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SURF REALIZATION
信國太志
#03 調和と同調の向こうにあるもの

さて今回はサーフィンとヨガの共通点をまた違った角度から語ってみます。

もちろんヨガは一人でもできるのですが、都会のヨガ教室に限らず、インドでもそれは一人の師からグループ・オブ・ピープルに伝えられます。
当然、そのグループの皆を知る由もなく、初対面の人と隣り合わせになることも。
友人はインドにてふと横をみるとナタリー・ポートマンが練習していたそうです。
その柔軟性が映画『ブラック・スワン』におけるバレエに結びついたのかもしれませんね。

そう、サーフィンとヨガの共通点とは、見知らぬ集団の中の個を自覚する局面を経験するということ。特にヨガの“レッドスタイル”という練習スタイルでは集団で同じポーズを経験していきます。

ゲオルギイ・グルジエフという思想家の体験を映像化した『注目すべき人々との出会い』という映画における、奇妙な舞踏シーンをご覧になられたことはありますか? 
僕はN.Y.のクラブシーンがまだ危険と快楽に満ちていた頃に、黒人ゲイ500人と一人の白人男性がバスストップというステップを”LOVE IS THE MESSAGE"というハウスアンセム(聖歌)にのって踊る姿を目撃したことがあります。

サーフィンにおいては、ひとつのうねりに我こそはと群がる姿がひとつの群れを成し、魚群の一部になった感覚を経験します。

ヨガにおいては基本、皆がピースフルな体験を求めているのでトラブルはありませんが(女性は更衣室でのゴシップ合戦があったりするそうですが。これもヨガの浄化作用なのか練習後にひたすら人の悪口を言い続ける女性を一人知っています)
サーフィンに関しては360°の視点で周囲の気配に敏感にならないと、事故にあうか陸上での格闘にまで発展します。

このようにいずれも周囲との調和が求められるスポーツなのですね。

なんて偉そうなこと言ってますが、僕は無謀に突っ込んで行くヘタクソとして仲間にも長いこと煙たがられてましたし、怖いオジサンに上がらされたこともあります。しかし特にサーフィンにおいて難しいのは、行くときは行かないといけない。さもなくば延々と波に乗れなくなってしまいます。

集団に溶け込みながらもかつ確実に個でなければならないバランス。
それは日常の会社や学校とも同様だと言えるでしょう。

周囲に揉まれながら同調のなかで個性を発揮する術を学ぶ。
何だか人生みたいですよね。

本当にサーフィンの上手い人はここぞという波を確実にメイクし節度をもって他者に波を譲り、宮沢賢治の詩ではないけれど、いつも静かに笑っている人です。そんな人に私もなりたくてサーフィンを続けているのかもしれません。

そして陸上でも静かに笑っていられたらなんて素敵なんでしょう。僕が初めてジェリー(・ロペス)さんに見たのも、まさにそんな笑顔でした。

(写真 Barry Silver)

信國大志/TAISHI NOBUKUNI
1970年熊本県生まれ。1994年渡仏、ジョン・ガリアーノの元で働く。1996年セントマーティン美術学校、修士過程(ウィメンズウェアー)修了。 1998年TAISHI NOBUKUNIを設立。2004-2008年、TAKEO KIKUCHIのクリエイティブ・ディレクターを務める。2005年毎日ファッション大賞新人賞受賞。現在はBOTANIKA taishi nobukuniを手掛けるかたわら、今秋銀座にオープン予定のテーラーの準備を進めている。

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