前回は、1週間のトレーニング・メニューを考えるときには、回復のための日を挟みながら量と強度に変化をつけたメニューを配置するのが効果的、というお話でした。今回はミクロの視点から少しズームアウトし、4週間(約1ヶ月)というやや中期的な時間軸の中で、1週間メニューの量と強度をどのように変化させていくのが効率的か?というお話をしたいと思います。

座学12では、目標レースにコンディションのピークを持っていくために、大きな周期の中に目的の異なるサイクルをレイアウトしていく、と紹介しましたが、目的別に4週間(~12週間)ほどで期分けしたトレーニング・サイクルのことを「メゾサイクル」といいます。

<メゾサイクルというトレーニング・サイクル>

メゾサイクルには、ベース期、ビルド(スピード)期、テーパー期、レース期、そしてレースが終わり次のトレーニングを始めるための移行期、ベース・トレーニングの前の準備期、などといった種類があります。マラソン・トレーニングを例に挙げると、最初にウォーキングしたりサイクリングしたりするなどゆっくりと身体を動かす準備期、ジョギングの距離を徐々に伸ばしていき、ランニングの基礎的な体力やスタミナを養うベース期、スピードやスピード持久力を養うビルド(スピード)期、レース強度をそのままに量を減らしていくテーパー期、そしてレース期です。レースが終われば回復の期を挟んでまた次のレースに向けた準備期、ベース期というサイクルになります。

このように、目標レースで完結する一つの大きなサイクルを「マクロサイクル」といい、ベテランの市民ランナーは1年に2つか3つのマクロサイクルを作ることが多いようです。目標レースが1つの場合は単一マクロサイクルになります。

<メゾサイクルの量質変換のプログラム>

座学12で紹介した「マクロ、メゾ、ミクロサイクルと量質変換」というグラフを見ると、メゾサイクルがベース→ビルド→テーパー→レースと変わるにつれて、強度と量の曲線が上下に変化しているのが分かります。これは、ベース期が最もトレーニング量が多く、ビルド期になるとトレーニング量は徐々に減る代わりに強度が高くなっていき、テーパーになると強度はそのままに量だけ減っていく、というような時間軸と強度・量の変化の関係を表しています。

マクロサイクルからみたこの曲線は大きなうねりのように見えますが、実際にはミクロサイクルの中では細かく波打ち、メゾサイクルの中でも増えたり減ったりしながら、全体的には緩いカーブを描きます。そして、ここには描いていませんが、疲労の波と、調子の波がこの上に重なってきます。

次に紹介したいのが、メゾサイクルの中でのミクロサイクルの量や強度の変化のさせ方です。

<メゾサイクルの段階負荷方式>

メゾサイクルの中でミクロサイクルのトレーニング量や強度を変化させるには幾つかの方法がありますが、もっとも代表的なものは段階負荷方式です。

ベース期には、1週目よりも2週目、2週目より3週目とトレーニング量を増やしていき、4週目には2週目か1週目と同じくらいまで量を減らします。反対にテーパー期は、1週目よりも2週目、2週目よりも3週目とトレーニング量を減らしていき、目標レースや試合に向けてコンディションのピークを作り出します。

ビルド(スピード)期であれば、トレーニング量は維持させるか、やや減らしながら、1週目より2週目、2週目より3週目と、強度を増やしていきます。持久的スポーツの場合は強度を増やすとその分、量を減らさなければいけないので、上げるとしたら最大スピードの3~6%の範囲にすべき、という研究があります(Ozolin 1971)。走速度で言えば1km 5秒~10秒というところですね。

ここでポイントとなるのは、強度(量)の上げ方が、つねに右肩上がりではなく、3週上げたら1週下げるところです。4週目に一度減らすのは、次のさらなる強度(量)の増加に向けて、生理的、心理的な余裕を蓄えるという意味があります。また疲労の波を下げ調子の波を上げるためでもあります。

前のメゾサイクルで強度(量)に身体が適応出来ていたら、次のサイクルの1週目は前のサイクルの2週目と同じくらいの強度(量)からスタートさせます。このように、パフォーマンスは中・長期的に段階的に上げていきます。強度(量)を上げた後に、身体が適応出来なければ余裕度が上がるまで同じ強度(量)で繰り返して行きます。

<その他の負荷法>

一年を通じて一定の距離とペースでトレーニングを続けている市民ランナーのトレーニング・サイクルには準備期とレース期しかなく、パフォーマンスが安定して変わらないプラトーと呼ばれる状態を一年中キープし続けます。このような標準負荷法では、極端に調子を崩すことはない代わりに、ピーキングを作り出すことは難しく大幅なパフォーマンス向上も求められません。

一方で、国際レベルのアスリートのメゾサイクルは、1週目から3週目をほぼ限界ギリギリの強度・量でトレーニングをこなし、4週目で強度・量を軽くする、という均一負荷方式。これは、質・量ともにハイレベルのトレーニングを必要とするトップ・アスリート専用のトレーニング方法です。安全に楽しくパフォーマンスをアップさせていきたいという市民アスリートにとっては、ここまでハードなトレーニングは適当ではないでしょう。

トレーニング・プログラムのデザインのお話はいかがでしたでしょうか? 次回はちょっと話題を変えて、マラソンランナーやトライアスリートたちがレース前に行うカーボローディングと炭水化物ダイエットの意外な関係をご紹介します。

(文 肥後徳浩)

【トレーニング座学 アーカイヴ】
#01 運動強度と主観的なきつさ
#02 エネルギー代謝(1)エネルギーの正体
#03 エネルギー代謝(2)糖と脂肪
#04 エネルギー代謝(3)筋肉のタイプ
#05 乳酸とスポーツの関係、LT
#06 LTとOBLA
#07 マラソンとLT
#08 トレーニングの原理と原則
#09 トレーニングの頻度と超回復
#10 トレーニング強度 ベースとエンデュランス
#11 トレーニング強度 スピードトレーニング
#12 トレーニングのデザイン(1)
#13 トレーニングのデザイン(2)線で描くトレーニング・サイクル