前回は、持久系のトレーニングでは強度を変えることで目的に合わせたトレーニングが出来る、というお話でした。今回のテーマは「スピード・トレーニング」。やると速くなるらしいけど、どんな人がやるべき? やらないべき?初歩的な疑問からトレーニングのバランスまで紹介します。

ビギナーの多くは、スピード・トレーニングなんて自分には無関係、と思うかも知れません。しかし、運動習慣があって身体がスポーツに慣れてきている人なら、スピード・トレーニングを行うことで身体の機能が向上し、いままでのペースが楽に感じるようになったり、より速く走れるようになったりします。しかし、スポーツを始めたばかりで基礎的な筋力や心肺機能が備わっていない人や、健康維持やフィットネスのためにスポーツを楽しんでいる人には必要のないトレーニングと言えるかもしれません。

<スピード・トレーニングのメリット>

スピード・トレーニングを行う利点としては、心肺機能の向上や最大酸素摂取量(VO2Max)の向上、スピードやパワーの強化、LTレベルの向上などといった、身体の様々な機能が強化されることです。さらに、速筋線維(Type IIb)の一部が持久的性質を持つ中間筋線維(Type IIa)に変化し、スピード持久力が向上するというメリットもあります。
「筋肉のタイプ」参照)

<レース終盤の失速を防ぐ?>

マラソンなどのレース後半で、遅筋線維が疲労して収縮しなくなると、代わりに速筋線維が動員されるようになります。速筋線維はエネルギーを取り出すために糖(グリコーゲン)を大量に分解してしまうので、突然ハンガーノック(グリコーゲンが枯渇し動けなくなる状態)を起こすことがあります。マラソンはスタートからゴールまでエネルギー(糖と脂肪)が一定に減り続けるわけでなく、主動筋の線維が切り替わる終盤に、糖の消費が加速します。これが「35kmの壁」の原因の一つです。

しかし、もしあらかじめ速筋線維(Type IIb)を、持久的性質を持つ中間筋線維(Type IIa)に変化させておくことが出来たら、遅筋線維が疲労した後も、中間筋線維で脂肪や乳酸を酸化させ続けることで、糖の消費を抑えながら粘りの走りが出来ると考えられます。これだけでも、マラソン・ランナーにとってやる意味があると言えますね。(もっとも、遅筋線維の筋持久力を向上させる長時間のベース・トレーニングも効果的ですが!)

<スピード・トレーニングのデメリット>

このようにメリットだけ見ると、パフォーマンスを向上させたり、マラソンのタイムを縮めたりしたい人にとって、魔法のトレーニングのように聞こえるかもしれませんが、打ち出の小槌も振りすぎは良くないわけでして、やはりスピード・トレーニングも、安全に、効果的に行える時間はとても限られているのです。

もっとも注意しなければならないのは、怪我や故障のリスクが高まるということです。初めて取り組むトレーニングでは、ちょっと強度が低いくらいから始めて、徐々に上げていくくらいの余裕が大切です。さらにやり過ぎてオーバートレーニングになってしまうことも逆効果。超回復のタイミングをうまく見計らいながら行いましょう。

スピード・トレーニングは、筋肉にも内蔵にもダメージを与えます。休養が十分でなければ、次のトレーニングを行うべきではなく、オーバートレーニングによる怪我、不調、モチベーション低下、睡眠不足などに気をつけながら行わなければならないのです。

<全体のバランスを見てスピード・トレーニングを取り入れる>

スピード・トレーニングが効果を発揮するのは、ベースやエンデュランスのトレーニングでしっかりとした土台を築いた状態で、適切な強度と時間で行うことです。ピラミッド同様、土台がしっかりとしていれば、より高く、大きなものにすることが出来ます。

適切なトレーニング強度と時間の割合は、運動経験やレベル、トレーニングの目的によっても大きな個人差がありますが、ビギナーの目安としては、
ベース…60%
エンデュランス…30%
スピード…10%
程度と考えましょう。平均で週に5時間トレーニングをする人なら、スピード・トレーニングにかける時間の目安は30分程度、ということになりますね。あとはトレーニングの時期や、トレーニングの進行状況によって、少しずつ調節していくのが良いと思います。

次回のテーマは、トレーニングのサイクル(期分け)について。レースに向けた計画の立て方の例を紹介します。

(文 肥後徳浩)

【トレーニング座学 アーカイヴ】
#01 運動強度と主観的なきつさ
#02 エネルギー代謝(1)エネルギーの正体
#03 エネルギー代謝(2)糖と脂肪
#04 エネルギー代謝(3)筋肉のタイプ
#05 乳酸とスポーツの関係、LT
#06 LTとOBLA
#07 マラソンとLT
#08 トレーニングの原理と原則
#09 トレーニングの頻度と超回復
#10 トレーニング強度 ベースとエンデュランス