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今週末、富士山周辺を舞台に世界が注目するトレイルランニングのレースが行われることをご存知ですか?

UTMF(ウルトラトレイル・マウントフジ 2012)は富士山の周囲156km(その累積標高差は8500m!)を48時間の制限時間以内に走破する、100マイルのウルトラトレイルレース。予定されていた昨年の開催が東日本大震災などの影響で延期となり、今年その第一回が開催されます。


世界を舞台とするウルトラトレイルのレースには、モンブランを中心にフランス、スイス、イタリアの3カ国を巡る『UTMB(ウルトラ・トレイル・デュ・モンブラン)』をはじめ、アメリカ西部開拓の歴史を色濃く残すシエラネバダ山脈を駆け抜ける『ウエスタンステイツ・エンデュランスラン』など、象徴的な意味を持つトレイルで、100マイルという距離に挑戦する魅力的な大会が存在し、多くのランナーたちの目標となっています。

UTMFは、こうした大会に肩を並べる100マイルレースを日本でという熱い想いの下に、多くの関係者の努力の末に実現することになりました。

5月16日、この大きなレースを目前に控え、姉妹レースであるUTMBのディレクター、カトリーヌ・ポレッティさんや、レースに参戦するトップ選手を迎えたカウントダウンパーティーが開かれました。日本のトップ選手であり、この大会の実行委員長である鏑木毅さんも登壇。このレースにかける想いを語りました。

ウルトラトレイルの魅力

今回は選手としてのエントリーはせず、大会運営に徹した鏑木毅選手

「今日もいらっしゃっているカトリーヌ・ポレッティさんとミシェル・ポレッティさんが企画されたUTMBに2007年に出たんですよ。僕にとって初めての100マイルの経験で、本当にこれ以上ないような地獄っていうのを味わって、本当に恐ろしかった。帰りもトランジットで車いすなんですね、動けなくて。でも飛行機で目をつぶって思い浮かべると、モンブランの美しい景色だとか、自分が限界まで追い込んだ時のその満足感とか、それがなんとも言えず後からあとから吹き出てくるんです。痛みとか苦しさなんかも超えて。それを思った時に、日本でも是非こんなウルトラトレイルをやってみたい、と思ったのがそもそものきっかけなんです。

UTMBに参加してみて感じたのは、これは旅なんだということです。僕はこれが一番大きなポイントだと思います。そのUTMBのコース、今回のUTMFもそうですが、山に入って里に下りたところにエイドステーションがあるんです。そこでいろんな人たちの応援とか支えに励まされて、また山に入って、また里に下りて。自分一人だけじゃなくて、多くの人たちに支えられながら自分は旅をしているという感覚をすごく感じるんですね。これまでの日本のトレイルレースですと、山に入って、観客が観ることができるのはゴールだけということが多いんですが、UTMFの場合はいろいろなところで出会える場があります。

UTMBのディレクター、カトリーヌ・ポレッティさんとミシェル・ポレッティさんも大会運営の苦労を語った

ただ、ひとつ言えるのは単なる旅ではないんですね。自分の限界を常に見つめながら行く旅なんです。そこが魅力だと思うんですよ。もう、本当に疲労の中で辿る旅なんです。それが後で振り返った時に、自分の脳や知識の中にものすごく強く刻み込まれて、もう一度あの旅をしてみたい、ってね。だから自分ももうこの地獄のような思いをしても、もう一回ヨーロッパに行って、今年も見てみたいって思えるんです。究極の苦しみと究極の喜びが裏腹の世界なんですね。こういう場でしか味わえないものだと思います」

100マイルレースを走るよりもはるかにキツかった

100マイルという距離をレースコースとして繋ぎ合わせるには多くの自治体や団体、地域の人々との協力が欠かせません。UTMFの場合も10の市町村を結ぶ長大なトレイルを実現させるには、まず関係各所にトレイルランニングというスポーツを知ってもらうことから始めなければなりませんでした。環境に配慮し、関わった人々皆が開催できて良かったと思える大会にするためには、多くの苦労があったといいます。

