2011.09.05 - 00:00

写真家 山内悠:地上3000メートルの暮らしが捉えたもの

4年もの歳月をかけて、延べ600日間、富士山の7合目に位置する山小屋で働きながら“夜明け”を撮り続けた写真家、山内悠さん。昨年、それらをまとめた写真集『夜明け』を発刊。現在はシリーズの全国巡回展をおこなっています。 「震災前に撮った『夜明け』の成り立ちを、震災を受け、改めて捉え直した」そんな本人の言葉をきっかけにして、このインタビューはおこなわれました。

写真を逆さまにしたら、宇宙空間から地球を撮影したように見えた

山での暮らしと出会い 偶然撮れた一枚の写真からはじまった

僕が地球と宇宙の境界線である雲平線(うんぺいせん)に昇る日の出を撮り始めたのは、山小屋に4年間通った中の、2年目からだったんです。一年目は、山小屋の管理をしているおじさんが被写体で。地上3000メートルから眺める日の出よりも、地上3000メートルに暮らす人間に惹かれたんです。
それが、一年目に偶然に撮れた一枚の写真をきっかけにして、山に暮らす人から被写体が夜明けへと変わっていったんです。

地球そのものが撮れた 現像してベタを焼いて気づく

下山して、すぐに撮りとりためたフィルムを現像に出したんです。山の上での撮影は、酸素が薄いこともあって意識が朦朧としています(笑)。下山して、現像して、ベタを焼いて、はじめて自分が何を撮ったのかを知るんです。何百枚と撮った写真の中から、偶然にもこの写真を発見した。露出がアンダーで、雲の部分が真っ黒になってしまい、ただそのおかげで、空の部分が鮮やかに写り、逆さまにすると、まるで、宇宙空間から地球を撮影したように見えた。宇宙空間の事をいうと天地や上下なんてものは存在しない。それを取っ払う事でまさに宇宙空間を表現できるという事に気がついた。3000メートルの山小屋に暮らし、目の前に広がる雲の上の世界をみながら、どこかで自分が、宇宙の真ん中に立っているような感覚だった、その感覚を映した一枚だと感じたんですね。この一枚をきっかけに、僕は2年目からは夜明けだけを撮影するようになっていったんです。

人の営みの原点 地上3000メートルの暮らし

3月11日は都内の自宅にいて、西表島へ旅立とうと思っていた矢先のことでした。震災があってその旅をとり止め、東京に滞在しながら、何度か被災地にも行きました。そんな中で、改めて、夜明けシリーズがどんな風に制作されたのかを考える機会があったんです。
制作していた4年間、夏は富士山で写真を撮り、冬は西表島に滞在。そして、東京とを行き来しながらのサイクルでした。
地上3000メートルの山小屋には、人間以外には動物も植物もほとんどいません。もちろん、水道は通っていません。生きるためにもっとも重要な水は、雨水を利用します。雲の上の世界なので、一度沸騰はさせますが、簡易的なフィルターさえ通せば無菌と言われています。(今年から黄砂と放射能の影響のため、ろ過機を導入したそう)電力はソーラーパネルで、時期によってはプロパンガスをブルドーザーで運んでいました。


山小屋での生活が『夜明け』を生み出した

山とは打って変わって 動物的な島での暮らし

山の暮らしとは対照的なのは、西表島での暮らしです。植物も動物もさまざま生息していて、海へ行けば魚が捕れて、山へ行けば木の実や、ときにイノシシも捕れました。家の周辺も手入れを怠ると、すぐにジャングルのように生い茂ってしまう。
富士山と西表島。山と島の暮らしどちらにも言えるのは、そこで暮らす人間は“生かされている”ということです。そこに暮らす人間がその場所のことを知り尽くし、知恵を絞らなければ生きてはいけない。山小屋は雪崩や落石を受けない場所に建てられていますし、雨が降らなければ、水さえ手に入りません。
都会だけに身をおいていると、僕らが地球という惑星によって生かされていることに簡単に気づくことはできないかもしれません。または、今回の震災をきっかけにそれに気づけた人も多いと思います。

“生かされている” その場所を知り尽くし、共存する。

夜明けの撮影をしているとき、ときたま雲の割れ目から地上を垣間みることができました。そこからは東京の街並をみることさえできたんです。

雲平線の上には無限に広がる宇宙が存在していて、その下に僕らは存在している。地球のリズムや呼吸によって僕らは誕生し、そのひとつである。
僕の夜明けシリーズは、そんな一面を捉えていた写真だと、改めて気づき、捉え直すことができたんです。

自宅でインタビューに答える山内悠さん

[お知らせ]
山内悠 写真展 「夜明け」全国巡回展中!
名古屋・YEBIS ART LABO
/2011年8月20〜9月11日

北海道・ART STUDIO TOBIRA
/2011年9月17日〜10月31日

[特別スライドショー]
富士山・須走登山道七合目山小屋太陽館
/2011年10月1日〜4日(毎夜上映)
※週末は混雑の恐れがありますので、特別スライドショーでお越しの方は平日をおすすめします。

詳しくはコチラのサイトで!

山内悠 Yu Yamauchi
1977年兵庫県生まれ。独学で写真を始める。2004年より本格的に作品制作を続け、2010年写真集『夜明け』(赤々舎)を発売。現在、夜明けシリーズの全国巡回展を開催中。受賞歴 color imaging contest 2006 特選受賞、第31回写真新世紀 佳作(野口里佳選出)、International Photography Award 2009 Fine Art部門Honorablemention受賞。

このインタビューは映像メディア『DEFRAG』と同時に行なわれました。 映像でのインタビューの模様はコチラからご覧いただけます。

(文 村松亮 / 撮影 山内悠 ポートレート撮影 松田正臣)