カナダ、ユーコン準州からこんにちは。
先週末から、半年ぶりにこの地に来ています。昨日、9人のメンバーと共に、犬橇オーロラキャンプを終えました。犬橇は、一見乗っているだけのように見え、実は意外と全身を使う運動なので、情けないことに、今日は体中の筋肉がギシギシしています。
今は夜8時。まだまだ明るい青空の下、地ビール、ユーコンゴールドを飲みながら、パソコンに向かっています。

今回の訪問で一番印象的なのは、冬から春へのダイナミックな変化です。1年前、3月初頭にここを訪れたときは、気温はマイナス39度、日差しも弱々しく、まだまだ冬でした。
ところが今年、春分の日を過ぎた3月末のユーコンは、日差しの強さ、太陽の角度、夜9時半まで暗くならない日照時間、クラックが入り氷が融け始めている川など、すべてが、すっかり春の様相なのです。気温も日中はプラス5度まで上がり、寒さよりも日焼けを心配しなければなりません。

お世話になっている犬小屋には、生まれたばかりの4匹の子犬がいます。母親犬マリーのお乳の出がよくないため、スタッフのニーナが、小さな哺乳瓶でミルクを1日4回与えています。子犬たちはミューミューとかわいらしい声で鳴きながら、日々むくむくと成長しています。
もう3週間もすれば、グリズリーが冬眠から醒め、活動を始めるよという話も、現地ガイドから聞きました。
ここにいると、自分の心にどんどん力が漲ってくるのは、子犬や熊の話も含め、日々力強くなる太陽の光の下、大地全体から醸し出される生命力を感じるからでしょうか。

さて、肝心の犬橇の旅ですが、メンバー全員がそれぞれ4頭引きの橇を操り、1日に40キロ移動しました。夜は原野でキャンプをし、焚き火にあたり、少しスモーキーなお茶を飲みながら、オーロラをゆっくりと待つ日々。
40キロの距離を移動するのに、約4時間かかります。時速10キロ。言ってみれば、自分がマラソンを走っているときのようなスピード感で、景色が流れていきます。軟らかい砂岩が削れてできたタキーニ川の崖、雪の上にナキウサギの軽やかな足跡が点々付いたスプルースの針葉樹林帯。中心となる街、ホワイトホースから車で1時間離れただけの場所にいるのに、旅の間、誰にも会うことのない、山も川も空も、見渡す限りの景色を独り占めできるスケールの大きさを実感できるのが、この旅の醍醐味です。

そんな贅沢な景色を楽しみながらも、一番脳裏に残っているは、橇を引いてくれている犬たちの後ろ姿なのです。左だけ垂れた耳、ふさふさとした尻尾、雪の上を力強く蹴る肉球。普段、格段に犬好きという訳でもない私ですら、ここまで犬に惚れ込んでしまうのは、何日間も共に旅をしていくことで生まれてくる、親近感と信頼感なのでしょうか。犬橇は、道具だけに終らない、何とも不思議な乗り物です。

今、宿で、この原稿を送るため、無線LANのパスワードを尋ねたら、「spring’s here」と、宿のマネージャーが、ウインクしてくれながら教えてくれました。

日本のように桜は咲かずとも、北の国でも、誰もが短い春を満喫しています。
それでは、また!

写真・文 青崎 涼子(あおさき りょうこ)
1972年生まれ、東京出身。仕事で訪れたことがきっかけで極北の大自然と人々の生き方に魅せられ、アラスカのアウトドア・リーダーシップスクールNOLSへ入学。文明から離れ原野や氷河を旅しながら、背中に背負った30キロの荷物一つで生きる術を学ぶ。
現在は、極北の大地を自分の足で旅するとともに、ヨーロッパやカナダでのトレッキングガイドや、極北の自然を楽しめるアドベンチャーツアーのコーディネートを行う。
ブログ「青の洞窟」(http://aonodokutsu.blogspot.com/
ツイッター( @wildernessryoko )

【極北に魅せられて アーカイヴ】
#01 Labour of Love カナダで犬橇 前編
#02 Believe in your Team カナダで犬橇 後編
#03 氷河への扉 アラスカでシーカヤック
#04 ブルーベリーパンケーキ (ユーコンでカヌー)
#05 都会のビーバー(アラスカでバックパッキング)
#06 Less is More アラスカに生きる人々
#07 Mt.Logan 氷河の上に閉じ込められたとき
#08 空と大地との狭間で/ブッシュパイロット