前回は、私たちは食べ物を食べ、糖と脂肪からATPを作りそこからエネルギーを取り出しているお話をしました。糖と脂肪はどちらもATPを作るエネルギー源であることは同じですが面白い違いがあります。その特徴を幾つかのポイントに分けて比べてみます。

<糖と脂肪が蓄えられる場所>
糖(炭水化物や糖類)は消化器官で分解された後グルコースという分子になり、「グリコーゲン」(グルコースが幾つかくっついたもの)という形で「筋肉」と「肝臓」に蓄えられます。筋肉、肝臓、そして血液が十分な糖で満たされると、余った分は「脂肪」という形で皮膚の下(皮下脂肪)や内臓の周り(内臓脂肪)に蓄えられます。

<水に溶けるかどうか?>
砂糖がコーヒーによく溶けるように糖は水に溶けます。糖は体内では水に溶けた状態で貯蔵されていて糖と溶液(水)の割合は一定に保たれています。水に溶けるということは血液を伝って全身にエネルギー源を運びやすい=利用しやすいのです。また体内の糖が使われて無くなると溶液の水は不要になり体外へ排出されます。

水に油を垂らすと分離してしまいかき混ぜても溶けないことからもわかるように、脂肪は水に溶けません。脂肪は脂肪細胞に蓄えられていますが、エネルギーとして使うためには筋肉細胞へ移動させなければなりません。しかし水に溶けない脂肪を血液を伝って運ぶためには、酵素(タンパク質)の働きが必要となるため手間がかかるのです。

<構造の違い>
分子構造上、糖からエネルギーを生み出す過程の方が、脂肪からエネルギーを生み出すよりも反応を速く進めることが出来ます。運動強度が高くなるとき、例えばダッシュのような運動をしたら糖の分解が多くなります。

<貯蔵量>


体内の糖の貯蔵量は(エネルギー換算にして)筋肉に約1500kcal分、肝臓に約500kcal分、合わせて約2000kcal分です。一度筋肉に貯蔵された糖は再び移動することはなく、肝臓に蓄えられた糖は血液を伝って全身に運ばれます。血糖値とは血液中のグルコースの濃度のことで常に一定に保たれます。

脂肪1kgからは9000kcalのエネルギーを作ることが出来ます。「体重×体脂肪率×9000kcal」でみなさんの脂肪の持つエネルギーを計算してみてください。例えば、体重60kg、体脂肪率20%の人の脂肪量は12kgなので、エネルギーに換算すると10万kcal以上です。

脂肪10万kcal以上という量は糖2000kcalに対して50倍以上です。糖は水に溶けた状態でなければ貯蔵出来ない、つまりかさばるので沢山は蓄えられず、貯蔵には脂肪のほうが無駄なものが要らない分沢山蓄えておけるという訳なのです。

<エンデュランス・スポーツに必要なカロリーの量>
こういったカロリーを実際のスポーツに置き換えてみましょう。ランニングの消費カロリーは(体重や強度にも寄りますが)およそ体重1kg、1kmあたり1kcalですから、体重60kgの人がフルマラソンを走るのに必要なカロリーは2500kcalになります。

また本格的な登山では1日に5000〜7000kcal、ロングのトライアスロンでは7000kcalくらい消費しますから、長時間に及ぶエンデュランス・スポーツでは体内の糖だけではまかない切れないことが分かると思います。前回書いたとおり実際には糖だけではなく脂肪も同時に使っているのですが、それにしても糖が足りなくなることは予想がつきますよね。

糖と脂肪の利用の割合は運動強度によって変わってくると書きましたが、仮に1:1とすれば、7000kcalの3500kcalは糖から、3500kcalは脂肪から取り出すということになります。糖は体内2000kcalしか無いわけですから、1500kcalは外から補給してくる必要があるということになります。詳しくは競技毎に具体例を取り上げて後日書きたいと思います。

<使われる筋肉のタイプ>
筋肉には大きく分けて「速筋」と「遅筋」という二つのタイプがあります。速筋は主に糖をエネルギー源とし、遅筋は脂肪をエネルギー源とします。速筋では酸素を使わず素早く糖からエネルギーを取り出せるのですが、このときに副産物として「乳酸」が出来ます。次回は、「速筋」と「遅筋」、そして両方の性質を持った「中間筋」という筋肉のタイプ、そして速筋で出来た「乳酸」が遅筋で再びエネルギーとして使われるメカニズムを紹介します。

(文 肥後徳浩)

※肥後さんによる座学編の次回のテーマは「エネルギー代謝(3)筋肉のタイプ」です。10月5日のアップを予定しています。

【トレーニング座学 アーカイヴ】
#01 運動強度と主観的なきつさ
#02 エネルギー代謝(1)エネルギーの正体