「感慨深いというか、本当に途中の段階ではこのレースはできないんじゃないかって何度も思いましたから。それだけに嬉しいし、僕だけじゃなくて夢を共有した仲間たちがいて、その多くの仲間たちの情熱がね、この日を作り上げてくれたんだなと思います。本当にここに関わっている多くの方達に感謝したいです。壁がいくつあったんだろうというくらい本当に大変でした。100マイルレースを走るよりもはるかにキツかった。それだけに3日後に行われるっていうのは感慨深いですね。

試走した方の声などを聞くと、キツいコースだって皆さんおっしゃいます。僕なんかはUTMBに比べれば、と思ってしまうんで感覚がおかしくなっているのかも知れませんね(笑)。

確かに、これまでの日本のレースに比べれば図抜けてレベルの高い大会ですし、多くの人たちにとって困難な道のりになると思うんです。UTMFに関しては100マイルレース自体が多くの方にとって初めてなんで、多分100kmとか走っている方はいると思うんですけど、100キロと100マイルは全然違う世界だから。いままで経験したことのないものを感じるんじゃないかと思います」

日本人選手にとってホームとなる100マイルレースを

「日本のトレイルランニング界が世界に繋がるきっかけとなるレースになると思うんです。これまでわれわれが世界で活躍しようと思ったら、日本を出てアウェイで戦わなければいけなかったんですね。どこに行ってもアウェイなんですよ。だけど僕はやっぱり日本に海外のトップ選手が自分から来て、UTMFのタイトルを穫ってやるっていう気持ちで来てくれて、その中で日本のトップ選手と戦って、それでこそ日本のトレイルランニング界が本当の国際舞台に上がったことになると思うんです。

世界からトップ選手が集結。左からHal Koerner、 Zigor Itturietta、Julien Chorier、 Adam Campbell、Duncan Carahan

日本の選手は決して他の欧米の選手に比べても劣るとは思っていないんです。互角にやれると思うんですけど、なかなかその機会がなかった。それが今回できたっていうことは、大きな一歩だったなと思いますね。ホームの声援が感じられて国際レースができるっていうのは、日本のトップ選手からみれば幸せなことではないのかなと思うんです。僕自身はこの舞台を日本に作りたいっていう思いで関わってきたんで、あくまでレースに関しては裏方に徹していたいなと思っています」

自分自身の限界を見つめる究極の旅をみんなで

「トレイルランニングレースというよりも、究極の旅ですよね。この旅を感じられるようなものを作りたいって僕が思った感覚を、是非多くの人に味わってもらいたい。UTMBは僕の人生を変えた大きなレースでしたし、多くの人たちがUTMFを走れば何か同じものを感じてくれるんじゃないかなっていう気がします。

競い合う場じゃないと僕は思ってるんですよ。究極の自分自身の限界を見つめる旅をみんなでするんだっていう感覚だと思います。

いろいろお伝えしたいんだけれども、このレースは旅。だからもう楽しんで欲しい、それに尽きます。楽しむと言っても多くの選手は、今まで経験したことのない苦しい局面に立たされると思うんですよ。それを真摯に受け止めてそれに対して自分はどうするかっていう、そこは大きな一歩なんですね。それを感じてもらえる非常に大きなチャンスでもあるんで、苦しい時には無理矢理にでも笑ってね、僕はいつも"楽しむ勇気"って言葉をサインに書いてるんですけど、苦しい時ほど心を良い方向に、前向きな方向に持って、行けるところまで。必ずしも完走することだけが全てではないと思う。自分の限界点を見つけたところでやめるっていうのもレースの大きな、重要なポイントでもあると思うので、行けるところまで楽しんで欲しいなっていうふうに思いますね」

UTMF[ウルトラトレイル・マウントフジ]
日時:5月18日(金)15時スタート
距離:156km
制限:48時間
募集:800人
スタート&フィニッシュ:山梨県富士河口湖町 河口湖大池公園

STY[静岡から山梨]
日時:5月19日(土)10時スタート
距離:82km
制限:26時間
募集:1,200人
スタート:静岡県富士市 富士山こどもの国
フィニッシュ:河口湖大池公園

【UTMF USTREAM 配信決定!!】
5/18-20 Ultra Trail Mt Fuji
UTMFスタートとゴールの様子をUTMF USTREAM Channelにて配信致します。歴史的なシーンを是非ライブ中継でお楽しみ下さい。
「UTMF USTREAM Channel」
http://www.ustream.tv/channel/utmf

(写真 上原源太/文 松田正臣)