を全身に循環させる循環器系の要として機能する。腕や脚の筋肉のように骨について関節を動かす筋肉を骨格筋と呼ぶが、心臓は心筋という特別な筋肉を3層にしたもの。心筋と骨格筋はともに横紋筋というカテゴリーに属するが、その中身はひと味もふた味も違う。筋肉は筋線維というファイバー状の細胞を無数に束ねた作りをしている。骨格筋は瞬発力に優れた速筋線維とスタミナに優れた遅筋線維を適度にブレンドしているが、心筋は心筋線維のみからなる。さらに骨格筋では筋線維の1本1本に運動神経から延びる軸索がコネクトし、運動単位というグループを形成。骨格筋は運動神経からの指令で運動単位ごとに独立して働く。それに対して心筋線維は枝分かれしながら網状に連結されており、心臓右上の洞結節というペースメーカーからの刺激で一斉に伸縮できるのだ。

肺経由は4秒、全身経由は60秒。

心臓には右心房、右心室、左心房、左心室という4つの部屋があり、4つの部屋が連携して「肺循環」と「体循環」という2つのルートで血液を循環させる。肺循環は右心室から静脈血を肺へ送り、肺で血液に酸素を取り込み、二酸化炭素を排出して動脈血にスイッチ。左心房へ戻ってくる。所要時間はわずか4秒前後。体循環は左心室から動脈血を全身へ送り出し、各組織に酸素を配り、二酸化炭素を受け取って静脈血にスイッチ。右心房へ戻ってくる。こちらの所要時間は約60秒だ。心臓は1回の拍動で右心室と左心室を同時に収縮させて、肺循環と体循環をシンクロさせる。四つ足動物では血液の約70%は心臓より上にあるが、直立したヒトでは逆に血液の70%は心臓より下にある。組織を巡った静脈血が体循環で心臓へ戻るには重力に逆らう必要があるが、心臓に血液を吸い上げる機能はない。心臓の代わりに静脈血を心臓へ戻すのは、ふくらはぎを中心とする下半身の筋肉。筋肉が収縮するたびに静脈を圧迫し、バケツリレーの要領で上へ上へと静脈血を送り返す。「脚は第2の心臓」と言われる所以。

運動すると心臓も鍛えられる。

運動すると筋肉は鍛えられるが、心臓も筋肉ゆえに運動で同時に鍛えられる。その証拠に運動習慣がない人でも、左心室の筋肉の壁は右心室の筋肉の壁より3倍ほど厚い。隣にある肺に血液を送る右心室より、全身に血液を送る左心室の方がより大きな力が必要なため、自然に肥大が起こった結果だ。運動を行うと筋肉に大量の血液を供給するため、心拍数が上がり、心臓が1回で押し出せる血液量(1回拍出量)も増える。さらに定期的に運動を続けると心筋にトレーニング効果が出て心臓が大きくなり、1回拍出量がアップして安静時の心拍数が下がる。これが「スポーツ心臓」。スポーツ心臓は「心拡張」と「心肥大」という2つの変化で生じる。両者は並行して起こるが、ランや自転車のような持久的な有酸素運動を習慣化すると心臓の容量が増える心拡張がより起こりやすく、筋トレのような瞬発的で高強度の運動では心臓の壁が分厚くなる心肥大がより生じやすい。前述のように心臓の4つの部屋でもっとも大きなパワーが求められているのは左心室だから、心拡張も心肥大も左心室で起こりやすい。

              

心臓が30億回脈打つと寿命を迎える。

心臓が送り出せる血液は1回平均60ml。エスプレッソカップ1杯ほどである。少ないと思うかもしれないが、心臓は1分間に平均60回ほど休みなく動き続けるため、1分間で500ml入りのペットボトル7本分(3.6ℓ)、1時間でマンションサイズの浴槽1杯分(216ℓ)もの血液を送り出す計算。平均寿命をまっとうすると、拳サイズの心臓が拍出した血液量は延べでタンカー1艘分(およそ15万トン)に達すると言われている。そして心臓の拍動数(心拍数)は寿命と関係するという説がある。ほ乳類では種類に寄らず生涯の心拍数のリミットは25〜30億回で、心拍数が高いネズミのような動物ほど寿命が短く、心拍数が低いゾウのような動物ほど寿命が長いというのだ。ヒトの1分間の心拍数が60回なら、1年間の心拍数はトータル約3153万回。3年で約1億回だから、世界一長寿な日本女性の平均寿命86歳に近い90歳で30億回ほどに達する。運動時には心拍数が上がるので「運動は寿命を縮める」と主張する人もいるが、運動すると安静時の心拍数が下がるので、むしろ寿命を延ばす効果が期待できるかも。

【OYM家庭の医学 アーカイヴ】
♯01【肺】呼吸を司る静かなる大物

(文 井上健二/イラスト 清水将司)