トレーニングをしていると、筋肉のつき具合など外見の変化はもちろん、肺活量があがったり血行がよくなったりと、身体の内側の変化を感じて嬉しくなることがあります。
でも、身体の内側の変化って、具体的にはどのようにしてもたらされるのでしょうか。
そもそも目にすることのできない、わたしたちの身体の内側にある内臓は、どんなカタチをして、どんな働きをしているのでしょうか。
知っているようで意外と知らない、身体のメカニズムを紹介するonyourmarkの新シリーズ、それが「OYM 家庭の医学」です。1回目は呼吸を司る静かなる大物、肺についてひも解きます。

肺は意図的にコントロールできる珍しい臓器である。

臓器は基本的に意識的に動かすことはできない。「便秘しそうだから、大腸をもっと動かそう」とか「お酒を飲みすぎたら、肝臓の馬力を上げよう」といった調整は残念ながら行えないないのだ。代わりに交感神経と副交感神経からなる自律神経が臓器を休みなく動かし、その機能を調整する。ところが肺は臓器でほとんど唯一、意図的に動かせるユニークな存在。呼吸に関わる肋間筋と横隔膜などをまとめて呼吸筋というが、呼吸筋は腕や脚の筋肉と同じように自分の思い通りに動かせる随意筋。ヨガやピラティスなどで行う深呼吸は、呼吸筋を大きく動かした結果だ。むろん眠っている間も呼吸が止まらないことからわかるように、肺も他の臓器と同様に普段は無意識に働いている。息を吸って肺胞が膨らむと、その壁に埋められたセンサーが感知。その情報を副交感神経と関わり深い迷走神経が脳の呼吸中枢(延髄)に伝えると吸息にブレーキがかかり、呼気に切り替わる。その結果肺胞が萎むとセンサーからのシグナルが途絶え、呼吸中枢が「息を吸え」という指令を出し、再び吸息が切り替わるのだ。

肺は自ら伸縮できない。

ランやウォーキングを有酸素運動というけれど、酸素が使えなくなるとヒトは死んでしまうから、その意味では人生はノンストップの有酸素運動。そこで重要な役割を果たすのが肺だ。左右一対の肺は、肋骨や胸骨などからなる胸郭という鳥かごのようなフレームに収まる釣り鐘型の臓器。肺が膨らむと気圧が下がり、高気圧から低気圧へ風が吹くように、酸素を含む空気が流れ込む。逆に肺が萎むと気圧が上がり、呼吸で生じた二酸化炭素を含む空気を排出する。そう聞くと肺が自ら伸縮しているように思えるが、肺はゴム風船のような性質の組織で伸縮できない。代わりに伸縮を行うのが、胸郭と横隔膜。肋骨の間にある肋間筋(外肋間筋)が肋骨を引き上げると同時に、胸郭の底にある横隔膜が収縮して下がると肺が膨らみ、酸素が入る。そして肋間筋(内肋間筋)が肋骨を引き下げ、横隔膜が緩んで上がると肺が縮み、二酸化炭素が出ていく。呼吸が荒くなると胸が上下して「肩で息をする」のは、斜角筋や胸鎖乳突筋などの首すじの筋肉まで動員し、肋骨を上下させて肺を大きく伸縮させるからだ。

一度の呼吸でペットボトル1本分を交換。

呼吸は毎分16〜20回のペースで規則的に行われており、1回あたりペットボトル1本分(約500ml)の空気が肺を出入りしている。この働きを「換気」と言うが、このうち呼吸の目的である酸素と二酸化炭素の交換に関わるのは3分の2程度。残りの3分の1は鼻&口と肺をつなぐ気道を行き来するのみで、肺に入らないので呼吸には関与しない。この気道を満たす空気量を死腔(デッドスペース)量と呼ぶ。呼吸が浅いと息苦しくなるのは、死腔の空気の交換だけで終わるからだ。規則的な呼吸が乱れると、呼吸困難や胸苦しさでパニックを起こす「過換気症候群」(ハイパー・ベンチレーション・シンドローム)に陥ることもある。これは二酸化炭素を過剰に排出しすぎたため、通常は弱アルカリ性の血液のpHが極端なアルカリ性に傾いた結果起こる異常。血液のアルカリ度が高まるのは、酸性を示す二酸化酸素が減った結果である。発作が起こったらビニール袋を口に当て、自分の吐いた息を吸い込むと二酸化炭素が体内に戻り、血液のpHバランスが整って呼吸が元通りになるにつれて症状は回復する。

テニスコートの1/3のスペースでガス交換を行う。

酸素を外気から取り込み、組織から回収した二酸化炭素を外気へ出す。肺で行われる呼吸(外呼吸)で中心的な役目を担うのが肺胞。肺胞は直径1000分の2〜3mmほどの小さな袋。ブドウの実が枝に房状につくように、気道の終点である呼吸細気管支にぎっしりついている。肺の容量の85%以上は肺胞で埋め尽くされており、その総数は3〜5億個にも及び、肺胞の表面積は合計100㎡前後でテニスコート(約260㎡)の1/3以上にもなる。肺胞には毛細血管が網目状に絡みついているが、毛細血管の壁も肺胞の壁もともに1万分の1mmと極めて薄いため、酸素と二酸化炭素は自由に行き来できる。酸素と二酸化炭素の交換は「拡散」という自然現象を利用して行われる。拡散とは濃度が高い方から低い方へ気体が移動する現象。肺胞内は酸素濃度が高く、二酸化炭素濃度が低い。反対に毛細血管を巡る血液は酸素濃度が低く、二酸化炭素濃度が高い。ゆえに肺胞から酸素が自然に血液へ入り、血液から二酸化炭素が肺胞へ出ていく。血液は空気に触れると固まるが、この方法なら固まらずに済むというワケ。

(文 井上健二/イラスト 清水将司)